分解

「えっと……とりあえず、新たなモンスターというのは?」

 

 別に制限時間がある訳ではないので、俺はナツに先に話すように促した。

 

「アコがゴブリン以外の気配を察知。向かった先にいたのがコレだ」

 

 ナツは自分のスマホに納めた一枚の写真を見せてくれた。

 

「オーク?」

「だよね! だよね! ハルっちもやっぱりそう思うよね!」

 

 ミユが興奮した様子ではしゃぎだす。

 

「写真を通して《鑑定》するのは無理だから、知っている知識……と言ってもゲームとかの知識だけど、それに当てはめるとオークっぽいな」

「うんうん。うちも一目見てオークって思ったよ!」

 

 ミユは満足そうに何度も頷く。


 ゴブリンとウルフ以外のモンスターか……。


 写真に納めてきたのは、流石だ。百聞は一見に如かず。やはり口頭で説明されるよりも実際に目にするほうが情報は多く伝わる。


 見た感じ、ゴブリンよりも逞しく力はありそうだが……

 

「それで……コレとは戦ったのか?」

「いや、万事に備えて写真だけ撮って撤退した」

「その判断は、正しいと思う」

 

 判断に同意を示すと、ナツは嬉しそうに笑顔を見せる。

 

「コレと遭遇した場所へ後で案内してくれないか? 《鑑定》を使えばある程度の力量は把握できると思う」

 

 正直、ゴブリン相手では少し物足りないと感じていた。より強い敵がより多くの経験値をくれるのなら……オーク狩りをするのもありだろう。

 

「わかった。そうなるとメンバーは……」

「メンバーはそうだな……《索敵》ができるアコには来てほしいかな」

「いいよー」

「ん。マハルが行くなら私も」

「お! 新しいモンスターと戦うなら俺も行くぜ!」

「あ! ハルが行くなら、私も行くよ! 何かあったら直ぐに回復できるからね!」

「ハル一人を危険に晒せない。俺も行くよ」

「松山殿を守るのは某の役目!」

「あー! うちも行きたい!」

 

 結局、戦闘できるメンバー全員が同行を希望した。

 

 んー、これは仲間たちがこの世界に順応してきた……ってことなのか?

 

 俺自身も今ではモンスターを倒すことに、呵責かしゃくはなく……むしろ、目に見えて成長することが楽しいとすら感じている。

 

「とりあえず、仮称オーク調査メンバーの選定は後だな」

「討伐じゃなくて、調査なのかよ」

「勝てそうなら討伐するが、危険は侵さない」

「ハッ! 松山もだいぶリーダーが板についてきたな! いいことだぜ!」

「俺としては、オークと遭遇しても危険冒さず撤退し、後に繋がるように写真を撮ったナツこそがリーダーに相応しいと思うけどな」

「ハル!」

「はいはい……わかったよ……俺がリーダーね」


 あわよくば……は、いつも失敗する。


 リーダーか……。例えば、今後……究極の選択を迫られたときに、俺は正しい判断ができるのか? また、その責任を抱えられるのか……。


 不安は尽きないが、言葉にしてこの雰囲気を壊したくはない。


 俺は臆病者なんだな……と、痛感した。


「話を戻すが、ハルのさっき言っていたのは?」

「あぁ! それだ! 馬渕がすごい成長を遂げたんだよ!」

「……? もうちょっと詳しく説明してくれないか」

「ごめん、ごめん。馬渕は《鍛冶》の熟練度が上がったんだよ。んで、新たなスキル――《分解》を習得した」

「《分解》?」

「そそ……えっと、見たほうが早いな。馬渕ー!」


 俺は馬渕を大声で呼んだ。すると、馬渕はおどおどとした様子で近寄ってきた。


 馬渕は本当に凄い。もう少し自信を持つべきだと思うんだけどな。


「ナツたちに《分解》を見せてくれ」

「う、うん」


 馬渕は頷くと、《分解》の準備――足元にゴブリンから奪った剣や斧を並べ始めた。


「や、やるね……――《分解》!」


 馬渕が並べられた武器の1つ――ゴブリンの剣に手をかざすと……ゴブリンの剣は神秘的な光に包まれた。


 光が収束すると共にゴブリンの剣は消滅。そして、代わりに鉱物と革の紐が現れた。


「――!? な、何が起きたんだ!?」


 目の前で起きた神秘的な出来事にナツたちが戸惑いをみせる。


「アイテムを《分解》して素材に戻したんだよ」

「アイテムを素材に……?」

「そそ。んで、ゴブリンから奪った武器は大量にあったから……それらを《分解》してできた素材を使って完成したのがアレだ!」


 俺は奥に設置された鉄鉱石を合わせて作られた『炉』を指し示した。


「細かいことを言えば鉄鉱石と鉄鉱石から作れる釘とか、後は、粘土とか……何かそんな感じの素材を使って馬渕と沼田の二人が作った『炉』だ!」


 詳しい工程はよくわからなかったが、馬渕と沼田がアレコレと相談して作製した。


「更に! 更に! あの炉を使って新たに完成したのがこれだ!」


 俺は腰に挿した剣を抜いて、ナツたちに披露する。


「じゃじゃーん! なんと、私のは鉄の杖です!」

「某は小刀でござる」

「ん」


 アキがドヤ顔で鉄の杖を披露すると、山田が不思議なポーズで小刀を構え、メイも無言で二本の剣を構えた。


「お! すげー!! 斧は! 斧はないのか!」

「わぁ! いいな! いいな! 私も杖欲しい!」

「え、えっと……斧は佐藤くんと相談してから作ろうと思って……つ、杖は直ぐに作れるよ。え、えっと……野村さんにはコレを……」


 馬渕は照れているのだろう。必死に笑みを隠しながら、野村――アコに弓を差し出した。


「――! 弓だ……。い、いいの?」

「う、うん。使いづらかったら調整するから教えて」

「うん! ありがとうね!」


 アコはとびっきりの笑顔で弓を受け取った。


「よーし! じゃあ、次は俺の斧だな!」

「さ、佐藤くんは……」

「カーッ! 水臭いな! ワタルでいいって言ってんだろ!」

「わ、ワタルくんは……両手持ちの斧と片手斧だと……ど、どっちがいいかな?」

「――! 俺が選べるのか!」

「う、うん」

「俺だけの……俺のための斧……カーッ! 馬渕!! お前、マジで最高だな!」


 テンションの上がりきったワタルの対応に馬渕は嬉しそうに戸惑うのであった。

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