準備
「この世界で生き抜くための準備だな」
「生き抜くための準備?」
俺は自分の推測を仲間たちに話し始める。
「まずはこの世界がどんな世界なのか全く分からない。そして、この森がどこにあるのかも分からない」
「わからないことだらけだな」
「そうだな」
俺は思わず苦笑してしまう。
「この世界に人はいるのか? 海はあるのか? 町はあるのか? と、色々とわからないが……仮に、この森を抜けた先に人のいる町があるとしよう」
「希望のもてる推測だ」
「そうなると、その町から地続きであるこの森にゴブリン――人を襲うモンスターが生息することになる」
「違う場合――ここが無人島だったら……船を作ることから始めることになるのか」
「ハハッ……そうなると、またやることが変わるな」
全てが推測だ。何一つわからない今の状況に思わず笑いが込み上げてくる。
「話を戻すぞ。仮に町があり、人がいるなら……この世界はモンスターと人が共存している世界になる」
「ぼ、僕は……最初からそんなイメージだったよ……」
ファンタジー好きの馬渕が何度も首を振る。
「そうだな。魔法があって、モンスターがいて……武器があって、スキルもある。まさしく、ゲームや小説みたいなファンタジーの世界だな」
そして、俺の推測はナツの唱えた無人島説じゃなくて、馬渕のイメージするファンタジー世界説だ。
「ふっふっふ……そうなると某が長年、
「山田の言うお約束のテンプレがどこまで通じるかはわからないが……モンスターがいる世界なら人はある程度の力が備わっていると思う」
「冒険者でござるな!」
「そんな職業もあるのかもな」
「わ、ワクワクするけど……少し……怖いよね……」
「安心召されよ! 馬渕殿は親友である某が命を賭して守るでござるよ」
同好の士である、山田と馬渕が盛り上がる。
「えっと、ハル……つまりどういうことなの?」
しかし、ラノベやゲームに疎いアキはピンとこないようだ。
「俺の推測している世界――ファンタジー世界なら、いきなり見知らぬ町に行くならある程度レベルを上げたほうがいいと思うってことだな。幸い、この森の中では生き抜くことができる」
ゴブリンより強いモンスターが現れたら逃げの一手だが、今の知る限りの脅威レベルなら……死ぬことはないし、食料の確保も何とかなる。
見知らぬ地に行くよりも……この森に留まる方が生存確率は高いのだ。
町に行くとしても……【忍者】である山田や、【索敵の才】を所持しているアコが成長してからの方が色々と立ち回りやすくもなるだろう。
「えっと……つまり、ハルの言う準備って言うのはレベル上げ?」
「後はさっきも言ったが、素材集めだ。ここから先は馬渕と沼田次第になるが、集めた素材で装備も一新できたら最高だな」
「ゴブリンを倒して、素材を集めて、装備を強化。ゲームみたいだな」
「あはっ! うちはゲーム大好きだよ!」
「もう、ミユったら……本当のゲームじゃないからね」
「ん。ゲームなら任せて……私とマハルが組めばクリアできないコンテンツは存在しない」
「アコの言うとおり、ゲームじゃないけどな」
「某……幼少のときよりこのような事態に備えておりました。松山殿、何かあれば某にご命令を!」
「備えていたって……妄想だろ?」
「イメージトレーニングと言ってほしいでござる」
山田のイメージトレーニングの発音はかなりネイティブだ。流石は帰国子女。逆に胡散臭く聞こえるが……。
「中期的な行動指針はこんな感じだが、まずは……目先の課題から終わらせるか」
「ん。任せて」
「が、がんばるよ」
メイと沼田に視線を向けると、二人は首肯する。
「あ、ゴブリンなら……ここを進んだ先にいるけど、ハル君どうする?」
「え! アコ、なんでわかるの!」
「わぁ! アコちゃん、凄い!」
「【索敵の才】の効果なのかな? 何か……説明は難しいけど気配を感じるの」
はしゃぐミユとメイに、困った表情を浮かべながらアコが答える。
「メイ、沼田……準備はいいな?」
二人は無言で頷いた。
「アコ、ゴブリンの数とかもわかるのか?」
「うん。3匹だと……思う」
「3匹か……」
「松山殿……ここは某に一番槍の誉を!」
「あ! 山田、ずりーぞ! 松山、1匹は俺が倒してもいいだろ?」
「そうだな……山田、《忍術》使えるよな?」
「むむ? 流石は『千里眼』の松山殿……隠し事はできないでござるな」
まぁ、《鑑定》で見えるからな。
『種族 覚醒者
適性 忍者
特性 忍術の才
ランク F
肉体 F+
魔力 F
スキル 忍術(E)
→火遁の術
→水遁の術
短剣技 (F)
投擲 (F)
忍び足 (F)
』
「《火遁の術》と《水遁の術》……? どんな効果だ?」
「――!? な、何故……誰にも見せたことがない……《水遁の術》まで知っているでござるか……」
……あ。やべ……油断した。
人を《鑑定》できることは説明してなかったな……。
ここにいる全員は仲間だ。信用してもいいだろう。
「みんなには言い忘れてたが、俺の特性――【鑑定の才】は人も鑑定できるんだ」
「――な!? つまり松山殿は……伝説の奥義――『ステータスオープン』ができるのでござるか?」
「オープンはできないが、ある程度なら把握することはできるな」
「ん……ちょっと待て……ってことは……ハル! ひょっとして佐伯たちの――」
「ここにいるのは全員信頼できる仲間だ。《鑑定》については、後で話す。今は、メイと沼田を覚醒させよう」
「お、おう」
「それで、山田、《水遁の術》の効果を教えてくれ」
「『日の本の孔明』と言えど、知らぬこともござったか」
「たくさんある。それで、効果は?」
「水蒸気を発生させ、こちらを認識させずらくする忍術でござる」
「《火遁の術》は?」
「火柱を発生させる忍術でござる」
んー……メイと沼田がトドメを刺しやすくする感じの効果じゃないな……。
「山田、ゴブリンを1匹、一人で倒せるか?」
「フッ……愚問でござる」
「それじゃ、山田はゴブリンを倒してくれ」
「承知でござる!」
「俺とワタルでゴブリンを弱らせる」
「今回は山田に譲るか」
「ナツとアキは念ためメイ、沼田、馬渕、ユウコを守ってくれ」
「任せろ!」
「メイ、アコ、ミユは後方で待機かな」
「はーい」
「えー! ……まぁ、リーダーのハルっちに従うよ」
「わかりました」
そもそもゴブリン3匹なら、俺一人でも倒せる。
過剰な味方の戦力に戸惑いながら、ハル派としての初陣に向かうのであった。
―――――――――――――――――――――――
(あとがき)
明日の更新はお休みとなります。
次回の更新は月曜日か火曜日となりますm(_ _)m
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