鍛冶と建築
拠点を発ってから12時間。
「そろそろ暗くなってきたな。今日はこの辺で休憩をしようか」
――《エンチャントファイヤ》!
炎に包まれた剣を集めた枯れ木に近づけ、焚き火を作った。
「ふぁー……疲れたぁ」
「こんなにも歩いたのは初めてかも!」
仲間たちは、焚き火を囲うような形でその場に座り込んだ。
「アコ、周囲に敵の気配は?」
「感知できる範囲にはいないかな」
「アコってどのくらいの範囲まで感知できるの?」
目を閉じて集中するアコにアキが質問を投げかける。
「周囲100メートルくらいかな?」
「使い続けたら、索敵できる範囲も拡がるだろ」
「そういえば、この能力? は成長するんだっけ?」
「その能力――便宜上スキルでいいか。スキルは使い続けたら成長するぞ。俺の《鑑定》も最初は人を鑑定できなかったが、成長してできるようになったからな」
「ふむ。スキルは熟練度制でござるな」
ゲームに造詣のある山田が俺と同じ答えに辿り着く。
「えっと……それなら私は魔法を使いまくれば新しい魔法を覚えたりするのかな?」
「んー……多分だけど、魔法を含む一部のスキルは敵に命中させないと熟練度は上がらないと思う。と言うか、スキルは全て実際に効果のある感じに使わないと熟練度は上がらない感じだったな」
「ん? どういうこと?」
「例えば、俺の場合だと《エンチャントファイヤ》を適当に使っても成長しなかった。《エンチャントファイヤ》を付与した剣でゴブリンを攻撃して、初めて成長した感じかな?」
この世界の仕組みは手探りで調べるしかなかった。
「そうなると、私の《索敵》は使い続けると成長するのかな?」
「あくまで推測だが、《索敵》して敵を発見したら熟練度が加算される仕組みだと思う」
「《索敵》を使用すると、ここにいるみんなの反応も感知できるけど……それでもいいのかな?」
「んー……新たな個体じゃないと加算されないかもな。《鑑定》も同じモノを鑑定しても熟練度が増えているように感じないからな」
「複雑な仕組みだね」
「その仕組みも推測だから、合っているのか不明だけどな」
俺は苦笑を浮かべた。
「話は変わるが……馬渕は【鍛冶師】だろ?」
「う、うん」
「新しい武器とか防具は作れるのか?」
「ざ、材料と設備があれば……」
「材料と設備?」
「え、えっと……鉄の剣だと『鉄鉱石』と『皮紐』が必要で……後は『ハンマー』と『炉』があれば作れるよ……。『ハンマー』は『鉄鉱石』と『木材』があれば作れるよ……」
「必要なモノがだいぶ多いな……『鉄鉱石』と『皮紐』は置いといて、『炉』は設備だよな? 沼田、作れるのか?」
「僕が作れるのは……『椅子』と『机』と『箱』と『小屋』かな……必要な素材は『木材』と……ノコギリがあればいいけど……ナイフでも代用できると思う」
ゲームのようにワンタッチで魔法のように生産物を産み出すことはできないようだ。
「そうなると……とりあえず、沼田は面倒かも知れないが『箱』とかを適当に作ってもらっていいか?」
「わかった。頑張るよ」
何かを作れば熟練度が上がって、新たな創作物を生み出せる可能性は高い。
「問題は馬渕の《鍛冶》だな。何か簡単に作れそうなモノはないのか?」
「い、一番簡単なのは……れ、《錬磨》かな。でも、『砥石』が必要……」
『砥石』……?
熟練度を稼ぐために適当に《鑑定》しまくったときに、そんな石があったな。
確か、ランクが他の鉱物よりも高かったから……。俺はカバンを漁り、角ばった石を取り出した。
『砥石
ランク F
錬磨 F
耐久 C
効果 程度の低い砥石』
「コレは使えそうか?」
俺は砥石を馬渕に差し出した。
「う、うん。大丈夫……だと、思う。は、ハルくんの剣を借りてもいい?」
俺はゴブリンから奪った剣を馬渕に差し出す。
馬渕は受け取った剣を砥石で丁寧に研ぎ始める。
シャ、シャ、シャと、金属と鉱物が奏でる音が静かな森の中に響き渡る。
「で、できたよ」
待つこと5分。馬渕が、研ぎ終わった剣を差し出してきた。
「おぉ!」
馬渕から受け取った剣は、新品のように輝いていた。
『ゴブリンの剣
ランク G
斬撃 G
耐久 D
研ぎ澄まされたゴブリンの愛用している剣』
元々の能力が……
『ゴブリンの剣
ランク H
斬撃 H
耐久 H
ゴブリンの愛用している剣』
一気にワンランクアップしている。耐久に至っては大幅なランクアップだ。
「すげー! 馬渕、凄いよっ!」
「お、そんなにすげーのなら俺の斧もやってくれよ!」
磨きあげられた剣を手にしてはしゃぐ俺を見て、ワタルが食い気味に馬渕に近寄る。
「う、うん……」
「とりあえず、ワタルだけじゃなく全員の武器の《錬磨》を頼む。熟練度の成長にも繋がるからな」
「が、頑張るよ!」
「っしゃ! でも、最初にするのは俺の斧で頼むぜ!」
頼られたのが嬉しいのだろう。馬渕は笑顔で頷いた。
「あ! 火が消えそう! ハル、もう一回焚き火に火を付けてよ」
「そうだな。その前に、枯れ木を少し集めるか」
はしゃいでいる間に焚き火の火が小さくなっていた。
俺たちは手分けして枯れ木や枯れ葉をかき集めた。
ん? ついでに、あの件も確認するか……
俺は集まった枯れ木を見て、ある検証を思いつく。
「よしっ! ハル、お願い!」
アキに促されるが、俺は魔法を使わず山田に視線を向ける。
「む? なにでござるか?」
「山田、《火遁の術》で火をおこせるか?」
「フッ……余裕でござる」
「なら、頼む」
「承知! 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前! 我が呼び声に応え――」
「っと……待て!」
「むむ? どうしたでござるか?」
「えっと……なんて言えばいいんだ……そうだ、無詠唱で《火遁の術》は使えないのか?」
「無詠唱……! 悪くない響きでござる! では、参る!」
山田は集まった枯れ葉の前で印を組む。
大気を焦がす火柱が巻き起こり、集めた枯れ木を塵へと変える。
「むむ……強すぎたでござるか……」
「強すぎた……じゃないよ! せっかく集めたのにー!」
焚き火どころか、枯れ木の置いてあった場所は焦土と化している。
なるほどね……。
あの中二病満載の詠唱は、必要動作じゃないのか……。
コイツ……どうしようもねーな……。
俺は一つの検証結果に満足し、再び文句を言うアキたちと共に枯れ木を集めるのであった。
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