レベルアップ!

「それじゃ、俺は少し森の中を散策してくるから……2人は上手く誤魔化しといてくれ」

「また、1人で行くのか?」

「また……? 1人で……? って、どういうこと?」


 俺はランクアップの仕組みを確認するために、ナツとアキに居留守を頼むが……昨日の夜の出来事を知らないアキの眉間には皺が刻まれる。


「えっと……それは……――! ナツに聞いてくれ! んじゃ、行ってくる!」

「な!? ちょ、ハル……それは……」

「え!? ハル! どういうことなの!」


 俺は慌てるナツと怒りモードのアキを置いて、そそくさと森の中へと抜け出すのであった。



  ◆



 拠点から離れた森の中、俺はこの世界に来てから使い続けていた短剣ではなく、昨日の夜の戦闘で拾った長剣――ゴブリンの剣を手にした。


 鑑定によると、俺の選んだ【魔法剣士】の適性武器は短剣ではなく、長剣だ。


 残念ながら佐伯自身は己の適性武器を誤っていた。竜騎士の適性武器は『大剣』だ。佐伯は何かのイメージに引っ張られて『槍』を選んだのだろう。この事実を伝えれば、クラス全体としては戦力アップに繋がるかも知れないが……立ち位置が定かではない今は伝えるつもりはなかった。


 俺の場合は、短剣技のランクはHで、剣技のランクはFなんだよな。


 んー……言われてみれば、手に馴染む?


 俺はあまり体感出来ないランクを信じながら、剣を何度か素振りする。


 剣――謂わば、金属の塊の割には軽い?


 ヒュンッ、ヒュンッ、と風を切る音もどこか心地良い。


 これがスキル補正なのか?


 当たり前の話だが、剣を振るのは初めてだ。丸めた新聞紙を剣に見立てて振ったことはあるが……本物の金属製の剣を振るのは初めてだった。


 まぁ、剣はちゃんと振れてるいる。戦うことは出来るだろう。


 俺は敵の気配を探りながら、慎重な足取りで森の中を進んだ。


 ガサガサと、木の葉が揺れる音がした。俺は息を殺し、慎重に音のする方へと視線を向けた。


 発見!


 そこには見慣れた異形の魔物――ゴブリンが3匹歩いていた。


 ってか、この世界はゴブリンが多いな……。


 実はこの世界はゴブリンの世界で、俺たちは凶悪な侵略者ってオチはないよな?


 俺はつまらないことを考えながら目の前のゴブリンに集中する。


『種族  ゴブリン

 ランク H 

 耐性  土属性

 弱点  火属性 風属性

 肉体  H

 魔力  Z

 スキル なし  』


「は?」


 俺は思わず声を漏らしてしまい、慌てて口に手を押さえた。


 鑑定の精度が上がっている?


 俺は自分の手のひらを見つめて、自分を鑑定する。


『種族  覚醒者

 適性  魔法剣士

 特性  鑑定の才

 ランク F

 肉体  F

 魔力  F

 スキル 魔法剣(F+)

     →エンチャントファイア

     →エンチャントアイス

     鑑定 (D)

     剣技 (F)

     短剣技(H) 』


 ――!


 鑑定のランクが"E"から"D"へと成長していた。


 何でだ……?


 前回、自分を鑑定してから今までにしたこと……


 ――!


 クラスメイト全員を鑑定した。


 鑑定したモノの種類の数によってランクが上がる? 人の鑑定は得られる熟練度が高い……とか?


 考えていても、答えは得られない。


 一つ確かなのは……スキルは戦闘とは関係なくランクが成長するということだ。


 前回、ゴブリンを一撃で倒せなかったのは《エンチャントアイス》――氷属性で攻撃したからなのか。


 新しく習得した魔法より、最初から習得していた魔法の方が効果が高いとか……罠だろ……。


 まぁ、いい……弱点は把握した。


 ――《エンチャントファイア》!


 手にした長剣が炎を纏う。


 んじゃ、いきますか!


 俺はゴブリンの死角から飛び出し、背後から炎を纏った長剣を一閃。


「ギ……ギ、ギィ……」


 1匹のゴブリンがあっけなく地に沈んだ、その時――


 ――ッ!?


 何だ……この感覚は……。


 身体の奥底が熱い……。


 その感覚は始めてエナジードリンクを飲んだ時の高揚感を何十倍にもしたものだった。


 集中しろ……! 今は目の前に敵に集中するんだ!


「「ギィ! ギィ!」」


 仲間が倒されて、俺を威嚇するように叫ぶゴブリンに意識を集中。


「――ハッ!」 


 1匹のゴブリンの首元に長剣を突き刺し、その命を奪う。


 ――!?


 残されたゴブリンが振り下ろしてきた斧の一撃を無様かもしれないが、その場で倒れ……転がりながら回避。


「死ねっ!」


 俺は起き上がりざまに柄を押し込むようにゴブリンの胴体に長剣を突き刺した。


「ハァハァ……」


 楽勝だった……とは、言い難いが……俺は一人でゴブリン3匹を倒すことに成功した。


 そして、自分の手のひらに視線を落とし意識を集中させる。


『種族  覚醒者

 適性  魔法剣士

 特性  鑑定の才

 ランク F+

 肉体  F+

 魔力  F+

 スキル 魔法剣(F++)

     →エンチャントファイア

     →エンチャントアイス

     →エンチャントウインド

     鑑定 (D)

     剣技 (F)

     短剣技(H) 』


 おぉ……。上がってる!


 Eランク! とは、いかなかったが……Fの後ろに“+“のマークが付いた。


 ってか、F+って何だよ……。


 普通に数値じゃダメだったのか? この世界には数値と言う概念がないのか?


 鑑定の仕様に愚痴を吐きつつも、俺はレベルアップすることに成功したのであった。

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