狩り(ナツチーム編)②
「いっくよー! ――《フィジカルブースト》!」
ミユの手から放たれた光がアコを包む。
「っしゃ! 行くぞっ! オラッ!」
片手斧を手にしたワタルが勇猛果敢にゴブリンへと突撃。
「「「「ギィ! ギィ! ギィ!」」」」
ゴブリンたちは突出したワタルへと一斉に襲いかかろうとするが、
「させるかよ! ――《ホーリースラッシュ》!」
俺はその行く手を阻み、1匹のゴブリンを光を帯びた剣で両断。
「オラッ!」
ワタルは斧を大きく薙ぎ払い迫るくるゴブリンを牽制。
「えいっ!」
その隙にアコが1匹のゴブリンを背後から短剣で突き刺した。
「行くぞっ! ――《スマッシュ》!」
ワタルは獰猛な笑みを浮かべたまま、手にした斧をゴブリンの頭部へ叩き付け、
「っしゃ! オラッ!」
そのまま、残ったゴブリンを斧で斬り裂いた。
「ハッ! 楽勝だな」
あっという間に4匹のゴブリンを倒したのであった。
「ワタルはともかく、アコも一撃で倒せたのか」
「んー、ミユの魔法のお陰かな? 何かよくわからないけど、凄い力が湧いてきたよ」
「へへっ! バフは偉大なんだよ!」
「ほぉ……今度俺にも使ってくれよ」
「オッケー! でも、クールタイムが結構長いから、そうなるとアコに使えなくなっちゃうんだよねー」
「クールタイム?」
「えっと……一回魔法を使ったら、次に同じ魔法を使うまでの冷却……んー待機時間みたいな感じ?」
「そんなのがあるのか」
「《フィジカルブースト》のクールタイムは30秒かな」
ハルがいればアコの言葉もすぐに理解できたのだろうが、最近のゲームに疎い俺とワタルはいまいちピンとこなかった。
「とりあえず、ガンガン敵を倒せばこっちは強くなって、新しい技も覚えるんだろ? サクサクと行こうぜ!」
「おー!」
「ったく、この二人は……」
「あんまり調子に乗ったらダメだからね!」
「ん? でも、アレだぞ。松山もレベル上げは好きそうだったぞ?」
「――! 確かに……そうだな。分かった! ガンガン稼ごうか!」
「イイね! イイね! 行こう!」
好戦的なワタルとミユに乗せられる形で、俺たちは次なる獲物を探し始めるのであった。
◆
狩りに出てから90分後。
「いや、しっかし、アコの《索敵》様々だな」
「うんうん。アコちゃんがいると、スイスイ敵を発見できるよね!」
アコの《索敵》にも助けられ、俺たちは無数のゴブリンを倒すことに成功していた。
「しっかし、アレだな……」
「ん? ワタル、どうした?」
「この森にはゴブリンしかいねーのか?」
「一応、ウルフの反応もあるよ。ターゲットをウルフに変更する?」
「いや、そうじゃなくてもうちっと歯ごたえのある敵とかはいねーのかな?」
「んー、どうなんだろ? 《索敵》の範囲内だとゴブリンとウルフだけかなぁ?」
「ゲームでもアレだろ……強い敵の方が経験値は高いだろ?」
「ゲームだとそうだけど……この世界もそうなのかな? もう少し捜索範囲を拡げてみる?」
ミユが俺に問いかける。
「どうだろうな? 最初にいた拠点から丸2日間離れてるんだ。多少拡げたところで変わるとは思わないが……」
「とりあえず、もう少しあっちに進んでみようぜ」
ワタルに促され、俺たちは川とは反対方向……スマホの方位によると西へと進むことにした。
道中で遭遇したゴブリンを掃討しながら西へ進むこと30分。
「今回はここまでだな。これ以上進むと約束の時間内に戻れなくなる」
俺はスマホで時間を確認し、帰還を告げた。
「チッ……空振りか」
新たな発見がなかったことにワタルが舌打ちをする。
「捜索範囲を拡げるなら、狩りの時間をハルと相談――」
する必要がある……と、言おうとしたら、アコが俺の肩に手を当てて、口元で人差し指を立てる。
「どうした?」
「ゴブリンとは別の反応がある」
「別の反応……?」
「うん。説明は難しいけど……多分ゴブリンよりも強い生物の反応」
アコは真剣な表情で《索敵》の結果を告げる。
「お! イイね……で、どうする?」
ワタルが俺に最終的な判断を委ねる。
「アコ、距離は?」
「ここから100メートルくらい先」
100メートル先か……。
「正体を確認するか」
「確認だけなのか?」
「確認だけだ。後はハルに報告して、判断を仰ぐ」
「……わかった」
「アコ、先導を頼めるか」
「うん」
ゆっくりとし足取りで先導するアコに続くこと、1分。
――!
立ち止まったアコが指を指した先には槍を手にした、初見の化け物が存在していた。
豚……? 熊……? ……いや、猪か?
化け物は、巨大な二本の牙を生やした二足歩行の猪だった。
「オーク?」
ミユはゲームで見覚えがあるのか、小さな声で呟く。
「ナツ、どうする?」
ワタルが俺に問いかける。
どうする? ……とは、戦うのか? と言う、確認だろう。
「写真に収めて、帰還する。まずは、ハルに報告だ」
「……了解」
ワタルは不服そうだが、俺たちのリーダーはハルだ。リーダーであるハルはこのチームを俺に任せてくれた。ハルの期待に応えるなら、俺は任された仲間たちの安全を第一に考えるべきだろう。
「私もナツくんの意見に賛成」
慎重派のアコは俺の意見に賛同してくれる。
「アレに気付かれないように戻るぞ」
俺たちは慎重にその場を後にし、ハルの待つ仮拠点へ帰還するのであった。
◆
「ハル、ただいま」
「ナツ、おかえり」
仮拠点に戻るとハルが駆け付けてくれた。
「ハル」「ナツ」
ハルの俺を呼ぶ声と、俺のハルを呼ぶ声が重なる。
「……っと、どうした?」
「いや、ハルこそ何かあったのか?」
「えっと……こっちは馬渕が素晴らしい成長を遂げた」
「馬渕が成長?」
「あぁ、そっちは?」
「こっちは新たなモンスターを発見した」
「新たなモンスター?」
俺はハルの答えに、ハルは俺の答えに首を傾げるのであった。
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