派閥会議⑤
「ま、松山君はこ、怖くないの?」
闇に包まれた森の中、炎を帯びた剣の明かりを頼りに魔物を探索していると、馬渕が震えた声で尋ねてきた。
「何が……? この暗い森? 今から戦う魔物? それとも――これから先の未来?」
「ぜ、全部……」
「んー……怖いと言えば怖いけど……何もしないで大切な……って、何でもない!」
「えー? 何ー? 大切な……何かなぁ?」
アキが珍しく静かだったので、油断してしまい思わず口が滑ってしまった。
「大切な――俺の未来だ」
「え? 本当に? イントネーション的には違ったような気がしたけどなぁ……」
「俺に何を言わせたいんだ?」
「えへへ、何だと思う?」
――!
この気配は……
俺は口に指を当てて、アキを黙らせる。
この臭い、音……間違いなくゴブリンだな。
ゴブリンの存在に感謝しつつ、俺はゴブリンの数を確認する。
1、2、3匹か……。
出来れば1匹が良かったのだが……贅沢はいえないか。
「アキ、左奥のゴブリンは見えるか?」
「うん」
「あいつを魔法で倒してくれ」
「了解だよ」
「俺は右手前のゴブリンを倒す。馬渕は合図があるまでここで静かに待っていてくれ」
「う、うん……」
――《エンチャントファイア》!
俺は念の為、付与魔法を掛け直す。
「アキのタイミングで始めてくれ」
俺の言葉にアキは真剣な表情で頷く。
「いっけぇぇ! ――《ウインドカッター》!」
木の陰から飛び出したアキが風の刃をゴブリンへと放つ。風の刃はゴブリンに悲鳴をあげさせる間もなく、その首を跳ね飛した。
俺はアキとは別の木の陰から飛び出し、叫んだアキに意識を囚われたゴブリンへと剣を振り下ろした。
「……ギィ!?」
ゴブリンは焦げくさい臭気を漂わせながら、物言わぬ
「アキ! その場から動くなよ!」
「え? うん、了解!」
俺はアキに注意を促すと、生き残ったゴブリンに剣を向けながらポケットに忍ばせていた小瓶を取り出し、ゴブリンへと投擲する。
投擲した小瓶は一直線にゴブリンの顔面へと飛来。ぶつかった衝撃で小瓶の中から放出された粉――『痺れ草の粉末』が、狼狽するゴブリンの鼻孔へと吸い込まれた。
「馬渕、来い!」
「う、うん」
痺れ草の効果により痙攣したゴブリンの元へ、おどおどした様子の馬渕が姿を現した。
「痙攣している時間は約30秒。その間にこの剣でトドメを」
俺は手にした長剣を馬渕へと差し出す。長剣は俺の手から離れると、刀身に帯びていた炎も同時に消え去った。
長剣を手にした馬渕は震え、すくみあがっている。
「馬渕、やれ……。やらないと未来は掴めない。このまま相澤たちに支配されていいのか? 馬渕には守りたい者はいないのか? 山田はお前のことを――親友だと嬉しそうに話していたぞ」
昨日まで普通の高校生が……いきなり刃物で生き物を殺すのは抵抗がある。俺が初めて魔物を倒した時は突然の襲撃でパニクっていた。
目の前に痙攣する生き物と刃物を差し出され……殺せ、と言われてすんなり殺せる者など……そうはいない。
しかし、馬渕はこの試練を乗り越えなければいけない。
「馬渕! お前は憧れだった異世界に来て、負け犬で終わるのか!」
俺は異世界ファンタジーの作品の感想を目を輝かせて話す馬渕の姿を思い浮かべながら、叱咤する。
「ぼ、僕は……僕は……僕は……うわぁぁあああ!!」
馬渕は雄叫びをあげながら、何度も剣を痙攣するゴブリンへと振り下ろした。
――!?
時間にして約3秒だろうか? 馬渕がピタリとその動きを止める。
「馬渕……どうだ?」
「松山君、ありがとう。か、【鍛冶師】になったよ」
馬渕は手にした剣を震わせながら、無理やり笑みを浮かべた。
「馬渕、お疲れ様」
俺はそんな馬渕に労いの言葉を送った。
『種族 覚醒者
適性 鍛冶師
特性 鍛冶の才
ランク F
肉体 F
魔力 G
スキル 鍛冶(E)
製錬(F)
槌技(F) 』
少しだけ疑ってはいたが……馬渕は宣言通りに【鍛冶師】を選択していた。
宣言した通りの【特性】と【適性】を選択したのかは、当人と――俺しか知る由がない。
当面は仲間たちにも《鑑定》が出来ることは秘密にするつもりだった。
「馬渕、『覚醒者』になったばかりで困惑していると思うが……早めに記憶した【特性】と【適性】をこの紙に書き出してくれ」
『覚醒者』になった実感が沸かないのか、呆然と手の平を眺める馬渕にメモとペンを差し出したのであった。
◆
3時間後
寝床へと帰還した俺は馬渕から預かったメモ用紙に俺の記憶していた【適性】と【特性】を付け加え、ナツとアキにも同様に付け加えてもらったのであった。
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