☆SIDE−S④
ゴブリン捜索に向かった後もひと悶着があった。
捜索を始めて早々に相澤のバカが調子に乗ったのだが、力の差を見せつけたら大人しくなった。
【力の才】様々だ。
今の俺は常人からは逸脱した肉体を有していた。
その後、順当にゴブリンを倒し佳奈だけでなく、残りの3人も【適性】と【特性】を得ることができた。
村井には俺の指示で、【僧侶】と【水の才】を選択させた。
これで回復できる特別な存在はこちらの手中に収まったことになり、佳奈の地位はさらに盤石になった。
これにより、人が生きていくうえで最も大切なライフライン――水も手中に収めた。
村井は【僧侶】で戦闘力には乏しい。最初に力を示したこともあり、俺に逆らうことはないだろう。
とは言え、力のみで押さえつけるのは愚行だ。
人はある一定の地位――上位の
だから、上位の階級にいると思わせるように働きかければ大丈夫だろう。
ここまでは完璧だ……。俺と佳奈を守る体制が着実に出来上がっている。
しかし、油断は禁物だ。
今も、何も考えないバカたち――内海、木下が獲得した【適性】を試したいと、無駄な行動――ゴブリン探索を続けていた。
内海、木下の意見を拒否するのは簡単だ。しかし、力で押さえつけ、意見を拒否ばかりしていては……こちらから離れ、獅童――松山につく可能性もある。
俺は仕方なくバカたちの遊戯に付き合うことにした。
そして、ようやく5匹のゴブリンを発見。
「さっさと済ませて帰るぞ」
俺は先程倒したゴブリンから奪った粗末な槍で1匹のゴブリンを力任せに貫くと……
――!?
何だ……コレは……体が内側から……熱くなる……。
謎の高揚感はすぐに収まり……自分の身に起きた変化に気付く。
――!
……成長した?
【力の才】によって常軌を逸した肉体を有していたが、更に強靱になった!?
「さ、さ、さ、さ、佐伯!?」
相澤の身にも俺と同じ現象が起きたようだ。
レベルアップ……?
異世界転生に魔法……今日という日は非常識のオンパレードだ。
ならば、モンスターを倒したらレベルアップという非常識も起こり得るのだろう。
「うぉぉぉおお! やっべー! 異世界やべーな! おいっ!」
相澤は溢れるアドレナリンを抑えきれずに雄叫びをあげる。
この世界はモンスターを倒せばレベルアップ――強くなることができる。
現在、そこでアホみたいに叫んでいる相澤が俺に従う理由は――俺に力で屈したからだ。
ここは異世界。
金も権力も意味は持たない。
どこぞの世紀末ではないが……この世界では力こそが全てだ。全てでないにしろ、大きな影響力をもつ。
俺は相澤に力を示して屈服させた。
そして、この世界はモンスターを倒せばレベルアップし、力を高めることができる。
松山はこの仕組みに気付いているだろうか?
いや、気付いてはいない。
これは一つの大きなイニシアティブになる。
「相澤! 今起きた現象――レベルアップのことは誰にも言うな!」
「は? 夏彦にも隠すのか?」
「獅童を含め、誰にも言うな! わかったか!」
俺は手の中にある粗末な槍を力強く握る。
「お、おう……」
「他の皆も同様に口外するな!」
「おけまる!」
「おう」
「冬二が言うなら」
「わ、わかった」
こいつらは黙っていることができるだろうか?
「獅童の……いや、松山に従ってこの世界を生きたいのなら好きにすればいい! しかし、今の立場――特別な存在であり続けたいのなら口外はするな」
「は? なんで松山が! あんな奴に従う気はねーよ!」
「ならば、レベルアップのことを口外しないことだ」
「俺は冬二を信じるよ!」
「お、俺もだ!」
「夏彦はともかく……松山に従うくらいなら俺は佐伯を信じる」
思った通り、松山は相澤たちからは良く思われていないようだ。
「佳奈の回復を待っている怪我人もいる。帰るとしよう」
この非常識な世界で、佳奈と共に生き残れる体制を築くため、俺は奮起するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます