派閥会議①

 その後、馬渕を派閥に引き入れた俺はクラスメイトが寝静まる深夜になるのを待った。


「松山殿、入ってもいいでござるか?」

「どうぞ」

「失礼するでござる」

「お、お邪魔します」


 山田と馬渕が俺の寝床を訪れてきた。


 そろそろ頃合いか?


「来て早々悪いが、移動しようか」


 俺は山田と馬渕を連れ、周囲の気配を探りながら森の奥――ナツとアキとの待ち合わせ場所へと向かった。


「ハルか……それと、山田に馬渕?」

「私たちも今来たところだよー」


 待ち合わせ場所にはすでにナツとアキ、そして二人が選んだクラスメイトたちが待っていた。


「へぇ……結構多いな」


 待ち合わせ場所には、アキとナツの他に4人のクラスメイトが集まっていた。俺、山田、馬渕を加えたら集まったクラスメイトは9人となる。


 クラスメイトの数は27人。つまり、1/3もの人数が集まったことになる。


「えへへ、これもハルの人望だよ」

「アキ、私たちは松山君じゃなくて……獅童君がいるって聞いたからだよ?」」

「えっ? でも、ハル派だよ?」

「えっ? そうなの?」


 アキの友達が無意識に俺のメンタルを削る。


「ここに集まったみんなは獅童派の目的を――」

「ハル派だ」

「うんうん。ハル派だよ」


 さり気なく派閥の名前を変更しようとしたが、ナツとアキに阻止される。


「みんなは目的を聞いているかな?」


 俺は無駄な争いを避けるため、言葉を簡略化して訂正した。


「えっと……相澤君たちの暴走を止めるのが目的だよね?」

「アコ……あんなのに君とかいらないよ! 呼び捨てでいいから!」

「私はアコとミユから助けてくれるって聞いて……」


 アキの連れてきた三人のクラスメイト――野村亜子のむらあこ塩谷深雪しおたにみゆき菊池悠子きくちゆうこが答え、


「俺はナツに手を貸してくれと言われただけだ」


 次いでナツの連れてきた佐藤渉さとうわたるが答え、


「某は獅童殿が水面下で勇者としての準備をしているから力を貸して欲しいと言われたでござる」

「ぼ、僕は……松山君とマイケルに誘われて……」


 最後に山田と馬渕が答えた。


 見事なまでに意思の疎通が出来ていないな……。


 現状を把握した俺は頭を抱える。


「えっと……ここに集まってもらったのは俺たちに協力して欲しいからだ。俺たちの目的は大きく2つある」


 俺は集まったクラスメイトの顔を見回して、指を二本立てる。


「一つは佐伯たちのグループに対抗するため。佐伯たちのグループが主導権を握って、そのままクラスメイト全員が望む未来を歩めるのならば、問題はない。しかし――」

「無理! あいつらが主導権を握ったら、私たちが望む未来はぜっっっっったいにあり得ない! ね、ユウコ?」

「う、うん……」


 俺の言葉を遮って塩谷さんが力強く佐伯たちを否定する。


「何かあったのか?」

「聞いてよ! あのバカ!! 木下と内海!! あいつらユウコの胸を触ったんだよ! 相澤のバカもやりたい放題!! 私なんて『俺の女になったら、守ってやるよ?』とか言われたのよ! マジあり得ない!! キモっ!! あんなゴリラの女になるくらいなら私は死を選ぶよ!!」


 塩谷さんは感情を剥き出しに相澤たちを否定する。


「男子に対しても高圧的だな。仲間にして欲しいか?と俺も聞かれた」


 続いて佐藤も眉間に皺を寄せて話す。


「俺とハルを蚊帳の外に放り出して……剛たちはやりたい放題していたみたいだ……」


 ナツはかつての友人の変わり果てた姿と、クラスメイトを守れなかったことを悔いるように呟く。


「事情は理解した。先程の話に戻るが、一つ目の目的は佐伯たちのグループに対抗する力を得るため……に訂正しよう。そして、もう一つの目的は――この世界で生き残ることだ」


 俺は落ち着いた話し合いが出来るように、ゆっくりと感情を抑えて、目的を告げた。


「具体的にはどうするの?」

「相澤たちに宣戦布告するのね!」


 野村さんは不安そうな表情を浮かべ、塩谷さんは物騒な発言をする。


「宣戦布告は――しない。このグループを結成したことも当面は秘密にする」

「え? じゃあ、どうやって……ユウコを、私たちを守ってくれるの!」


 どうやって守るか……難しいな。


 相澤たちがクラスメイトに対して、そこまで暴走していたのは計算外だった。


 相澤たちが暴走したときに、抑止力となる力を俺たちが蓄えている……と、言うのが予定だった。


 対抗出来る力を得るまで……耐えてくれ! と、頼んだら受け入れてくれるだろうか?


 受け入れてくれなかったら……ここに集まってくれたクラスメイトたちの心が遠ざかる可能性がある。


 考えろ……考えろ……。


 今は佐伯たちのグループに大きくリードを許している。これ以上、引き離されたら……取り返しがつかなくなる恐れがある。


「守るか……ならば、俺から提案が1つある」


 俺は考えた末に多少のリスクを伴う提案をすることにした。


「明日、俺たちの寝床を拡張しよう。山田君と馬渕君と佐藤君は俺とナツと同じ寝床に、野村さん、塩谷さん、菊池さんはアキと共に俺たちの近くに寝床を作る。日中の行動も出来るだけ一緒にしよう。俺……いや、ナツが相澤たちの暴走に対して抑止力になる……はず」


 佐伯たちが表立って支配しないのは、まだ力が足りないと感じているからだろう。絶対王政を敷くにも、徐々に支配しないと反発される。


 あいつら――いや、佐伯が唯一危惧しているのは、自分の支配下以外で『覚醒者』となった俺とナツ。故に、佐伯は俺とナツを蚊帳の外に置いているのだろう。


「松山、俺からも質問していいか?」


 俺の提案に対して、佐藤が質問してくる。


「なに?」

「何で宣戦布告しないんだ? 宣戦布告と言うのは、大袈裟だな。しかし、ナツが面と向かって相澤たちと向き合えば、クラスメイトの大半はこちらに付いて来ると思うが?」


 佐藤が真剣な視線を俺へとぶつける。


「宣戦布告しない理由は――勝てないからだ」


 佐藤の質問に対して、俺はシンプルな言葉で答えるのであった。

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