戦士

 ワタルとミユは馬渕と楽しそうに装備の打ち合わせをしている。馬渕は頼られているのが嬉しいのだろう。凄く良い笑顔だ。

 

「ワタルたちが落ち着いたら、俺も武器の相談をするかな」

「馬渕は、グリップとかの細かい注文にも応えてくれるぞ」

「ハハッ! 楽しみだな」

 

 俺はナツと共に、そんな馬渕たちの様子を少し離れた場所から眺めていた。

 

「そういえば……ナツ、一ついいか?」

「ん? どうした?」

「ナツのチームはこの3時間でどれだけの数のゴブリンを倒したんだ?」

「んー……どのくらいだろ? 全員で30匹以上は倒したかな?」

「30匹……?」

「そのくらいだとは思うが……どうかしたのか?」

 

 ナツの答えに俺は首を傾げる。

 

 俺は帰還したナツたちを視て・・、とある変化に驚いていた。

 

「倒したのはほとんどワタルとか?」

「んー……一番多く倒したのはワタルだとは思うけど……ほとんどってほどでもないかな?」

 

 となると、ワタルの倒したゴブリンの数は10匹程か? ここに辿り着くまでにも数匹倒してたけど……合わせてもせいぜい30匹くらいだろう。

 

 俺が思い悩んでいると、

 

「ハル、どうした? 何があったんだ?」

 

 ナツが心配そうな表情で声をかけてきた。

 

「あぁ……ごめん、ごめん。この前、俺が人を《鑑定》したらどう見えるか、話しただろ?」

「ステータスだっけ? ランクとか肉体とか魔力とか……後は使えるスキルとか魔法も見えるんだろ?」

「そそ。んで、そのランクってのが……簡単に言えばレベルみたいな強さを表す指数だと思っているのだが……」

「確か、俺たちが『F』で佐伯たちが『E』だっけ?」

「そそ。アルファベットの後にはプラスとか付いて本当はもうちょっとややこしいけどな」

「で、それがどうかしたのか?」

「んで、俺のランクは『F+++』なんだけど……今のワタルのランクは――『E』なんだよね」


 帰還したときに視えたワタルの《鑑定》結果は……


『種族  覚醒者

 適性  戦士

 特性  斧の才

 ランク E

 肉体  D++

 魔力  G

 スキル チャージ

     剣技 (F)

     大剣技(F)

     弓技 (F)

     槍技 (F)

     斧技 (D+)

     →パワースマッシュ

     →フルスイング

     →アーマークラッシュ 』



「――? どういうことだ?」

「俺の方がワタルより多くのモンスターを倒してる……はずなんだよな」

「……俺もそう思う」

「だから、不思議に思ってナツに質問した」

「ワタルは俺たちに隠れてレベル上げをしていた……いや、それはあり得ない」

「うん。それはあり得ないと、俺も思う」


 ワタルが『覚醒者』になってからは終始行動を共にしていた。誰にも気付かれず夜に抜け出すのも無理だろう。


「ハルは何か見当がついているのか?」

「推測になるが……ある程度の見当はついてる」

「教えてくれ! ワタルは信じていいんだよな!」


 ナツは俺の言葉から悪い方向に想像が膨らんだようだ。佐伯たちの件もあったから、仕方がないのかもしれない。


「悪い、悪い。俺の言い方が悪かったな。今から話す内容はあくまで推測だからな」

「構わない……全てを話してくれ」

「えっと……ナツは自分のランクがいくつだと思う?」

「ん? ハルがFで、佐伯たちとワタルがEなんだよな?」

「ここは重要だから、省かないで言うぞ。俺のランクはF+++・・・。ついでに言えば、アキとメイとミユはF++・・、山田とアコはFだな」

「なるほど……。アコは索敵メインだったから、あまり戦闘に参加していなかったからな。となると、俺のランクはF++・・・か? それとも、ハルと同じF+++・・・・か?」

「正解は――F+・・だ」

「――な!? どういうことだ? 山田はともかく、俺はアコよりもゴブリンを倒しているぞ」


 俺の伝えた鑑定結果にナツが驚愕する。


「だよな……。だから、今回の推測に至れた訳なのだが」

「ん? どういうことだ?」

「適切な名称を思い浮かばないから……仮で少し嫌な言い方をすると……ワタルの選択した【適性】――【戦士】は下位適性だ」

「下位適性?」

「下位と言っても……別に劣っているとかいう訳じゃないぞ。あくまで、仮称な」

「んで、恐らく【付与師】と【狩人】と【双剣士】も下位適性で、【魔法剣士】と【忍者】と【賢者】は中位適性なのかな? んで、ナツの選んだ【聖騎士】は上位適性だな」

「上位適性……?」

「ざくっとカテゴライズしただけだから、違うかも知れないが……とりあえず、下位適性は上位適性よりも必要経験値が少ない――成長が早いんだと思う」


 下位職と上位職で必要経験値が違うゲームは沢山存在していた。現実世界なのにゲームに当てはめるのもどうかと思うが……そう考えると、早すぎるワタルの成長と遅すぎるナツの成長に納得ができる。


 メイのランクの成長が早いな……と、感じていたが、この推測が合っているのなら納得だ。


「つまり……俺だけ成長が遅い?」

「成長が遅いというより、大器晩成と捉えたほうがいいかもな」


 何故か落ち込むナツにフォローの言葉を送る。


「大器晩成か……物は言いようだな」

「いやいや、仮に今が現実じゃなくてゲームなら……大半の人間は大器晩成の上位職を選ぶと思うぞ」

「そうなのか……?」

「少なくとも、俺ならそうするかな」


 上目遣いに俺を見るナツに苦笑を浮かべると、


「っしゃ! 決めた! 俺は両手斧にする!」


 ワタルの雄叫びが聞こえてきた。


「ほら、ワタルの武器が決まったみたいだから、ナツも馬渕に武器を頼んでこいよ」

「わかった! ちなみに、ハルのオススメは?」

「オーソドックスに長剣と盾でいいんじゃないか?」

「了解!」


 ナツは元気を取り戻すと、馬渕の元へと走っていったのであった。

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