オークの肉

 アコの要望もあり、周辺を再度捜索。1匹で彷徨くオークを発見し、先程と同じ手順で討伐に成功した。


「ふぅ……楽勝だな!」


 一度ならず二度続けて、無傷でオークを倒せたことで、ワタルの気が大きくなったようだ。


「ワタル、油断は禁物だ」

「確かに……こんな訳のわからない世界だ。調子に乗るのはよくねーよな……すまん」


 ワタルは両手を合わせて、頭を下げる。


 ワタルは相澤たちと同じ体育会だが、根本的に人間性は優れていた。


「いや、こっちこそ……ごめん」


 素直に頭を下げられると、こちらも戸惑い、頭を下げ返してしまう。


「ねね、ハルくん。今回は、私が一人で解体してもいいかな?」

「あぁ、俺は別に構わない」

「私も問題ないよー! でも、手伝えることがあったら言ってね!」

「お、別に構わないが……何かわりーな」


 アコ一人にモンスターの解体を押し付けているようで、気まずくも思うが……本人の希望なので仕方がない。


 アコはナイフを使いながら、慣れた手付きでオークの解体を始めた。


 アコの解体を眺めていてもいいが、今後の事故を防ぐためにも俺はワタルに話すことあった。


「ワタル、さっきの件だけど……少しいいか?」

「おう、どした?」

「オークが楽勝って話あっただろ?」

「あぁ……すまん。調子に乗った!」

「いやいや、そういうことじゃなくて……今回はノーダメージで勝てただろ?」

「おう、そうだな」

「勝因はなんだと思う?」

「勝因?」


 俺の質問にワタルは首を傾げる。


「えっと、アレだ! 俺たちの方が格上だったとかか?」

「それもあるが、一番大きな勝因は――アキの存在だ」

「辻野?」

「ワタルの斧の攻撃もステータス通りの強さだが、一番ダメージを与えたのは――アキだ」


 俺は今回のオーク討伐の最功労者の名前を断言する。


「確かに、辻野の放った魔法も凄かったが……」

「オークの弱点は火属性だった。今回は、アキの《ファイヤーボール》と俺の《エンチャントファイヤ》が上手くハマった」

「言われてみれば、トドメも辻野の魔法か」

「遠距離から一気にダメージを与え、オークに大ダメージを与え、体勢を崩せたのが勝因だと思う」

「確かに一方的だったな……」

「今回は特別編成のチームだが、ワタルは当面の間、ナツ、アコ、ミユとチームを組むことになる」

「なるほど……そうすると、今回みたいに上手くいかねーってことか」

「少なくとも、あの槍とか、牙による攻撃はあるだろうな」

「わかった、気を付ける」


 ワタルは素直に俺の言葉を聞き入れてくれた。


 オーク=楽勝という固定観念だけは取り除きたかった。ワタルの顔を見る限り、その心配事はもう大丈夫だろう。


「終わったー!」


 懸念事項が払拭され、安堵の息を吐くと、アコの歓喜に満ちた声が響いてきた。


「おぉ……スゴイな」


 アコの前には毛皮、牙、肉――解体されたオークの素材がキレイな形で並んでいた。


「すごーい! さっき私たちが4人でやったときよりもずーっと早かったね!」

「しかも、肉とかさっきのよりグロテスクじゃねーな!」

「えへへ」


 アコは嬉しそうに笑みを浮かべる。


「さてと、あんまり遅くなるとナツたちが心配するから仮拠点に戻るとするか」

「はーい!」

「そうすっか!」

「うん!」


 俺たちはオークの素材という手土産を持って、ナツたちの待つ仮拠点に帰還するのであった。



  ◆



「ただいま」

「たっだいまー!」

「おう!」

「ただいまー!」


 仮拠点に戻ると、ナツがすぐさま駆け寄って来た。


「ハル! 遅かったじゃないか! 心配したぞ!」

「悪い悪い。ちょっと予定外の検証とかもしていてな」

「予定外の検証?」

「えっと、結論から言うとオークは無事に討伐できた。《鑑定》結果のステータスでいえば、ランクはFだった」

「Fと言うと……俺と同じか」

「+の値は違うが、大まかに言えばそうなるな」

「それで、予定外の検証とは?」

「えっと……コレ」


 共にオークを討伐した仲間たちに視線を向け、一斉にカバンからオークの素材を取り出した。


「に……肉? まさか……」


 ナツはアコの手により、キレイに解体された『オークの肉塊』に注視する。


「御名答! オークの肉だな」

「く、食えるのか……?」

「味の保証は相変わらずできないが……《鑑定》結果によると食えるらしい」

「なるほど……貴重なタンパク質と言う訳か……」

「ねね! なにかキレイに捌けてるけど、コレもハルっちがやったの?」

「いや、それは――」


 俺はミユたちに、アコが習得した《解体》について説明した。


「つまり、アコの《解体》を検証するためにオークをもう一匹倒していたから、遅れたと?」

「そうなるかな?」

「ったく、俺たちがどれほど心配したと……」


 ナツは大きく息を吐いて、苦笑した。


「とりあえず、折角の戦利品だ。食ってみようぜ!」

「そうするか」


 ワタルの一言をきっかけに、俺は焚き火に火をかけ、『オークの肉塊』を焼き始めた。


「おぉ! 久々の肉の匂いだ!」


 焼かれた肉から漂う匂いにワタルが興奮する。


「そろそろいいかな? 食べれるかな?」


 ミユも焼かれている肉に夢中だ。


「毒はないはずだが……とりあえず、一欠片だけ口にしてみるか?」


 俺はナイフで薄くスライスし、試しにワタルとミユに焼いたオークの肉を渡した。


「んぐ……んぐ……少し味気ないが、肉だな」

「お肉だね……ただ、塩コショウが欲しいなぁ」


 焼いただけのオークの肉は味気ないようだ。


「調味料の問題はいつか解決するとして……貴重なタンパク質だ。みんなで食べるか」


 初めて口にした異世界の肉料理は、少し生臭く、味気ないものであった。

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