SIDE−S⑥

 松山たちの様子を探らせていた宮野からの報告によれば、奴らは大人しく食材集めをしているとのことだった。


 相澤たちの悪行は日を追うごとに酷くなっている。


 松山が言うことが事実なら……と言うか事実だろう。クラスメイトにセクハラやパワハラまでしているようだ。


 そろそろ相澤たちの対策も考えなくては……。


 今、あいつらを頭ごなしに押さえつけたらどうなる? 大人しく俺に従うだろうか?


 内海、木下、北川の3人を相澤と離してみるか? 村井は相澤と仲が良いが……空気は読める奴だ。


 まずは相澤を孤立させてみるか……。


 今更獅童に泣きつくことはないだろう。


 とは言え、突然距離を置いたらあのアホはどんな暴走をするかわからない……。


 徐々に切り離していくしかないのか……。


 クラスメイトの不満が爆発する前に……間に合えばいいが……。


 あぁ! クソっ! 面倒だな!


 ここまで厄介になるなら、最初から獅童に押し付けとくべきだった!


 とりあえず、相澤対策として武器に頼らない『素質を覚醒せし者』――【賢者】の確保が最優先だな。



  ◆



 翌日。


「立花さんには助けられた。借りを返すよ」

「真司を助けてくれたお礼をしなくちゃね」

「舞が行くなら、私も行こうかな」


 『素質を覚醒せし者』の候補を集ったところ、乾、栗山、菅野の3人が立候補した。


 乾は佳奈に命を救われている。


 乾、栗山、菅野なら相澤たちのように暴走する危険性はないだろう。


 何より命を救った佳奈に恩を感じている。


 【賢者】には、最適な人材だ。


「出発するぞ」


 俺は相澤、佳奈、内海、木下、北川、村井に、乾、栗山、菅野を加えた10人で拠点を出発した。


「にしし……いっぱいになったねー」

「そうだな。少し多い気もするから、次回から狩りに行くメンバーをもう少し絞るか」


 佳奈ナイスだ!


 これで、自然な形で次回の狩りから相澤を外すことができる。


「立花さんたちは何か余裕だね」

「にしし……余裕っしょ!」

「凄いなー。私なんてまだまだ不安だよ」

「わかるー! 怖いよねー」

「安心しろ! 舞のことは必ず俺が守る!」

「そんなこと言って……前回怪我したのは誰だっけ?」

「……そ、それは……」

「あのときは本当に心配したんだからね! もう、無茶はしないでよ……」

「わかった……すまない……」


 乾と栗山がいちゃつき始める。


「大切な話をしているところすまないが、いいか?」

「す、すまん。なんだ?」

「乾には【賢者】と【魔力の才】を選択して欲しいのだが、いいか?」

「ん? 別に構わないが……自分で選んだらダメなのか?」

「一人で生きたいなら別に構わないが、俺たちと協力して生き残りたいのなら、指示に従ってくれ」

「いや……別にそう言う訳じゃないが……【賢者】と【魔力の才】か……」

「真司は【賢者】が嫌なの?」

「嫌と言うか……【賢者】ってイメージ的に魔法で戦うんだろ? 俺的には騎士とかを選んで舞を守りたい……と言うか……」

「……真司」


 またも、乾と栗山がいちゃつき始める。


 クソっ! こいつらの頭の中はお花畑かよ!


