オークの偵察へ

 馬渕に武器の相談をしているナツの姿を見ながら、俺は別のことを考えていた。

 

「オークの偵察メンバーどうするかな……」

 

 オークの強さを測れる俺と、発見を有利にするためのアコは確定として……残りの二人はどうするかな?

 

 戦闘メンバーが全員で出向くのは論外だ。ココは決して安全なフィールドじゃない。非戦闘メンバーがいる以上、守れる人材を残す必要がある。

 

 幸いにも近くにはゴブリンしかいないので……二人いれば守ることは可能だと思うが……俺は4人1チームの体制を慣れさせた方がいいと考えていた。

 

 戦える仲間が8人である以上、4人2チーム体制が一番理想的な形だ。固定メンバーにすれば、更に連携力は高まるかも知れないが、柔軟性が乏しくなるので……ある程度はメンバーの入れ替えをするのはありだろう。

 

 大切なのは、4人で戦うことに慣れることだ。

 

 現在一番強い仲間は――ワタルだろう。次点で、敵の数が少ないという条件で、連発は出来ないが威力が高い《火遁の術》を使用できる山田だろう。

 

 他には、アキが回復も攻撃もできるハイブリッドな性能で頼りになるし、ミユの補助魔法も近接アタッカーからみれば有り難い存在だ。

 

 俺個人で言えば、一番相性が良いのはメイだろうか。この世界に転移してから、俺の戦う癖というか……行動パターンはゲームのときと似通っていた。故に、ゲームで長年タッグを組んでいたメイとは抜群の相性を誇る。

 

 ナツは……大器晩成ということで、今後に期待で。【適性】の名前から推測するに……将来的にはタンクとして唯一無二の存在に成長するかもしれないし、上位適性として凄い火力を秘めた存在になるかもしれない。


 まぁ、ナツは留守番だな。


 実力云々ではなく、今回のオークの件も含めて一番冷静な判断力を兼ね備えている。ナツなら安心してこの拠点の防衛を任せられる。


 残りの二人は……どうするかな……。


 戦闘に発展するなら一番ランクの高いワタルを連れていくべきか? そうなると、残りのメンバーは近接のワタルが怪我したときにすぐに治療できるようにアキにするのがベストか?


 【魔法剣士】の俺に、【戦士】のワタル。【狩人】のアコに、【賢者】のアキ。


 うん。バランス的にも悪くないな。


 オーク討伐メンバーを立候補で募ったところで、全員が希望したら意味はない。話し合いで解決するのも難しいだろう。


 ここは……強硬手段に出るか。


「みんな聞いてくれ! オークの討伐メンバーだが……」

「は、ハル君……そ、その前に一ついい?」

「ん? どうした?」


 馬渕が珍しく話に割り込んできた。


「も、もう少しゴブリンたちの武器を集めたら……みんなの防具も作れると思うから……そ、そっちを優先してもらってもいいかな……あ、も、もちろん、ハルくんに別の考えがあるなら……ご、ごめん、き、気にしないで」

「いや、馬渕の言うことはもっともだな。オークを倒せたら何かが変わるわけじゃない。今は、生存率を高めるためにも防具の作成を最優先しよう」


 俺は馬渕の意見を受け止める。


「お? それなら、さっきしこたま倒したゴブリンの武器を放置したままだな……拾ってくるか」

「だねー。全部拾うと重くて運べないもんね。魔法とかスキルがあるからアイテムボックスとかもあればいいのにね!」

「テンプレのようで……テンプレじゃないからな……この世界は」


 俺はミユの言葉に苦笑を浮かべた。


「んじゃ、手分けして武器を集めるか」


 俺たちはオーク討伐は後回しにして、ゴブリンの武器を集めることにしたのであった。



  ◆



 翌日。


 昨日に引き続きゴブリン狩りを励み、昼過ぎにようやく馬渕の指定する数に到達した。


 また、森の中で偶然見つけた素材――『麻』や『綿わた』などで、ユコも装飾の熟練度稼ぎを始めることができるようになった。


「うぅ……これで私もみんなの役に立つことができます……」


 余談となるが、初めて『綿』を渡したとき、ユコは泣いて喜んだ。


「さてと、装備も整った。オークの偵察に出発するか」


 簡易的だが、学生服と比べると格段に安心できる真新しい鎧を装着し、仲間たちに声をかける。


「ハル、メンバーはどうするんだ?」

「メンバーは……その前に、このグループのリーダーは俺だよな?」

「当たり前だろ!」

「ここにいるのは全員ハル派だよー!」

「お! やっとリーダーを受け入れたのか!」

「『治世の能臣、乱世の奸雄』と謳われた松山殿がついに立ったでござる!」


 俺は最初に自分がリーダーであることを確認。


 奸雄かんゆうって褒め言葉だったか? 


 まぁ、山田の発言は気にしたら負けだ……。


「今回だけはリーダーとしての強権を発動して、オーク偵察のメンバーは俺が決めてもいいか?」

「今回だけじゃなく、俺はいつでもハルを支持する!」

「うんうん!」

「松山殿を支えるのは某の使命でござる」


 話し合いをしてもこじれるのが目に見えている。メンバー選定に関して、俺は強硬手段に出た。


「オーク偵察のメンバー、アコ、ワタル、アキ……そして、俺の4人だ。3人の辞退は受け入れるが、他の者からの異論は認めない」


 俺は敢えて強い口調で告げる。『あわよくばリーダーをナツ作戦』は、もう諦めた。佐伯のような絶対王政を敷く気はないが、ある程度は強気にでないと……仲間たちを守れない。


 突然の俺の強い口調に驚いたのか、仲間たちの間に沈黙の空気が流れる。 

 

 あかん……失敗したか……。

 

 やはり、モブキャラの俺には荷が重かったか……。

 

「オッケー! 頑張ろう!」

 

 アキの明るい声が重い空気を吹き飛ばすと、

 

「っしゃ! いこうぜ!!」

「うん! がんばろー!」

 

 続いて、ワタルとアコも笑顔を見せる。

 

「あーあ……留守番かぁ。リーダーのハルっちが決めたならしょうがないよねー。がんばってね!」

「ハル! 俺は何があってもハルを信じる! 頑張ってくれ!」

「馬渕殿の守護は某に任せるでござる」

「ん。次はがんばる……」

「が、がんばって……」

「お気をつけて」

「俺も俺のできる事をがんばるよ」

 

 その後、他の仲間たちも笑顔を見せてくれる。

 

 大丈夫だよな……?

 

「それじゃ、行ってくる!」

 

 仲間たちに見送られ、俺たちはオークの偵察へ向かうのであった。


―――――――――――――――――――――――

(あとがき)


いつも本作をお読みいただきありがとうございます!


皆さまの応援をモチベーションに変えて……何とか一週間毎日更新することに成功しました!!


ガラッと雰囲気が変わった第二章はいかがでしょうか? 当面は拠点を作りながら、異世界に順応していくハルたちの様子を描ければと思っております。


最後に……この作品をお気に入り頂けたなら、作品フォローと☆による評価を頂ければ幸いですm(_ _)m


今後もハルたちの冒険にお付き合いよろしくお願いします!!

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