旅立ち

「それでハル、どうするんだ?」


 仲間と共に元いた拠点を発ってから10分。振り返っても目に映るのは鬱蒼と生い茂る木々のみ。そんな森の中で隣を歩くナツが声を掛けてきた。


「とりあえず、川の上流を目指して2日ほど進もうかと」

「え? そんなにも進むの?」

「その目指す先には、何かあるのか?」


 俺の答えにアキは驚き、ナツは答えを深読みする。


「何があるって……川?」

「川ならすぐそこに流れてるじゃん!」

「言葉足らずだったな。まずは、俺たちの――獅童派の新たな拠点を――」

「「「ハル派ね!」」」


 俺の答えに、アキとナツのみならず仲間たち全員が異を唱える。


 ここで俺が反論しても水掛け論が続くだけ。面倒なので訂正しないで話を先に進める。


「出来れば生活圏内……いや、狩り圏内は佐伯たちと被らないようにしたい」


 佐伯はこの世界におけるレベルの重要性に気付いている。今後も継続的に……いや、今まで以上にレベル上げに精を出すだろう。


 そうなると、狩りの範囲が佐伯たちと被るのはよろしくない。特に相澤のような単細胞と狩場でバッティングでもしたら、一騒動起きるのは目に見えている。


「確かに剛たちとのわだかまりは消えてないから……ハルの判断は賢明だな」

「流石は『日の本の孔明』……いや、『千里眼』の名で謳われる松山殿でござる。某、感服仕つかまつった」


 お、また俺の二つ名が増えたぞ……嬉しくはないが。


「それで、『千里眼』の松山には具体的な策はあるのか?」


 ワタルは悪ノリしているのか、山田が勝手に付けた二つ名を引用する。


 ワタルは何度か俺のことをハルと呼んだが、しっくりこないらしく結局松山と今まで通りの呼び名で呼ぶことになった。


「策と言うか……予定だな。とりあえず、最優先にすべきことは田中さ――」

「マハル、メイ」

「……メイと、沼田を『覚醒者』にすること」

「【双剣士】になって、私はマハルの剣となる」

「俺はセイントじゃないから、メイを癒せないけどな」

「マハルに回復を期待したことは一度もないから、大丈夫」

「いやいや、強敵との戦いのときはちゃんとヒーラーとして……って、GOの話はいいから。あと、マハルじゃなくて、ハルな」

「ん」

「むぅ……なんか田中さんとハルが急接近してる!」

「マハルと私は最強のタッグだから」

「私とハルだってすっごく長い付き合いで、以心伝心なんだから!」

「あはは! ハルっちモテモテじゃん!」


 メイとアキが言い争いを始め、それを見たミユが俺をからかい始める。


「はぁ……違う。なんて言えばいいんだ……えっと、ナツわかるだろ?」

「当たり前だ! ハルの最強の相棒は俺だからな!」

「……いや、それも違う……」

「――!? そ、そうなのか……」

「ふっふっふ……当然ですな! 松山殿の最高の――」

「山田……その流れはもういい」

「――な!?」

「それで、その具体的な予定はどんな感じなんだ?」


 ワタルがようやく脱線した流れを修正してくれた。


「今日中にメイと沼田を『覚醒者』にする。次に、川の上流を目指して、その後拠点に最適な場所を見つける」

「次の拠点もやっぱり川の近くにするの?」

「可能なら川から離れて……湧き水の湧いている洞窟とかを見つけられたら最高だな」

「洞窟の中なら雨風も凌げるな!」

「それもあるが……川の近くに拠点を作ったら佐伯たちに居場所がバレるだろ?」


 拠点を作るなら普通に考えたら川の近くだ。


 水がないと人は生きていけない。


 俺たちは上流方向に旅立ったのは佐伯たちも目撃している。少し頭を働かせれば、俺たちの拠点は上流にあると想像できるだろう。


 だからこそ、佐伯たちが発見しづらい場所に拠点を設置する。


 俺たちは佐伯たちの拠点の場所を知っているが……佐伯たちは俺たちの拠点の場所を知らない。これは将来的にアドバンテージとなる可能性がある。


 俺たちと佐伯たちは敵同士ではない。攻め込んでくるということはないと信じたいが……厄介ごとに巻き込まれる可能性はある。


 薄情かも知れないが……俺が助けたいのは……いや、今の俺に助けられるのはここにいる10人の仲間たちだ。


「と言うことは、まずは川の上流を目指して、当面はそこを仮拠点にして、拠点の候補地を探す……ってことでいいのか?」

「そうなるな。補足するなら、並行してレベル上げや、素材集めも進めていく」


 ワタルがまとめた話に俺は補足を付け足した。


「そ、それで……拠点を見つけた後はどうするのでしょうか?」


 今まで静かに俺の話を聞いていたユウコが問いかけてくる。


「ある程度レベルを上げたら……冒険に出かけるしかないかな」

「冒険……ですか?」

「まずは、この世界にコミュニケーションが取れる生物がいるのか探す」

「コミュニケーションが取れる生物って……人間のこと?」


 アキが会話に入ってくる。


「この世界に俺たち以外の人間がいるならそうなるな」

「え? いないのかな……」

「どうだろうな……。ひょっとしたら、ゴブリンが支配する世界なのかもしれない」

「この世界に……人間はいないのでしょうか……」

「んー……正直言えばいると思う」

「え? そうなの? もう! ハル! 驚かせ過ぎだよ!」


 アキが俺の肩を軽く叩く。


「ハルがそう思った理由は?」

「ゴブリンたちの行動だな」

「ゴブリンたちの行動?」

「ゴブリンは俺たちを見ると襲ってくるだろ?」

「そうだな」

「でも、あいつらウルフを見ても襲わないんだ」

「そういえば……そうだな」

「だから……ゴブリンは俺たち――人間の存在を知っているのかな? と、思っただけだ」

「だったら、拠点なんてまどろっこしいことをしないで町? 国? 村? とにかく! 人の集まる集落を探したほうがよくないか?」

「それも選択肢の一つとしてはありだが……念には念をいれると、準備してからのほうがいいと思ってる」

「準備って……一体何の準備をするんだ?」


 ナツは俺の言葉に疑問をぶつけてくるのであった。



―――――――――――――――――――――――――――――――

(あとがき)


 本作をお読み頂きありがとうございます。


 と、言う訳で第2章スタートです!


 今後の更新予定としては……別作品(トプセカ)の執筆と調整しながら、週3〜4話の更新を目標に頑張りたいと思っています。(現在ストック0です……汗)


 安定した更新準備ができましたら、あとがきにてお知らせ致します。


 今後もハルの冒険にお付き合いのほど、よろしくお願い致しますm(_ _)m

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