SIDE−早川①

 ――!?


 一日の始まり――朝礼の最中に眩い光に包まれた私は見知らぬ森の中にいた。


 ――?


 朝礼の最中に眩い光に包まれ……森の中にいた?


 自分でも何を言っているのかよくわからない。


「さ、サクラ……!?」

「マコト!? どうなってるの?」

「んー、よくわかんない」


 親友の吉田よしだ真琴まこと――マコトは茫然とした様子で答える。


 周囲を見渡すと、草木が生い茂る森の中で、見知った集団――クラスメイトたちが困惑していた。


 クラスメイトたちは一様に不安な表情を浮かべ……仲の良い友人同士で集まり始めた。


「サクラ、マコト」

「シオリ、何が起きたの?」

「私にもよくわからない」


 もう一人の親友である藤野ふじの詩織しおり――シオリが声を掛けてきた。


「うげ……シオリにもわからないってお手上げじゃん……」


 学年で一番成績が優秀なシオリが首を振ると、マコトは肩をすくめて天を仰いだ。


 私には大切な親友がいる。


 運動神経バツグンのムードメーカー――マコト。


 マコトは、入学と同時にすべての運動部からスカウトを受けた、天才。


 冷静沈着な才女――シオリ。


 シオリは、身長が高いという理由だけでバレー部に誘われたが、経験者でもないのに徹底して論理ロジックを突き詰めることで、あっさりとスタメンの座を掴み取った、天才。


 そして、トラブルメイカーだけど、どこか憎めない――カナ。


 カナは、私たちの中では変わり種の存在だった。何かに秀でている訳ではないけど、一緒にいると楽しい親友だ。誰よりも自由奔放で、今は友情よりも愛情が大切らしく彼氏との時間を大切にしていた。


「サクラ、どうする……?」

「今回の件について何か知っているクラスメイトがいるかもしれない。成り行きを見守ろう」

「私もサクラの意見に賛成」

「オッケー! 本当に……ここは、どこなんだろうね?」


 首を傾げるマコトの問いに答えられる者は誰もいなかった。


 その後、クラスの中心人物である獅童とクラス委員長の古瀬を中心に話し合いが行われた。


 結果として、今私たちの身に起きた異常現象を説明できる者は誰もいなかった。


「……あり得るかも」

「え? シオリどうした?」

「馬渕と松山の唱えた“クラス転移”と言う説が真実かも」

「え? シオリは“クラス転移”って何か知ってるの?」

「当然。私はラブコメ専門だけど、インプット期間にファンタジー作品を読み漁った」

「え? え? どういうこと?」

「サクラとマコトは『カケ×ヨメ』を知らない?」

「かけよめ……?」

「『カケ×ヨメ』は小説投稿サイト」

「小説投稿サイト?」

「私はラブコメを専門に投稿しているけど、インプット期間にランキング作品を読み漁る」

「ふぁ! 投稿って……シオリって小説書いてるの!?」

「ふふ……今は電波がないから、マコトたちは読めないけどね」


 シオリがまさか小説を書いていたとは……まさかのカミングアウトに驚いた。


「シオリの書いていた小説っていうのも気になるけど……クラス転移は……えっと、松山が言うにはクラス単位で異世界? に、転移? されるって意味で合ってる?」

「合ってる。今起きてる現象がクラス転移じゃなかったら、色々と説明できない」

「どういうこと?」

「今、何時?」

「えっと……9時12分」


 私は腕時計を見て時間を確認する。


「朝礼が始まったのは8時30分。最後に残っている記憶は点呼のときだから……どれだけ遅くても8時35分。さっき私のスマホは確認したけど、サクラとマコトのスマホは電波ある?」

「ない」

「うちもないー」


 ポケットからスマホを取り出し確認すると、滅多に見れない圏外のマークが付いていた。


「現在、日本だと携帯電話の電波の人口カバー率は99%。森……じゃないけど、ここまで自然が豊かで私たちの学校で一番近くに当てはまりそうなのは、白山はくさん。でも、白山だと車で行ける範囲だと電波があるのは知ってるよね?」

「確かにそうだな」

「論理的に考えて、これだけの人数を誰にも気付かれずに電波の届かない森の中に運ぶのは不可能」

「だから……クラス転移?」

「もしくは、夢。或いは、集団幻覚。今の私たちが正常であると仮定するならば――」


 シオリの推測に集中していると、


「ギィ! ギィ!」

「ギィ!」

「「「ギィ! ギィ! ギィ!」」」


 森の奥から緑色の肌をした醜悪な見た目の生物が姿を現した。


「「「キャァァァァアア!」」」

「「「ウワァァァァアア!」」」


 周囲にいたクラスメイトたちが一斉に悲鳴をあげる。


 ――!?


 クラスメイトたちが悲鳴をあげた原因は、見知らぬ異形の化け物を目にしたから――否! その化け物が手にしていた刃物を目にしたからだった。


 私は幼少の頃から実家の道場で剣を振っていた。


 警察官の父からは、私の力は大切な人を守るために使いなさい。と教えられてきた。


 ――今!


 今! この時こそが! その力を使うときだ!!


 頭では理解している。


 心も友人を……クラスメイトを助けたいと思っている。


 しかし……身体が動かない。


 本物の敵――本物の殺意を目の前にして、私はすくんでしまった。


 何の為! 何の為に!! 私は剣を振るってきたのだ!


 動け……動け……動け!!


「サ、サクラあっちに隠れよう!」


 震える私はマコトに手を引かれ、木の裏へと身を隠す。


 クラスメイトたちの悲鳴が響き渡る中、私は親友と抱き合って震えていたのであった。 


―――――――――――――――――――――――

(あとがき)


いつもお読み頂きありがとうございますm(_ _)m


いかにもテンプレっぽい話になる予定だったのに……辻褄を合わせたら、なんかイメージと違う話になりました……orz

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る