仮拠点

 拠点を発ってから48時間。

 

 川の近くで程よく拓かれた場所を発見。ここを仮拠点とした。

 

「ふぅ……ようやく落ち着ける場所が見つかったね」

 

 背伸びをしてその場に座り込んだアキに続いて、仲間たちもその場に座り込んだ。

 

「ハルの予定だと、ここが仮拠点になるのか?」

「そうだな。ここを仮拠点に、暫くは活動することになるな」

 

 俺は、ナツの言葉に首肯する。

 

「んで、活動って具体的には何をするんだ?」

 

 ワタルが問いかけてくる。

 

「まずは、戦闘に適した【適性】を持つ8人を4人ずつのチームに分ける」

「2つのチームか。どうやって分ける?」

「んー、そうだな。バランスを考えると……近接に特化した俺、ナツ、ワタル、メイをバランスよく振り分けかな?」

「ん。私はマハルの相棒」

「マハルじゃなくてハルな。とは言え、交友関係を考慮すると俺とメイ、ナツとワタルで振り分けるのがいいかもな」

「……わかった」

「っしゃ! ナツ、頑張ろうぜ!」

「ん。わかった」

 

 この中でメイだけが親しい者がいない。将来的には全員が仲良くなって欲しいが……今はこの振り分けがベストだろう。

 

 問題は残りの4人の振り分けだ。

 

 回復も攻撃もできるアキ。

 

 索敵ができるアコ。

 

 支援に特化したミユ。

 

 遠近ともに戦闘が可能な山田。

 

 せめて回復手段のある者がもう一人いれば良かったのだが……。

 

 交友関係で言えば、アキ、アコ、ミユの3人は仲が良く、山田のみが孤独となる。

 

 4人全体の調和を考えたら組み合わせは一つだけか。

 

「俺のチームがメイ、アキ、山田。ナツのチームがワタル、アコ、ミユにしようと思うが、どうだ?」

 

 俺は全員の顔を見回した。

 

「オッケー! 私はそれでいいよ!」

「某も問題ござらぬ」

「私も問題ないよ」

「うちも大丈夫だよー」

 

 全員が賛同してくれた。

 

「回復魔法を使えるアキがこっちのチームになるから、ナツのチームには薬草を多めに渡しておく。アコの《索敵》を駆使して危険は避けて、薬草が切れたらすぐに仮拠点に戻ってくれ」

「わかった!」

 

 俺は簡単な戦略をナツに伝える。

 

「回復魔法かぁ……【付与師】って回復手段覚えないのかなー?」

「どうだろうな? リジェネっぽい魔法なら可能性はあるんじゃないか」

「んー……そこに期待かなー」

 

 ゲーマーらしくミユはヒーラー不在の危険性を察知したようだが、今はどうすることもできなかった。

 

「生産組の3人は仮拠点で熟練度を鍛えてくれ。俺とナツのチームは交互に冒険出て、残ったチームは仮拠点で生産チームを守る。当面はこの行動を繰り返す予定だが、それでいいかな?」

 

 俺の言葉に異論は出ず、当面の行動予定が決まった。


「さてと、冒険に出発! と言いたいが、まずは寝床を作るか」


 俺たちは仮拠点に簡易的なテントを設営するのであった。



 ◆

 

 

 簡単な寝床を設営した後、ジャンケンの結果俺のチームが先に冒険に出かけることになった。

 

「3時間後の15時目安に戻ってくる」

 

 今は時計とカメラなどのネット介さないアプリしか使えないスマホの時計を確認し、留守番メンバーに告げる。

 

「スマホの充電もそろそろヤバいね。私のスマホは電源落としとくね」

「こっちも俺のスマホ以外は電源を落としていたほうがいいな」

「一応モバイルバッテリーはあるけど……後何日保つかなー」

 

 アキが自分のスマホの電源を切ると、ナツたちも不安そうな表情をみせる。

 

 電話も出来ず、インターネットに繋ぐこともできないスマートフォンとは言え、完全に使えなくなるのは痛手だ。

 

「え、えっと……スマホの充電なら……で、できるよ……」


 全員が不安そうな表情で自分のスマホを見ていると、馬渕が小さな声で呟いた。


「うむ。某も大丈夫でござる」


 山田も自信に満ち溢れた声で馬渕の言葉に賛同する。


「馬渕、山田、どういうことだ?」

「某と馬渕殿はこのような事態に備えて、ソーラータイプのモバイルバッテリーを常備しているでござる」

「う、うん……僕は山田君に言われて……い、一応」

「むむ? ゾンビ襲来に備えるべきと言っていたのは馬渕殿では!」

「わ、わわっ!?」


 ラノベを読んでいると、いきなり異世界に召喚されたら、或いは現実世界にゾンビが溢れたら……と、本来ならあり得ない現象に備えたくなるときがある。


 俺も当然その備えとしてソーラータイプのバッテリーを購入していたが……流石に学校にまでは持ってきていなかった。


「え? 馬渕くんスマホ充電できるの!?」

「う、うん……時間はかかるけど、だ、大丈夫だよ」

「すごーい! 馬渕くん凄いよ!」

「わ、わわっ……」


 ミユが馬渕の両手を握り、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「家であれば強力なソーラーバッテリーも備えておりましたが……手持ちはコレだけでござる」

「僕も1つだけ……ごめんなさい」


 山田と馬渕はカバンからソーラータイプのモバイルバッテリーを取り出した。


「いや、すげーよ! 1つでも十分だ!」


 こうして、重度な中二病に侵された2人のオタクに俺たちは救われたのであった。

 

―――――――――――――――――――――――

(あとがき)


いつも本作をお読み頂きありがとうございます。


本作は『第6回カクヨムWeb小説コンテスト』エントリー作品となります。


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