生産者組
オークを討伐した3日後。
ナツたちのチームが狩りに出かけたので、大人しく仮拠点で留守番をしていると、
「松山くん、ちょっといい?」
沼田が声を掛けてきた。
「ん? どうした?」
「新しく家具を作ったから、見て欲しい」
「新しい家具?」
「え? なに、なに? どうしたの?」
沼田と話をしていると、アキが乱入してきた。
「沼田が新しい家具を作ったらしい。一緒に見に行くか?」
「うん!」
「あ、あ、あ、え、えっと……こ、こっちへ……」
俺と話すときは普通なのに、アキ――正確には女子を目の前にすると、わかりやすく狼狽する沼田の後を付いていった。
「え、え、えっと、こ、こ、これなんだけど……ど、どうかな?」
沼田に案内された先には木製のシンプルなベッドが置かれていた。
「お! ベッドか! イイね!」
今は葉っぱを敷き詰めた上に服を乗せて寝ていた。
「あ、あ、あ……へ、変な意味はないから!!」
ベッドという単語だけで、ここまで狼狽するとは……どこまで想像力が豊かなんだ?
「わぁ! ベッドだ! すごーい! 沼田くん、乗ってみてもいい?」
「ど、ど、ど、どうぞ……」
「おぉー! 凄い! ちゃんとベッドだよ!!」
アキは狼狽する沼田を気にすることもなく、ベッドに寝転んで感触を確かめている。
「ほ、ほ、本当はマットレスとかあればいいんだけど……お、お、俺の技術だと作れなくて……ご、ごめん……」
「マットレスかぁ……ちょっと待っててね!」
アキは何かを思い付いたのか、そそくさと立ち去った。
「まぁ、葉っぱを敷き詰めて……洗浄した『ウルフの毛皮』を敷けば十分だろ」
アコが《解体》を習得したお陰で、仮拠点には『ウルフの毛皮』が備蓄されていた。『オークの毛皮』は火属性で倒した影響でほとんどが焦げていたため、備蓄は僅かであった。
「おっ待たせー!」
俺はベッドに手をかけ感触を試していると、アキが友人の女性――ユコの手を引っ張りながら戻ってきた。
「え? ちょ、ちょっと……アキちゃん、どうしたの?」
アキは説明もせずにユコを連れて来たのだろう。ユコは困惑した様子だ。
「じゃーん! ユコちゃん、これ見て!」
そんな困惑した様子のユコに、アキは両手を拡げて沼田の作ったベッドをピーアールする。
「――! これは……! ちょ、ちょっと待ってね!」
ユコは慌てた様子でスマホを取り出し、ベッドを撮影。「えっと、寸法は縦が1950だから……」と、聞こえてくる独り言から、どうやらスマホのアプリを使ってベッドを採寸していた。
「アキ、松山くん、少し手伝ってもらっていい?」
採寸を終えたユコに声を掛けられる。
「ん? 構わないが、何をすれば?」
「素材をここまで運んで欲しいの」
「了解」
「おっけー!」
俺はアキとユコと共に素材を保管してある場所に移動した。
拾った素材は全て分類ごとに整理して、沼田が熟練度稼ぎで作った箱に収納されていた。
「あった! これを運んで貰ってもいい?」
「了解」
「おっけーだよ!」
俺はアキと共にユコの指定した箱――『ウルフの毛皮』が収納されている箱を先程のベッドのある位置まで運んだ。
素材を運び終えると、ユコは箱から『ウルフの毛皮』を取り出し、ベッドの上に置いて首を傾げる。
布団を作るのか……?
「松山くん、ベッドはこれでいいと思う?」
沼田に声を掛けられた。
「いいんじゃないか?」
「それじゃ、俺はこれから木材を調達してくるよ」
「それなら俺も付き合うよ」
このままユコを眺めていても暇だな、と感じた俺は沼田と一緒にベッドを作るための素材――『木材』の採伐へと向かうことにした。
幸いなことに、俺たちが転移された先は森だ。木はそこら中に溢れていた。
沼田は馬渕の作った斧を手にすると、近くにあった木へと斧を振り下ろす。俺も馬渕から借りた斧を使って、採伐を始めた。
「この斧もそうだけど……馬渕くんは凄いよね」
「そうだな」
俺は木に斧を打ち付けながら、答える。
「俺も馬渕くんみたいにみんなの役に立てるかな?」
「立てるだろ」
「松山くんは《鑑定》でみんなの食事を用意するだけじゃなくて、モンスターと戦うこともできるよね」
「そうだな」
「松山くんだけじゃない。……女子の辻野さんだって、俺たちを守るために危険なモンスターと戦っている」
「ナツにワタルに山田、アコにミユにメイもそうだな」
「馬渕くんはそんな松山くんたちに武器を作ってバックアップしてる」
「そうだな」
「俺は……【建築士】の俺は必要あるのかな……」
「その武器を作るための『炉』を作ったのは沼田だろ?」
「そうだけど……アレは馬渕くんの指示通りに……手伝っただけだよ……」
「箱とか椅子みたいに、スキルの恩恵じゃないのか?」
「うん……」
『炉』の作成は、沼田の《建築》の恩恵と思っていたが、違うようだ。《鍛冶》に関わる設備の知識は【鍛冶師】が持ち合わせているようだ。
「人が生活していく上で必要なモノは衣食住だ。その中の『住』を充実させることができるのは沼田だけだと、俺は思ってる」
「……俺はその期待に応えられるかな?」
「どうだろうな? 少なくとも、狩りから帰ってきたナツたちがベッドを見たら喜ぶとは思うぞ」
「……そうかな?」
「今ってモンスターと戦って……そこら辺の草とかモンスターの肉を食らう。笑えないサバイバル生活だよな。こんな生活を続けていたら、いつか人としての大切な何かがコワレルんじゃないかな? って思うんだ」
「……」
沼田は静かに俺の言葉に耳を傾ける。
「今みたいに笑って過ごせるように……人としての生活を忘れないために……沼田の《建築》が俺たちの生活水準を向上させてくれることを期待するよ」
「……頑張ってみるよ」
「無責任な言い方かもしれないが……頑張れ! 俺も慣れないリーダーとしての役割を頑張るから」
「松山くん……ありがとう……」
「どういたしまして」
俺と沼田はその後、黙々と採伐を続けたのであった。
◆
採伐を終えて戻ると、沼田の作ったベッドの上には布団と枕が用意されていた。
そして――
「ただいま」
狩りに出かけていたナツたちが戻ってきた。
「おかえり。4人に見せたいモノがあるんだ」
俺は帰ってきたナツたちを先程完成した寝具の元へと招いた。
「ハル、見せたいモノって?」
「じゃーん!」
俺は先程アキがしたように両手を広げて、沼田とユコの作ったベッドを披露した。
「うぉ! ベッドじゃねーか!!」
「え? ウソ! ベッドじゃん! うわ! 枕まであるよ!!」
「ハッハッハ! 凄いだろ! 沼田とユコの共同作品だ!」
大興奮のワタルとミユを目にした沼田とユコは嬉しそうに照れ笑いを浮かべるのであった。
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