「乾、聞いてくれ」


 俺が乾を説得しようとすると、


「わかった! 私が【賢者】になるよ! 真司は騎士になって私を守って! 佐伯くん、それなら問題はないでしょ?」

「あ、あぁ……問題はない」


 どうなることかと思ったが、栗山が【賢者】を選択することで落ち着いた。


 運良く1匹で彷徨うろいているゴブリンがいたので、栗山に倒させようと思ったが……乾がうるさかったので乾に倒させた。


 乾は先程の会話のとおり、【騎士】と【盾の才】を選んだ。


 その後、森の中を散策し3匹のゴブリンを発見。


「ハッハーッ! 燃やしてやるよ!」


 クソっ! 相澤に経験値を与えたくなかったが……相澤はいの一番に飛び出した。


 相澤は瞬く間にゴブリンを1匹殴り殺し、もう1匹は木下が短剣で刺殺した。


 残ったゴブリンは俺の《咆哮》で動きを止めている間に内海が斧で足をぶった切った。


「よし……生きてるな。栗山、トドメを刺せ」

「う、うん……」

「【賢者】と【魔力の才】だぞ……間違えるな」

「……うん」

「舞、大丈夫か? 辛いなら……」

「乾! これは栗山のやるべきことだ! 大切な彼女を無力なままこの世界に放り投げてもいいのか!」

「――ッ!?」

「頑張る……私頑張るよ!!」


 栗山は目を瞑りながら渡した斧をゴブリンの頭に振り下ろした。


 よし……それでいい。


 3秒ほど待つと、斧を振り下ろした栗山がゆっくりと動き出した。


「どうだ? 成功したか?」


 俺と相澤は最初の襲撃で無我夢中な状態で『素質を覚醒せし者』になったが、佳奈を含めた他の5人は違う。


 失敗などあり得ないが、一応礼儀として問いかけた。


「あ、あの……えっと……何て言えばいいんだろ……」


 振り返った栗山は目に見えて動揺している。


「どうした! 何があった!」

「え、えっと……何か【賢者】はすでに他の覚醒せし者? に授けてるって言われたよ……」


 ――!?


 すでに他の覚醒せし者に授けてる……だと!


 どういうことだ!


 【賢者】も【勇者】と同じ特別な【適性】なのか!


 俺が勇者を念じたときに謎の言葉に言われた台詞と酷似していた。


 すでに授けてる……?


 ――!


 まさか……あり得るのか……。


「えっと……松山くんが時間内に選ばないと何も得られないって言ってたから……目についた【精霊遣い】と【魅惑の才】を選んじゃったけど……だ、大丈夫かな……」

「菅野! 今からゴブリンを倒せ!」

「え?」

「そして、文字の光が消えている【適性】が何かを俺に教えろ!」

「え? え? ど、どういうこと?」

「クソっ! 行くぞ! さっさとゴブリンを探すぞ!」


 俺は苛立ちを隠しきれず、相澤たちに命じる。


「お、おう。別にいいけどよ……冬二大丈夫か?」

「大丈夫だ! いいから、さっさとゴブリンを探すぞ!」

「お、おう」


 その後、2匹のゴブリンを発見。


 難なく1匹倒し、生き残ったゴブリンを瀕死にして菅野にトドメを刺させた。


「どうだ!」

「えっと……【戦士】、【魔法剣士】、【魔闘士】に……」

「もういい! いくつだ! 【適性】の文字の光が消えていたのはいくつだ」

「ちょっと待って……【賢者】に……【聖騎士】に……20! 20の【適性】の文字の光が消えてた!」


 20だと……。


 文字の光が消えている【適性】はすでに選択された【適性】だ。


 最初から選べなかった……或いは誰かが隠している謎の【適性】――【勇者】を除けば、選択された【適性】は俺たち7人に、乾の【騎士】と栗山の【精霊遣い】に留守番をしている宮野の【料理人】を含めて10。後は、初日にゴブリンを倒した松山と獅童の【適性】が2。


 計算が合わない数は――7。


 最近、松山と獅童の寝床近くに移動したクラスメイトの数も――7人。


「おい、冬二どういうことだ?」

「とーじ、だいじょぶ?」

「チッ……松山の野郎……やりやがったな……」

「……松山? どういうことだ? あの野郎がなにかしたのか!! クソっ! 雑魚が調子に乗りやがって……ぶっ殺してやる!!」

「――! ま、待て!」


 怒りに支配された相澤が拠点の方へと走り去った。


「クソっ! 追うぞ!」


 俺たちのクラスの中に決定的な亀裂が入ったのであった。



―――――――――――――――――――――――――――――――

(あとがき)


 本作をお読み頂きありがとうございます。


 これにて第1章が完結となります。


 リメイクのために一度読み直した結果……最後の舌戦のシーンを気に入り、ここは変えなくないなぁ……と、思いながら手直ししていたら……あんまり変わらなくなりました(涙) ごめんなさい……。


 次回の第2章からは……開拓編でしょうか?


 第1章はクラスメイトたちの駆け引きがメインとなりましたが、第2章からは異世界を楽しく(時に辛く)生き抜く話となる予定です。


 ここまでのお話でお気に入り頂けたなら、お手数をお掛けしますが、作品フォロー及び☆にて評価して頂けると幸いですm(_ _)m


 今後とハルたちの冒険にお付き合いのほどよろしくお願い致します。

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