派閥会議③

「馬渕の質問から答えるよ。まずは……争う必要があるのか――争うと言う行為に戦闘が含まれているなら、答えはイエスだ」


 俺が『イエス』と答えた瞬間に、馬渕と菊池さんの表情が絶望感に包まれる。俺は二人の不安を解消する為にも、即座に言葉を繋げる。


「但し――戦闘するのは一回。しかも、相手は相澤たちではなく、モンスターだ。勿論、戦闘に関しては俺とナツが全力でフォローをする」


 俺は二人を畳み掛けるように、言葉を紡ぐ。


「一回でいいの……?」

「そうだ。『覚醒者』になるために、最低一回は戦闘をする必要があるからな」

「で、でも……『覚醒者』になったら戦わないといけないんでしょ! 戦わないなら『覚醒者』になる意味はないでしょ!」


 俺の答えに今度は菊池さんがせきを切ったように騒ぎ出す。


「菊池さん、『覚醒者』……言い換えるならモンスターを倒したらどうなるのか覚えている?」

「獅童君や松山君みたいに魔法が使えるようになるんでしょ!」

「違うよ」


 俺は穏やかな口調で諭すように話しかけ、菊池さんの答えに対してもゆっくりと首を横に振る。


「馬渕、『覚醒者』になったら授けられるモノを正確に答えることは出来るか?」

「え、え、えっと……【適性】と【特性】?」

「正解。得られるのは【適性】と【特性】だ。次は山田に質問しようか、【適性】とは?」

「クラス、或いはジョブでござるな。松山殿の言葉が真実ならその種類は多岐に渡り、本来であれば某が授かるはずだった【暗黒騎士】……ぐぬぬ……この荒れ狂う右眼に封印しられし某の――」

「ありがとう、もういいよ」


 俺は荒れ狂うが如く中二病に罹患した山田の言葉を制止する。


「【適性】と言うのはある種の職業。俺ならば【魔法剣士】、ナツならば【聖騎士】、佐伯ならば【竜騎士】、立花さんならば【聖女】……他にも【戦士】、【侍】、【魔法使い】と、様々な種類が存在していた。そして、菊池さんに質問」

「え?」

「宮野さんの【適性】は?」

「え、え、りょ……【料理人】?」

「正解。【適性】には【魔剣士】や【聖騎士】のような戦闘系の種類と【料理人】のように非戦闘系の二種類がある」


「「――!?」」


 菊池さんと馬渕の顔を見れば、俺がこの先に言う言葉は予想出来ているだろう。


「俺はこの先、この世界で生き抜いていく為に、非戦闘系――生産系の【適性】は必須だと思っている」


 しかし、俺から生産職の【適性】を勧めることは出来なかった。生産職は魔物の蔓延はびこるこの世界において一人では生きていけない。誰かを支える【適性】である以上、誰かに依存する必要がある。


 理想は相手から生産職の【適性】を選択したいと言わせること。そして、互いに支え合うという意思確認が出来ること。故に、俺は先程の馬渕の言葉を待ち望んでいた。


「馬渕と菊池さんが望むなら……生産系の【適性】を選択して、俺たちを支えてくれないか?」

「――! こ、これが……『金沢の孔明』と呼ばれた松山殿の叡智でござるか……っ! 某、感服したでござる! この命、心……そして身体!!! 全てを松山殿に捧げる所存でござる!」


 『金沢の孔明』……? 誰だよソレ? 呼ばれたことがなければ、その単語を聞くのも初めてだぞ? あと、山田の身体は何があっても要らない!!


「ま、松山君……いいの?」


 馬渕が震える声で呟く。


「馬渕が望むなら」

「馬渕殿! 良かった……! 本当に良かったでござる……! そうでござる! 馬渕殿の造型の腕は某のダディとママンも最高と褒めていたでござる! 【鍛冶師】など如何でござるか? 鍛冶師になった暁には、某には魔剣を……ッ! デザインは黒……いや、闇を基調とした――」

「山田、落ち着こうか」


 親友である馬渕の不安が解消されたのが余程嬉しいのか、山田が早口に捲し立てる。


「馬渕や菊池さんだけじゃない。塩谷さんも野村さんも、佐藤君も、山田も……自分の好きな【適性】と【特性】を選べばいいと思っている」


 そもそも【適性】と【特性】はこの世界においては今後の人生を左右する大切な能力だ。他人に強要されるべきではない。


 勧めた【適性】と【特性】がハズレだったら、一生恨まれても文句は言えない……。そんな責任を背負うのは御免こうむりたい。


「で、でも……この世界にはレ、レベルがあるんだよね? 生産職を選んでも……ずーっとレベル1なら……け、結局は虐げられるんじゃ……」


 異世界テンプレートやゲームを熟知している馬渕らしい質問を俺へと投げかける。


「それなら心配は無用だ。特殊能力……スキルと言えばいいのか、技と言えばいいのか……魔法と言えばいいのか……とにかく、特殊能力は熟練度制だ」

「熟練度制……?」


 ゲームに詳しい馬渕はすんなりと俺の言葉を理解したようだが、菊池さんには俺の言葉は伝わらなかった。


「えーっと、何て説明すればいいんだ? 熟練度制と言うのは……その特殊能力を使い続ければ、その特殊能力の力が増していくことだ。例えば、菊池さんは手芸部だったよね?」

「う、うん……松山君は帰宅部だよね」

「そうだね……俺は帰宅部だね」


 何で俺は気まずいのだろうか? 別に帰宅部でもいいじゃないか。


「部活はどうでもいいとして……例えば【装飾師】と言う【適性】を菊池さんが選んだとしよう。【装飾師】は恐らく布や革といった素材を使って加工、装飾が出来る【適性】だと思う。服を装飾する感じかな? それで、菊池さんは服を作れば作るほどに服を作る技術が上がっていく」

「反復練習すればそれは当然なんじゃ?」

「そうだね……でも、普通の練習以上に上手になる。それが熟練度制と思ってくれればいいよ」

「うーん……えっと、私は化け物や相澤くんたちとは戦わないで服を作っていればいいってこと?」


 俺の説明はそこまで分かりづらいのか? まぁ、ニュアンス的には合っているのか……?


「そうなるのかな」

「わかりました。私は松山君たちに協力します」

「ぼ、僕も協力するよ」

「某は身も心もすでに松山殿……いや、金沢の孔明に捧げているでごさる」

「俺はいつでもハル派だ!」

「私もハル派だよー!」

「ユウコが納得したなら、私も協力するよ!」

「うんうん。相澤たちに支配されるのは絶っっっっ対に嫌だからね!」


 菊池さんに続いて、馬渕、山田……ナツにアキ……続いて野村さんと塩谷さんが派閥への参加を表明。最後に――


「松山一ついいか?」

「何?」

「別に戦闘系の【適性】を選んでもいいんだよな?」

「佐藤君が選びたい【適性】と【特性】を選べばいい。そこは、俺が……と言うか、第三者が口出しする領域じゃないと思っている」

「そうか……。わかった。俺も協力しよう」


 佐藤が派閥への参加を表明したのであった。

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