新たな仲間

 レベルアップの仕様が確認出来た俺は拠点へと戻った。


 すると、相澤たちの怒声が聞こえてきた。


「しつけーな! 何で、てめーを連れて行く必要があるんだよ!」

「キモオタは大人しく木の実を拾ってろ!」

「後生でござる……某に……某にも力を下され!」


 言い争っているのは、相澤、内海、木下の問題児トリオと……見た目はナツの次に整っているが、性格が個性的過ぎるクラスメイト――山田マイケルだった。


 山田マイケルはハーフだった。聞いた話によれば、父はフランス人で、母は有名なコスプレイヤー。


 黙っていれば、アイドルにも似てるのだが、山田の親友――馬渕からの情報によると、両親からの英才オタク教育の果てに……今の個性が完成されたらしい。


「だ・か・ら……連れて行くメンバーを決めるのは佐伯だ!」

「ならば、佐伯殿に某を……」

「どちらにせよ、てめーみたいなキモオタは最後の最後だよ!」

「大人しく、木の実でも拾ってろ!」


 ファンタスティックな存在である山田は、覚醒者になりたいようだが、昔から山田を見下していた相澤たちに拒絶されていた。


 ふむ……引き込むか。


 山田は性格はファンタスティックだが、悪い奴ではない……はずだ。


 俺は騒ぎが終息したのを確認すると、肩を落とし自分の寝床へと戻ろうとしていた山田に声を掛けた。


「山田君」

「む? 松山殿?」

「ちょっと話したいことがあるんだけど、いいかな?」

「何でござるか? 今期のオススメのアニメなら――」

「いや、この世界はテレビは見れないから……」

「むむ……某の聖書バイブルを貸して欲しいでござるか?」

「え? 何それ?」

「急な転移で数は少ないでござるが、不朽の名作『トプセカ』ならあるでござるよ」

「(聖書バイブルってラノベかよ……)いや、聖書バイブルにも興味はあるけど、別の話」

「むむ? 何でござるか?」

「とりあえず、向こうで話そうか」


 俺は誰もいない川辺へと視線を移し、山田と共に移動した。


「今から話すことは他言無用で頼む」

「ふむ……松山殿は某の親友ポジをご所望か? しかし、その枠はすでに馬渕殿が……」

「それは残念。で、他言無用オッケー?」

「松山殿はもう少し感情を表情に出したほうがいいでござるよ」

「忠告ありがと。で、他言無用オッケー?」

「……頑固でござるな。某と馬渕殿に害が及ぶ話でないのなら、約束するでござる」

「害はない。むしろ、山田君にとっては有益な話だ」


 ようやく本題を切り出せそうだ。


「ふむ、何でござろうか?」

「山田君は今の状況をどう思う?」

「ふむ……望んでいた状況ではあったが……ちと、不親切でござるな。某の経験によれば、最初は女神が現れて色々と説明をしてくれたり、チート能力を――」

「あ、ごめん……。この世界に転移したことじゃなくて、今のクラスメイトたちの状況。もっと言えば、相澤たちの態度」

「そちらでござったか……某、人を悪く言うのは好きではござらぬが……某の聖書バイブルの中には今の状況を予知していた作品もあったでござるよ」

「ほぉ……その作品にはどんな記載が?」

「クラスメイトの一部がクラスを支配するでござる。しかし、主人公――某、と言いたいが……似た人物は獅童殿でござるな。その者が、支配していた悪しき者を成敗するでござるよ」

「へぇ」

「しかし、今の獅童殿ではダメでござる……。救うどころか無気力でござる。故に、本来であればクールな二番手ポジを狙っていた某が……主人公になろうと決意したでござる」

「なるほどね」


 山田はこの世界を自分のよく知る作品ラノベのテンプレートに当てはめようとしていたようだ。


「そんな山田君に朗報だ」

「朗報? ……で、ござるか?」

「ナツは無気力になっていない。今もみんなを助けるために、水面下で頑張っている」

「ほぉ」

「そこで、山田君……覚醒者になってみないか?」

「覚醒者……で、ござるか?」


 山田の目が輝きを帯びる。


「覚醒者――魔物を倒して【適性】と【特性】を授かりし者だよ」

「――な!? た、たしか……松山殿も……覚醒者……! これは、盲点でござった! し、しかし……いいのでござるか……」

「こちらの条件をいくつかのんでくれるなら」

「条件……でござるか? ぐぬぬ……しかし……や、やるしか……某の身体は奪えても……心まで奪えたとは――」

「待て!」


 山田は葛藤の後、シャツのボタンを外し始めた。


 え? こいつ何なの? まさかのBLも守備範囲なの?


 俺は慌てて暴走する山田を制止する。


「む? ――! 人目を気にするタイプでござったか!」

「ちげーよ!」

「む? となると……条件は?」

「条件は今から話す。後、俺はBL守備範囲外だ」

「某もNLでござる……」

「NL?」

「ノーマルラブでござる。ちなみに、百合は嫌いではないでござる」

「そんな個人情報はどうでもいい」


 俺は、想定以上にファンタスティックな存在だった山田に声を掛けたことを後悔し始める。


 とは言え、今更冗談でした。とも言えない。


 慣れないことはするものじゃないな……。


「条件は一つ……俺が許可を出すまで、このことは誰にも言うな」

「馬渕殿にも?」

「馬渕にも!」

「馬渕殿は心の友と書いて、親友でござるよ?」

「……」


 山田は純粋な眼差しで俺の目を覗き込む。


 馬渕も誘い込めばいいのか……?


 馬渕は佐伯グループ……と言うか、相澤たちとは互いに嫌悪している。


 頼りになるかは別として、都合はいいのか?


「わかった……馬渕も引き入れよう」

「本当でござるか! 感謝でござる……! この御恩はどのように返すべきか……ぐぬぬ……そ、そ、某を好きにしてもいいでござるっ!」

「だから、しねーよ! お前はNLとやらじゃねーのかよ!」

「しかし、古今より条件と言えば……そういうモノだと教育を受けてきたでござる」

「忘れろ……それは誤った知識だ……」


 顔を赤面させる目の前の変態を見て、やはり声を掛けたのは間違いだったのかも……と、後悔するのであった。

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