拠点②
「中は安全なのか?」
「うん。《索敵》したけど敵の気配はないよ」
俺の問いかけにアコが答える。
「入ってもいいか?」
「ハハッ、そのために来たんだろ」
「わぁ! 楽しみだね!」
「モンスターの気配を察知したらすぐに伝えるね」
俺はナツたちに案内された岩壁にぽかんと空いた穴の中に足を踏み入れた。
「ほぉ」
「ハル、少しいいか? ――《ライト》!」
俺の前に進んだナツの手から光球が現れ、洞窟の中を照らした。
意外に狭いな……。
ファンタジー世界によくあるダンジョンをイメージしたが、《ライト》の光はあっさりとこの洞窟の終着点である岩壁を照らしていた。
入口の高さはおよそ2メートル。横幅は1メートル。
中に入ると、空洞は縦横共に広がり……高さ3メートル、横幅5メートル、奥行きは10メートルほどだろうか?
11人で生活をするのに十分な広さだ。
「広さ的にも申し分ないな」
「だろ? ココが一番広かったからな」
ナツが誇らしげに答える。
「ん? ココが……ってことは、他にもあるのか?」
「近くに似た感じの洞窟が3つあるな」
「へぇ」
「湧き水が出てたのは別の洞窟だな」
「近いのか?」
「行ってみるか?」
俺はナツの問いかけに首を縦に振った。
ナツの後に付いていくと、1分もしない内に新たな洞窟に辿り着いた。
「この洞窟の中に湧き水が出てるぞ」
ナツに言われ、洞窟の中に入ると……確かに湧き水が出ていた。《鑑定》結果も普通の水で、毒物などは含まれていない。
湧き水が出ていた洞窟は横幅1メートル、奥行き3メートルとかなり手狭で、何より地面が流れる水で濡れているので生活するのは厳しい環境だった。
その他にも近くに2つの洞窟があり、共に最初に案内された洞窟よりも一回り小さかった。
小さい洞窟は、馬渕たちの作業場にしたり、素材を保管する倉庫にするのもありだろう。
「悪くない。引っ越すか」
「だろ!」
「ハル! そこは悪くない……じゃなくて、テンションマックスで、最高だ! って言うのが礼儀でしょ」
「あはは……そうだな。ナツ、アコ! ここは最高だ! 引っ越そうぜ!」
「ハハハ、そういうハルも嫌いじゃないけど、らしくないな」
「あはは! うんうん! ハル、いい感じだよ!」
「ナツくん、良かったですね」
無理やりテンションを上げた俺を見て、ナツたちは笑い声をあげるのであった。
◆
仮拠点に戻った俺たちはスマホで撮影した拠点候補地の写真を仲間たちに見せ、移住について話し合うことにした。
「俺としては、立地条件がいいから引っ越してもいいと思うが、みんなの意見は?」
「私も引っ越しに賛成ー!」
「あの界隈だったらコボルトとかオークの生息地もここより近いから、レベル上げも捗るな!」
一緒に同行したアキや、第一発見者のパーティーに同行していたので現地を確認したことのあるワタルたちは移住に賛同の様子をみせる。
「ん。マハルに任せる」
「ぼ、僕もハルくんがいいなら……い、いいよ」
「俺も」
「私も大丈夫です」
「某も問題ないでござる」
現地を見ていないメイと山田、それに生産者組も賛同してくれる。
「反対意見もないようだから、引っ越すか」
話し合いの結果、あっさりと移住が決まった。
「あの……素材とかも全部運ぶのでしょうか?」
ユコが引っ越しについての具体的な話に切り出すと、
「お! 当然マイベッドも運ぶよな?」
現在ベッドの上は貴重なパーソナルスペースとなっている。特にベッドに感動していたワタルが質問してくる。
「ベッドは……」
俺は沼田をちらっと見て、その後に紡ぐ言葉を考える。
本音を言えば、ここに放置して向こうで新たに作成して欲しいのだが……それを作り手ではない俺が言うのも気が引ける。
「ベッドは置いていこう。向こうに着いたら、また作るよ」
俺の真意を把握してくれたのか、沼田が最高の提案をしてくれる。
「置いていくのか……結構気に入っていたのにな……」
「今度は佐藤くんの意見とかも取り入れて、もっと良いベッドを作るよ」
「お! マジか! オーダーメイドかよ!」
哀愁漂うワタルであったが、沼田の提案に態度がコロッと変わる。
「他にも木材の調達も簡単だから、置いていこう。岩塩も近くで採れるから放置だな。拾った武器類を置いていくのは勿体ないから……何度か往復すればいいか」
「あ、松山くん……良かったら……荷車を作ってみるよ……」
沼田は俺の救世主なのか!
またしても、抱えた問題を解決してくる。
「よし! 沼田にお願いしよう!」
「時間は少しかかるし……本当に簡易的なモノになると思うから……あんまり期待はしないでね……」
「了解! 期待している……と言うのはダメだな。なんだ……なんて言えばいいんだ……えっと、ありがとうな!」
期待するなと言われた矢先に期待している! と言うのは、流石に野暮だろう。俺は悩んだ末に、シンプルにお礼の言葉を伝えた。
「それじゃ、引っ越しの準備を始めようか!」
「「「おー!」」」
俺たちは手分けして引っ越しの準備を始めたのであった。
◆
三時間後。
沼田は器用にリヤカーのような荷車を完成させた。木製のタイヤなので滑らかに動く訳ではないが、一度に多くの荷物を運ぶことができるようになった。
「魔法、レベル、ステータスとここまでゲームっぽい世界なら、アイテムボックスくらい実装してくれてもいいのにね」
引っ越し準備をしていると、隠れゲーマーだったミユが愚痴をこぼす。
「アイテムボックスか……【適性】で【運び屋】とかあったから、その【適性】だったら使えたのかもな」
「某は【特性】にあった【空間属性の才】が怪しいと睨んでいるでござる」
「あぁ……それもありえるな」
色々と推測しても叶うことのない無いものねだりだ。
荷車が完成してから一時間後。
俺たちは引っ越しの準備を終え、新たな拠点へと引っ越しを始めたのであった。
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