派閥会議④
「みんな、ありがとう」
俺は派閥への参加を表明してくれたクラスメイト――仲間たちに頭を下げる。
「それで、具体的にはどうするんだ?」
俺の謝辞が終わると、佐藤から質問を投げかけられる。
「某が『覚醒者』になれるのは、いつでござるか? この後でござるか? 1時間後には某の封印されし闇の力が解放されるでござるか!」
続いて山田が前のめりに早口で捲し立てる。
「落ち着け。具体的な予定は今から話す。まずは、二手に分かれる。一つはナツ、佐藤君、野村さん、塩谷さん、菊池さん、山田。もう一つは、俺、アキ、馬渕の三人だ」
「――!? そ、某は松山殿とも……馬渕殿とも……別行動でござるか……」
俺の伝えた予定に山田が動揺するが、俺は山田をスルーして更に話を続ける。
「ナツのチームは寝床の拡張準備を頼む。明日からはここにいるメンバーで団体行動だ。その拠点となる寝床を作ってくれ」
「分かった!」
俺の言葉にナツが力強く頷く。
「俺とアキは今から馬渕と共にモンスターを倒してくる。っと、確認だが……馬渕、選択する【適性】は【鍛冶師】でいいんだよな?」
「う、うん」
俺の質問に馬渕が首肯する。
「ま、待つでござる! な、なぜ……馬渕殿でござるか! 某からではダメでござるか?」
「確かに……別に馬渕だけじゃなくて、全員とまでは言わないが……俺も早めにその『覚醒者』とやらにはなりたいな」
俺の提案に山田と佐藤が異論を唱える。
「理由は、馬渕だけが明確に選択する【適性】が決まっているからだ。そして、馬渕には一つ頼みたいことがある」
「な、何……?」
「【適性】と【特性】を選べる時間は180秒しか与えられない。その間に馬渕は可能な限り多くの【適性】と【特性】を記憶して欲しい」
「う、うん……」
「馬渕が記憶した【適性】と【特性】……そして、俺やナツが記憶している【適性】と【特性】をここにいるメンバーで共有し、みんなにはその中から計画的に【適性】と【特性】を選んで欲しい」
俺の説明に全員が納得の表情を浮かべる。
「俺たちがこの先の厳しい未来に立ち向かうには、ここにいるみんなの力――チームワークが必要となる。チームワークを円滑にする上で役割は必須だ。だからこそ計画性をもって【適性】と【特性】を選ぶ必要がある。だから、今回連れて行くのは馬渕だけだ。納得はしてくれたかな?」
「愚将山田マイケル……『日ノ本の孔明』と呼ばれし松山殿の鬼謀にも気付かず……愚かな言葉を吐いたでござる……すまない……すまないでござる……」
お、『金沢の孔明』から県や地域を飛ばして日ノ本とは一気にランクアップしたな。二つ名は要らないけどな。
涙を流し、俺へと深く頭を下げる山田は無視して他の仲間たちを見回す。
「えっと、私からも質問いいかな?」
「塩谷さん、何かな?」
「馬渕くんを連れて行く理由は理解したけど……何でアキも連れて行くの?」
「あ、そういえば言っていなかったな……アキはすでに『覚醒者』だ」
「え? アキ、そうなの?」
「うん! ハルに二人だけの秘密って言われてたから内緒にしてたの……ごめんね。ハル、私の【適性】と【特性】も言っていいよね?」
アキの視線を受けて俺は黙って頷く。
「私の【適性】は【賢者】で、【特性】は【魔力の才】だよ! 立花さんほどじゃないけど、回復魔法も使えるよ」
「え? 本当に! アキ、凄いじゃん!」
「えへへ」
褒められたアキは嬉しそうに笑う。
「と言う訳で、万が一のサポート役としてアキにも同行してもらう」
「オッケー! 任せてよね!」
アキは嬉しそうにサムズアップする。
「それじゃ全員が納得したなら行動に移りたい。他に質問がある人はいるかな?」
俺は確認の意味を込めて仲間たちの顔を見回す。
「はーい! 一ついいかな?」
「塩谷さん、何かな?」
「質問じゃないけど、私からも提案がありまーす」
「提案? どうぞ」
「その『塩谷さん』って言うのは堅苦しいから、ミユって呼んで!」
「あ、じゃあ私もアコって呼んで欲しいかな」
「わ、私は……菊池でも……ユウコでも……好きに呼んで下さい……」
「悪くない。呼び方はチームワークを高める秘訣の一つだ。俺もワタルでいい」
「俺はナツだな」
「私のことはアキでいいよー」
コミュ力に優れる仲間たちは、まるで青春映画のワンシーンのように、名前呼びを強要する。馬渕と山田は乗り遅れたのか……特に何も言わない。
「お、俺のことは……松山でもハルでも……好きに呼んでくれ。他に質問か提案がある人は?」
仲間たちの顔を見回すと、全員が強い意志を感じさせる表情で顔を上げていた。
「よし、それじゃ行動を開始しようか」
俺が行動開始を合図すると……
「なるほど、確かに獅童派じゃなくて松山派だ」
「うんうん。最初はアキのいつもの戯言かな、と思ったけど、確かに松山派だったね」
「ワタル、松山派じゃない! ハル派だ!」
「だよねー。ミユちゃん、ハル派だよ?」
ナツとアキ――二人の幼馴染によるどうでもいい訂正の言葉を耳にしながら、行動へと移るのであった。
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