SIDE−早川②
異形の化け物はクラスメイトたちの手により葬られた。
「クッ……情けない……私は……私という人間は……こんなにも弱かったのだな……」
私は自分の弱さを思い知らされ、自己嫌悪に陥った。
「サクラ、仕方ないよ……」
「私たちは普通の女子高生。サクラの……私たちの対応が普通」
「普通……。普通……か」
親友に慰められ、私は自分が特別な存在ではなく、普通であることを再認識した。
その後、獅童の呼びかけにより再びクラスメイトたちで話し合うことになった。
こんな状況なのに、冷静にクラスメイトをまとめようとする――獅童。
普通……ではない、英雄とは彼のような人間を指すのだろう。
今後、この集団の上には獅童のような英雄が立つのだろう。普通の私はその流れに身を委ねよう。
肝心なときに怯え、震えることしかできなかった私は英雄の採決に身を委ねるのであった。
◆
話し合いの中で獅童は推測に基づいた不可思議な情報を教えてくれた。異形の化け物――ゴブリンを倒すと新たな力が与えられるらしい。
化け物を倒すと……魔法のような力が与えられる。
にわかには信じがたいが、シオリが言うには……これが『クラス転移』ならあり得る現象らしい。そして、シオリは、ゴブリンの存在と獅童が披露した不可思議な光――魔法から、私たちの身に降り注いだこの異常現象を『クラス転移』と断定した。
その後、怪我を負ったクラスメイトを治療するための回復魔法を求め、ゴブリンを討伐するクラスメイトが選抜されることになった。
そして栄えある回復役に選ばれたのは――立花佳奈。
親友であるトラブルメイカーの立花佳奈――カナが選ばれた。
その後、カナはクラスメイトの期待に応えて回復魔法を習得。怪我したクラスメイトの治療に成功した。
「魔法で怪我を癒す……か。獅童の推測は当たっていたようだな」
「ん? サクラは気付いていない?」
「――? 気付いていないとは?」
「推測を立てたのは獅童じゃなくて――松山」
「そうなのか?」
「獅童の言動を見たら明らか」
と言うことは、私が英雄だと思っていた獅童に身を委ねるのはではなく、松山に身を委ねることになるのか?
松山……どのような人物だったか?
松山は獅童と違ってクラス内で目立つ存在ではなかった。
「サクラ、マコト……場合によっては、この集団から抜けることも視野に入れた方がいい」
シオリが不穏な言葉を口にする。
「む? 松山は信用できない人物なのか?」
「松山の性格はよくわからないけど、松山が獅童を介して上に立つなら……まだ大丈夫」
「ん? どういうことだ」
「先生――大人が誰もいない状況で、これだけの人数をまとめることは普通できない」
「獅童ならできるんじゃないか?」
獅童は元々クラスの中心人物だ。文化祭でも、運動会でも……催しごとは獅童を中心に、このクラスは順調にまとまっていた。
「獅童なら可能かもしれないけど……」
「松山だと不安ということか?」
「違う。松山は多分人の上に率先して立つタイプじゃない。やるなら、今みたいに獅童を介すると思う」
「――? どういうことだ?」
「獅童以外のクラスメイトが上に立ったら危険……3人でこの集団から離れよう」
「わかった」
「シオリが言うなら了解だよー」
よく理解できなかったが、私とマコトはシオリの言葉に首を縦に振るのであった。
その後、松山の発見した川辺へとクラスメイト全員で移動することになった。
道中でゴブリンに襲われたが、佐伯を中心としたゴブリンを討伐しに行ったクラスメイトたちが、危なげなくゴブリンを撃退。
クラスメイトたちは安堵すると共に佐伯たちを称賛。
気付けば……この集団の中心は獅童から佐伯へと変わっていたのであった。
◆
川辺の近くに到達した私たちは各々仲の良いクラスメイトたちで固まって自分の寝床とも言うべきパーソナルスペースを構築することになった。
私とシオリとマコトは3人で固まって、寝床を作った。
「シオリ、さっきの件だが……」
「うん。危険な兆候」
「ってことは……3人で抜け出す?」
今、この集団の中心にいるのは獅童ではなく――佐伯だった。
「少し様子を見て、危険を感じたら抜けよう」
「危険とかあるのか?」
「佐伯はわからないけど……相澤たちが危険」
相澤は不良ではないが、粗暴で短絡的な性格のクラスメイトだ。暴走しても獅童であれば諌められるが……今はそのタガが外れている。
事実、先程のゴブリン撃退から……鼻息がかなり荒い。
「私たちを力で押さえつけるとか?」
「まだわからない。でも、可能性はある」
「うちはサクラとシオリが一緒ならどこでも平気かな? カナがいれば楽しくなりそうだけど……今は彼氏に夢中だからねー」
「カナは誘っても来ないだろうな」
「生き残るなら……信頼できるこの3人で動くのがベスト」
「それで、いつ抜け出すの?」
「少し様子見をして――」
と、今後の予定を話し合っていると、
「やふー!」
カナが私たちの元を訪れて来た。
「カナ……どうした?」
「ぴえん……なんかサクラっちがつめたいみたいな?」
「カナ、用事は?」
「カナも私たちと一緒の寝床がいいとか?」
「サクラっちはあーしに激おこぷんぷん丸? なんか怒らせるようなことしたっけ? マコトっちありりーぱ! でも寝床はとーじと一緒だから、ごめんねー」
「カナ、用事は?」
「あーしとサクラっち。マコトっちと、シオリっちはズッ友だょね?」
「そうだな。私はカナとは友人……いや、親友だと思っている」
「にはは! ありりーぱ! で、ズッ友からのお願いなんだけど……しばらく、とーじのことを見守ってほしいみたいな?」
「見守るとは? 佐伯は私たちよりも遥かに強いだろ」
「ううん……守って欲しいんじゃなくて、見守ってほしいてきな」
「佐伯の……カナの彼氏の意見に賛同しろってことか?」
「とーじは、とーじなりにいっぱい考えてるのー。とーじなりのやり方でクラスメイトみんなを守りたいと思ってるのー」
「佐伯なりのやり方とは?」
「あーしもよくわからないけど……えっとぉ……あーしはとーじもサクラっちたちも大好きなのー。だから……今は見守ってほしいのー」
カナは昔から勘だけは鋭かった。何かを察したのか、見守ってほしいの一点張りだ。
「私たちに隠しごと……或いは不利益をもたらしたら、約束はできない」
「おけまる! サクラっちたちが嫌な思いをしないようにあーしも全力でガンバるっしょ! サクラっちたちが怪我しても優先的に治療もするみたいな」
私はシオリとマコトに視線を向けると、2人は静かに頷いた。
「……わかった。私もカナのことは好きだから……今回だけはカナの言うとおりにする。でも、私たちに隠しごと、或いは不利益をもたらしたら、その限りではないからな」
「おけまる!」
カナはへらへらと笑いながら、大切な彼氏――佐伯の元に戻っていったのであった。
―――――――――――――――――――――――
(あとがき)
今回の話は難産でした……。(面白いのか? とも思いながら、投稿orz)
仕込みは終わったので、次回からは展開が加速する予定です。
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