拠点を作ろう!
引っ越しの準備を終えて、新たな拠点に辿り着いた俺たちは、拠点のレイアウトについて話し合うことになったのだが……。
「とりあえず、俺の意見としては……この洞穴を居住区にして、湧き水の出る洞穴を水飲み場、もう一つの洞穴を馬渕、沼田、ユコ用の作業場、もう一つの洞穴を倉庫にしようと思うが……どうだ?」
「えー! お風呂作ろうよ! お風呂!」
「はーい! 私もミユに賛成ー!」
「私も賛成ー!」
アキ、ミユ、アコの三人組が風呂場の確保を譲らない。
「今まで通り、濡れたタオルで身体を拭けばいいだろ。石鹸も馬渕と山田とサバイバル知識で作ってあるだろ」
常に異世界転移に備えていた馬渕と山田は様々な知識を持っていた。
石鹸の作り方もその一つだ。
植物の種から油を絞りとり、雑草を燃やして炭酸カリウムを作り、森に落ちていた変な殻を《火遁の術》で焼き上げることにより水酸化カルシウムを作り、様々な工程で混ぜ合わせることにより石鹸を作っていた。
匂いなどは元の世界で使用していた市販の石鹸には遠く及ばないが、今では必需品となっていた。
「風呂場を作るって言っても……作り方なんて知らねーぞ」
「あ、え、えっと……沼田くんと協力すれば……つ、作れるかもしれない……」
「う、うん……前に馬渕と二人で……一緒に設計したから……」
「へ? 作れるの?」
まさかの作れるらしい。女子が絡んでいるからなのか、沼田の言葉がたどたどしい。
「水を温めるのに、山田くんか、辻野さんか……ハルくんの魔法は必要になると思うけど……」
馬渕が言うには、沼田と協力して鉄と木を組み合わせれば……お風呂のようなモノは作れるらしい。
「それじゃ、水飲み場に風呂を作るか……」
「賛成ー!」
「やったね!」
「あぁ……お風呂……」
「ハル、風呂を作るのはいいが……そうなると、水飲み場はどうなる?」
「風呂を使用中は水飲み場を使えなくなるから……ペットボトルに常に飲料水を確保して、居住区に置いておくって感じになるのか?」
「他にも洗濯とかもあるから、色々とルールを決める必要がありそうだな」
ナツの言葉に俺は頷き、ハウスルールを話し合うことにした。
最初に決めたのはご飯の時間。
全員揃っての朝食は7:00。夕飯は20:30。
夕飯は遅いが、これは狩りに出ている時間が8:00〜20:00となっているので、仕方がない。
ちなみに、昼食は各自自由だ。
次に、お風呂の時間。
14:00〜16:00は午前中に狩りに出ていたチームが使用。17:00〜19:00は生産者組が使用。21:30〜23:30までは午後に狩りに出ていたチームが使用。
それ以外の時間に勝手に風呂に入って覗かれても、覗かれた方が悪い!! という、ルールにした。
居住区の飲料水の準備や食事の準備は生産者組の役割となった。
このルールに関しては、生産者組が狩りに出ているメンバーよりも立場が下に感じるので、俺を筆頭に狩りに出るメンバー全員で反対したが、生産者組の強い意向に押し切られた。
掃除は各自で……となったが、風呂掃除は生産者組が請け負う形となった。気にする必要は一切ないのだが……狩りに出かけないことに負い目を感じているのかもしれない。
ここの仲間たちなら心配無用だとは思うが……戦闘職と生産職の間に無用なカースト制度が生まれないように、意識的に取り組もうと思う。
後は、アキ発案で……ご飯を食べる前には『いただきます』、食べ終わった後は『ごちそうさま』。起きたら全員に『おはよう』、寝る前に『おやすみなさい』という挨拶ルールが盛り込まれた。
ハウスルールが決まると、次に生産者組から必要な素材を申告してもらうことにした。
「えっと……私からは居住区にカーペットを敷きたいので、『ウルフの毛皮』を100枚と『綿』を100、お願いします」
「俺が必要なのは……木材だから、暇なときに伐採を手伝ってください。作る物は、机、椅子、ベッドを優先して、その後にお風呂と仕切板を作る予定です」
「仕切板ってなんだ?」
沼田の言葉にワタルが問いかける。
「えっと……個室というか……パーソナルスペースを確保するために、仕切板で区切ったらどうかな……と、思ったけど……ごめん……余計なお世話だよね……」
「――! この空間に個室が……俺だけの部屋ができるのか!」
「う、うん……簡易的な形だけどね……」
「カーッ! 最高じゃねーか! イイね! 必要な木材はいくつだ? どんだけでも木をたたっ切ってやるよ!」
個室と言う単語にワタルのみならず、全員の表情が輝いた。
「あ、後は……簡単な防犯装置というか、トラップも馬渕と相談して作るので……また意見を下さい」
「防犯装置! 最高だな! 必要な素材はどんどん言ってくれ!」
やはり沼田を引き入れて正解だった。俺はハイテンションで沼田の言葉に応えた。
「ぼ、僕は引き続きモンスターの武器をお願いします。あ、あと……珍しい鉱石とかあったら、お、お願いします」
最後に馬渕が申告して、引っ越し最初の話し合いは終了となった。
「今日は狩りを中止して、新たな拠点を整備するか!」
「「「おー!」」」
新たな拠点で全員の笑顔は輝いていたのであった。
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