佐伯たちが乾たちを連れ立って出掛けたのを確認し、俺は行動を起こすことにした。


 新たな派閥メンバー、ターゲットは――


「田中さん、こんにちは」


 クラスで孤立している女子――田中芽依たなかめいに声を掛けた。


「……ん。誰?」

「あ、ごめん……急に話しかけて。俺は松山。えっと……一応クラスメイトかな?」

「それで……何の用?」


 俺のコミュ力が低すぎるのだろうか……。田中さんの口調は酷く冷めている。


「え、えっと……いつも一人だから何か困っていることとかないかなぁ、と思って……」

「あったら、あなたが解決してくれるの?」

「俺が解決出来ることなら……」

「私を家に返して! 無理なら今すぐwifiを用意して! 待ってるの……“マハル”が私を待ってるの……毎日22時に一緒にレイド戦をするって約束してるの!」


 ――!


 え? おい……嘘だろ……。


 俺は突然感情を露わにした田中さんの口から出たとある名前に驚愕する。


 いや……待て……落ち着け……。


「えっと……田中さん、一つだけ質問してもいいかな?」

「……何?」

「田中さんのプレイしているゲームっGO《ジーオー》?」


 GO……正式名称はGENESISONLINE(ジェネシスオンライン)。豊富なクラスと初期にランダムで付与されるユニークスキルが特徴のオンラインゲームだ。


「……だったら何?」

「田中さんのキャラってひょっとしてAGI特化の双剣士?」

「――!? 何であなたが知ってるの?」

「んで、キャラクターネームは――メイ? あれ? 田中さんの名前って芽依めいだよね? 本名でプレイしていたのか……」

「何で……あなたはそこまで知ってるの?」


 突如俺から言い当てられたプレイヤーネームに田中さんが激しく動揺する。


 AGI特化の双剣士でキャラクターネームはメイ。そして、毎日22時に“マハル”とレイド戦の約束をしているか……確定だな。


「はじめまして……でいいのか? こういう時は何て言えばいいんだ? えっと……マハルです」


 俺は若干の羞恥心を感じながら……俺は馴染みの深いもう一つの名前で挨拶をした。


 "マ"ツヤマ"ハル"ト……略してマハル。


 それは俺のGOでのキャラクターネームであった。


「――!? え、う、うそ……」

「本当だ。サーバーランキング7位。武闘派ヒーラーでお馴染みのマハルは俺だ」

「ほ、本当にマハルなの……?」

「メイがクラスメイトだったとは……世の中狭いな」

「マハル……! マハル……! わ、私……怖かった……本当は怖かった……」


 孤立していたクラスメイト……そして、俺の相棒――メイは堰を切ったように泣き出したのであった。



  ◆



「――と言う訳で、俺に協力して欲しい」


 俺はメイに置かれている状況を説明。そして、協力を依頼した。


「わかった。マハルの頼みなら断れない」

「いや、そのマハルって止めようか……」

「え? でも、マハルも私をメイって呼ぶ」

「いや、だって……メイは田中芽依さんだろ?」

「違う。私はマハルの前ではメイ」

「んじゃ、俺のことは、せめてマハルから"マ"を取って"ハル"と呼んでくれ」

「ハル……ハル……ハル……わかった」


 メイは何度も確認するように俺の名前を呟き、最後は受け入れてくれた。


「と言うことで……メイには【建築士】を――」

「却下」

「俺の話聞いてたよな?」

「聞いてた。でも、【建築士】は却下」

「メイはハウジングシステムとか好きだっただろ?」

「あれは趣味。本職は双剣士」


 いや、双剣士もゲーム内でのプレイスタイルだからある意味趣味だろ……。


「えっと……と言うことは……」

「クラスは【双剣士】、ユニークスキルは【速さの才】」

「クラスじゃなくて……【適性】な。ついでに、ユニークスキルじゃなくて【特性】だ」

「マハルはいつも細かい」

「マハルじゃなくてハルな……。細かいついでに言えば、俺は【魔法剣士】で【鑑定の才】だから、GOみたいにヒーラーの役割を求めるなよ」

「マハル……ハルがヒーラー? ツッコミ待ち? アタッカーでしょ?」

「いや、でも一応クラスはセイントだったから……僧侶の最上級職だから……ヒーラーだろ?」

「ヒーラーは常識的に火力を求めない」

「いや、まぁ……でも……強かっただろ? 万が一の時は自己回復も出来たし……って! GOの話はここまで!」

「……マハルのGO愛は何処へ」

「また一緒にGOをする為にも……今はこの世界で頑張ろうか」

「ん。わかった」


 メイを【建築士】にすることには失敗したが、派閥に引き入れることには成功した。


 となると、【建築士】候補は俺よりもコミュニケーション能力が高い仲間たちの勧誘に期待しよう。


 山田、馬渕はともかく、ナツたちなら一人くらい連れて来るだろ。


 メイを紹介すべく、みんなの元に戻ろうとしたら、


「ハ、ハル……少しいい?」


 仲間たちに合わせて慣れない名前呼びをする馬渕に声を掛けられた。


「ん? どうした? あと、慣れないなら前みたいに松山と呼んでもいいぞ?」

「ぼ、僕も仲間だから……」

「そっか。で、どうした?」

「あ、あの……沼田君を誘ってもいいかな?」

「沼田君……?」


 出席番号17――沼田浩史ぬまたひろし。確か、馬渕のオタク友達だが、俺とは趣味のジャンルが違うから接点はなかった。


「別に問題はないが……どうして?」

「えっと……沼田君はフィギュアが好きで……お城の模型とかも好きで……【建築士】に興味があると、お、思うから……ど、どうかな?」

「お、マジ? イイね! 是非とも勧誘してくれ!」


 こうして思いがけぬ方向から【建築士】候補の問題は解消された。


 その後、馬渕は見事に沼田の勧誘に成功。メイと沼田をナツたちに紹介しようと思ったが、ナツたちは食材探しの為に森へと出掛けていた。


 これでこちらの派閥の人数は11人。過半数獲得まで残り3人。とは言え、人数だけでは不安だ。早急に俺を含めた全員のレベル上げもしないと……今夜から忙しくなるな。


 俺は頭の中で今後の予定を組み立てながら、ナツたちと合流すべく森へと移動しようとしたが……


「松山ぁぁああ!! てめー何をしやがった!!」


 鬼の形相を浮かべた相澤が俺の名前を叫んだのであった。

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