☆SIDE−S③

 この集団の中で生き残るためのキーマンは獅童ではなく、松山だ。


 俺は松山を常に気にする獅童の様子を見て、この事実に気付いた。


 キーマンは獅童ではなく、松山。


 そして、獅童も松山も共に【適性】と【特性】を得ている。


 俺と佳奈が生き残るためには――どうすればいい?


 松山とは接点が一切なかった。


 獅童と違って、松山の場合は交友関係も性格も不明だ。どのように立ち回ればいいのかわからない。


「よし! これで大体の方向性は決まったな! 最後に【僧侶】か【聖者】を希望する者……いるなら名乗り出てくれ」


 俺が悩んでいる間もクラス会議は獅童の進行で進んでいく。


 クラスメイトを治療するための【僧侶】か【聖女】になる者を募集か。お優しいことだ。


 ――!


 病院も薬もない森の中……怪我を治せる存在は重宝されるのではないか?


 【僧侶】或いは【聖女】であれば、誰もが蔑ろにできず……大切にされるはず。


 佳奈をその地位につけば、安全は保障される?


「……じゃ、じゃ私が――」

「……誰もいないなら私が――」


 俺が悩んでいると、クラスメイトが2人立候補する。


 違う。こいつらじゃない。その地位につくのは――佳奈だ。


「獅童、一つ確認してもいいか?」


 俺は立ち上がり、獅童に声をかける。


「ん? 何?」

「【僧侶】と【聖者】……どっちを選んでもいいんだよな?」

「構わないが……佐伯は選べないだろ?」

「選ぶのは俺じゃない――佳奈」


 俺は隣に座る佳奈に声を掛ける。


「んあ? とーじ、なに?」

「佳奈、【聖者】にならないか?」

「へ? あーしが?」

「そうだ」

「んー……とーじが言うなら、おけまるだょ」


 佳奈は俺の頼みを快く引き受けてくれた。


 これで佳奈の身は安泰だ。


 佳奈を危険に晒してしまうが、命を賭してでも守ってみせる。


「獅童、それに古瀬と栗山……異論はあるか?」

「俺は別に構わないが……」

「松山もいいよな?」

「誰も異論がないなら……俺も異論はないよ」


 俺は立候補した2人のクラスメイトと獅童、そして真のキーマンである松山に念押しをする。


 これで、佳奈も【適性】と【特性】を獲得すれば、俺たちは特別な存在になれる。発言力も高まるだろう。


 ん? 待てよ……発言力も高まる?


 野球部内だと、スタメンと補欠とでは発言力が雲泥の差があった。


 スタメン――力ある者は発言力が増す。


 スタメンの中でもキャプテン、或いは4番、エースと力ある者は更に高い発言力を持つが……同じ立場であれば、多数決――数を制した者に決定力は与えられる。


 今の状況で、力がある者は――【適性】と【特性】を有した者。


 ならば、【適性】と【特性】を有した者を集めれば……この集団の発言権――決定権を得られる。


 決定権があれば、俺と佳奈にとって利になる方向に導くことができる。


「そうか、なら次は、ゴブリン探索に向かうメンバーだが、俺、相澤、佳奈……3人だけなのか?」


 俺は獅童ではなく松山に問いかける。


「他に参加を希望するクラスメイトがいるのなら……参加してもいいと思うけど……実際に探索に向かうのは佐伯君たちだ。何人がいいと思う?」


 松山は同行メンバーを俺に一任してくれるようだ。


「そうだな……多すぎると行動が制限される……しかし、少人数だと危険が増す……」


 俺は思考する。


 これはチャンスだ。


 ここで俺に賛同してくれる者に【適性】と【特性】を獲得させれば、盤石の体制となる。


 大人しく俺に従いそうなのは……同じ野球部の内海うつみ木下きのしただ。あの二人はスタメンの俺に強く意見は言えず、物事を深く考えることもできない。


 この2人は同行させよう。


 こうなると、もう一人の同行者――相澤は邪魔だな。


 相澤は獅童と同じサッカー部で、獅童に心酔しているクラスメイトの一人だ。


 仮に俺と松山で意見が割れたときは……ん? 松山?


 そうだ。向こうのリーダーは獅童ではなく松山。


 相澤は獅童には心酔しているが、松山に対しては?


 先程からの様子を見る限り、嫌悪している。相澤は粗暴でどうしようもない奴だが……【適性】を有している。


 ならば、こちらに引き込むか?


 そうなると、相澤と仲の良い同じサッカー部の村上が内海、木下とも交友関係にあるはずだ。


 相澤と村上は放っておけば獅童に付き従うだろう。ならば、先手を打ってこちらに引き込むべきか?


「6人だな。さっきの生物……ゴブリンだったか? 奴の持っていた武器は全部こちらで使っていいのか?」

「残る者にも防衛の手段は欲しい。2本は俺と獅童君に残してくれないかな?」

「つまりこっちは3本か……分かった」

「最後に、その6人だが……俺が選んでもいいか?」

「一緒に捜索する相澤君と立花さん、それに指名された人が受け入れるなら……いいんじゃないかな?」

「それなら、内海うつみ木下きのした村井むらい……一緒に来てくれないか?」


 俺は内海、木下、村井に声をかける。


「お、おう」

「佐伯が言うなら、いいぜ」

「ん? 俺?」

佳祐けいすけいいじゃねーか! 一緒に行こうぜ!」

「剛が言うなら……しゃーなしだな」


 3人は俺の誘いに応えくれた。


 ここまでは順調だ。後は俺がこいつらの上手く取り込めるか……だけだな。


 佳奈を【聖女】にするためのメンバーは決まった。


 早々に出発の準備に取り掛かろうとすると、


「佐伯君、一つ聞いてもいいかな?」

「何だ?」


 松山がこちらに近づき声を掛けてきた。


「何で、俺に確認したの?」


 ハッ! 何を今更言っている?


「松山が納得したら、獅童も納得するから」


 俺は当然の答えを松山に返したのであった。

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