派閥会議②

「勝てない? どういうことだ?」

「そのままの意味だよ。正面から佐伯たちと争えば、一方的に蹂躪じゅうりんされる」

「ハル……蹂躪じゅうりんって……」


 佐藤の質問に答えると、俺が発した物騒な言葉にアキが震える。


「今から話すのは最悪の想定だ。支配ってどうやってすると思う? 金? 権力? 人数? ――或いは暴力?」


 俺は想定される最悪の未来を話すことにした。


「金……今の俺たちには無価値だ。権力……俺たちの今の立場イーブンなはずだ。人数……数の暴力は確かに存在するが、今の俺たちは最大でも27人しかいない。ならば、一番シンプルな支配は? ――暴力による支配じゃないか? 現に、力を手にした相澤たちは暴走している」


 俺の言葉に周囲のクラスメイトたちが静まる。


「俺たちの目的は何だ?」

「元の世界に帰ること」


 俺の問いかけにナツが答える。


「元の世界へ帰るためには、その手段を見つけ、実行するまで生き延びる必要がある。……っと話が逸れた。本題に戻る」


 今から俺が伝える本題を理解し、賛同してもらうための前提はこのくらいで十分だろう。


「まずは佐伯たちに勝てない理由だが――この世界にはレベルと言う概念が存在する」

「レベル……?」

「ん? よく分からないよ」

「当然でござるな」


 核心に迫った俺の言葉に中二病に侵されている山田と馬渕を除いた全てのクラスメイトが怪訝な表情を浮かべる。


「簡単に言えば、敵を倒すと強くなる」

「……ゲームのようにか?」


 俺の答えに佐藤が分かりやすい例えを出して、質問をしてくる。


「そうだ。ちなみにゲームで例えるなら……ステータスのようなものは確認出来ない」

「松山殿……某が叡智を伝授しよう! 叫ぶでござる……! 己の魂に問いかけるように――『オープンステ――」

「山田と馬渕だけしか理解出来ないかも知れないが、『オープンステータス』、『ステータスオープン』などの言葉を唱えてもステータスは現れなかった」

「――な!? この世界は狂っているでござる!」


 山田と馬渕の思考を先読みすると、山田はこの世の終わりか……と言わんばかりに落胆する。


「それで話を戻すと、佐伯たちはすでにレベルアップを果たしている。今争えば、ここにいる全員が協力しても相澤一人にも勝てないだろう」

「俺とナツが二人ががりでも相澤に負けるだと?」

「恐らく、負ける。論より証拠だ。佐藤君、少しいいか?」

「何だ?」

「佐藤君は俺よりも力は強いよね?」

「帰宅部の松山に負けるほど、柔な鍛え方はしていないつもりだ」

「佐藤君ってハンドボール部だよね? 確か、ハンドボールって握力が重要だよね?」

「そうだな」

「それじゃ……」


 俺は利き手を佐藤に差し出す。


「ん?」

「俺と握力を競おうか。本気を出していいよ」

「ん? いいのか?」


 佐藤は俺ではなくナツに視線を向けて確認。ナツは俺に視線を送ると、ゆっくりと首肯した。


「いくぞ!」


 佐藤が俺の利き手を握る手に力を込める。


 佐藤を鑑定すると……


『種族  異世界人

 適性  ―

 特性  ―

 ランク G

 肉体  G++

 魔力  ―    』


 ちなみに、馬渕を鑑定すると……


『種族  異世界人

 適性  ―

 特性  ―

 ランク H

 肉体  H

 魔力  ―    』


 なので、一般人としてはかなり肉体――力は強い部類となる。


 とは言え、俺の今の肉体は――F+だ。


 GからFに、また+が一つ増えると……どれほど力が変化するのかは不明だが――


「ぐぬぬ……参った! 離してくれ」


 結果はこの通り。俺の圧勝であった。


「これが、一般人と『覚醒者』との力の差。そして、レベルによる差だ」


 俺は集まったクラスメイトたちを見回した。


「ん? ちょっと待って……レベルの差ってことは……ハルもレベルアップしてるの?」

「昨日、レベルアップした」

「うわっ! 1人で何をしているかと思えば……言ってくれれば、私も一緒に行ったのに!」

「昨日までは、レベルアップの確証はなかったからな」

「むぅ……それでも1人は危ないよっ!」


 アキからの説教と言う想定外の反応はあったが、アキ以外のクラスメイトたちには、レベルアップの大切さが伝わったと思う。


「さてと、この世界の仕様をある程度理解出来たか?」


 俺の言葉にクラスメイトたちは首肯する。


「そこで、みんなに提案だ。佐伯たちのグループに対抗するため……そして、この世界で生き延びるため……ここにいるみんなにも『覚醒者』になって欲しい。そして、共にレベルアップをしよう」


 力に対抗出来るのは――力のみだ。


 故に、俺は派閥を作った。


 佐伯たち以上……いや、最低でも同等の力を得ることが出来れば、理不尽な未来は回避出来るはず。


 佐藤、山田……後は性格的に塩谷さんはこの提案に乗るはず。野村さんの性格は把握出来ていないが、問題となるのは――馬渕と菊池さん。


 この二人は俺の望む答えを口にしてくるだろうか?


 俺はドキドキしながら、クラスメイトたちの反応を待つ。


「ま、松山君……ひ、一ついいかな?」


 馬渕がおどおどしながら、控えめに挙手をする。


「何だ? 遠慮なく、何でも聞いてくれ」


 俺は期待に胸を弾ませて、答える。


「え、えっと……そ、それは……つ、つまり……ぼ、僕たちも、ま、魔物とか……え、えっと相澤たちと争わないとダメってことだよね……?」


 馬渕は声を震わせながら、俺の待ち望んだ言葉を口に出したのであった。

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