仲間たちの【適性】と【特性】①

 宮野さんに監視されながらの食材探しではあったが、問題が起こることはなく、平穏に終わった。


 その日の夜。


 俺やナツたちの寝床に派閥のメンバーが集まり、今後の予定を話し合うことにした。


「それで、【適性】と【特性】は決まった?」


 俺は集まったメンバーの顔を見回す。


「悩むに悩んでござるが……不肖山田マイケル! 決まったでござるよ!」

「オッケー……とりあえず、声のトーンを落とそうか」


 俺は立ち上がり、大きな声で普通のことを言う山田を窘める。


「他のみんなは?」

「俺も決まった……が、少しハルに相談をしたい」

「私も決まったよー」

「うちも決まりました」

「わ、私は……【装飾師】と【裁縫の才】にしようと思うのですが……いいでしょうか……」


 みんなそれぞれ決まったようだ。


「ユウコは【装飾師】と【裁縫の才】ね。ワタルは?」


 俺は手始めにワタル(佐藤)から尋ねた。


「俺は【戦士】だな」

「【戦士】……? シンプルな【適性】を選ぶんだな」

「シンプルイズベスト。何ごとも基本が大事っていうからな。魔法とかはよくわからねーし……この中で攻撃の基本と言ったら【戦士】だろ」

「なるほど……。で、【特性】は?」

「そこで、ハルに相談だ。何がいいと思う?」

「【戦士】を選ぶワタルの【特性】か……」


 俺は【適性】と【特性】が書き込まれたメモに視線を落とす。


 ワタルの言う【シンプルイズベスト】……この考えは正しいと思う。シンプルな力の底上げは汎用性を生み出す。


 ベストな選択肢は【力の才】だと思うが……残念ながら【力の才】は佐伯が選択済みだ。


 と、なると……


「【速さの才】……もしくは、ワタルの好きな武器の才を選ぶのはどうかな?」

「武器の才?」

「【剣の才】とか【槍の才】みたいな、武器の扱いが上達しそうな【特性】だね」

「なるほど……オススメの武器は?」

「オススメの武器と聞かれても……ワタルは気になる武器は無いのか?」

「武器なんて使ったことねーからなぁ……」

「まぁ、普通はそうだよね。ちなみに、俺とナツの得意武器は剣だ」

「剣か……普通だな」

「ワタルの先程の言葉じゃないけど……武器の基本と言えば剣じゃないか?」


 俺の助言を聞いたワタルが【適性】と【特性】が書き込まれたメモを凝視する。


「よし、決めた! 【斧の才】にする」

「【斧の才】……理由は?」

「斧ってゲームだと攻撃力が一番高いだろ?」

「それは……ゲームによりけりだろ」

「ワタル殿! 斧はオススメ出来ぬでござる」

「ほぉ、何でだ?」


 山田がワタルの決定に異論を唱える。


「理由は不遇武器だからでござる! 昨今、斧を扱う主人公はいないでござる! 不遇武器なのでござるよ!」

「不遇か……不遇ね。上等じゃねーか! ハンドボールも不遇ってかサッカーやバスケの陰に隠れた不遇なスポーツだ。不遇上等! 俺が主役級に格上げしてやるよ!」

「むむ……しかし……」

「山田、いいじゃないか。ワタルが自ら選択した【特性】だ。ワタルの意思を尊重しよう」

「むむ……ハル殿がそういうのであれば……」


 ワタルの選ぶ【適性】と【特性】が決まった。


「次は……山田でいいか。選択する【適性】と【特性】は?」

「某はハル殿の期待に応え――【忍者】を選ぶでござる!」

「ほぉ……と言うことは、特性は【索敵の才】?」

「ぐぬぬ……ハル殿が……ハル殿が……どうしても、と言うのであれば……【索敵の才】を選ぶでござるが……」


 山田は苦悶の表情を浮かべる。


「いや、この前話した通り……【適性】と【特性】はこの世界の未来を左右する大きな要素だ。だからこそ、悔いが残らないように自分で決めるべきだ」

「な、ならば……某、【忍術の才】を選びたいでござる!」

「【忍者】に【忍術の才】か。相乗効果も期待出来そうだから、問題はないんじゃないかな?」

「本当でござるか……! ハル殿が望むなら【房中術士】もやむ得ぬ……との覚悟もありましたが、不肖山田太郎! 【忍者】と【忍術の才】を習得するでござる!」


 俺がいつ【房中術士】を望んだ? しかも山田(♂)に……あり得ないだろ……。しかも、何故……山田は顔を少し赤らめて、俺に上目遣いをするのだ……。


 こいつ、変な性癖に目覚めてないだろうな……。


「えっと、次は……ミユは何にするの?」


 山田の悪夢から逃れるべく、目の合ったミユ(塩谷)へと話題を移す。


「私は【付与師】と【強化の才】にするよ!」

「へぇ、意外な選択だな。理由を聞いても?」

「ハルなら知ってるんじゃないの? バフとデバフの重要性をね」

「――! ミユってゲーマーなのか?」

「ゲーマーって程じゃないかな? 嗜む程度だよ」


 ミユは笑みを浮かべ、答えた。


 ミユはアキと同じ陸上部に所属しており、クラスでは賑やかな体育会系女子……と言う印象が強かっただけに、驚きの事実であった。


「嗜む程度の人間が……バッファーを選択するかよ」

「あはは……でも、本当のゲーマーは私みたいなライトユーザーじゃなくてハルとか……田中さんみたいな人を指すんじゃないかな?」

「田中さんってゲーマーなの?」

「この前チラッとスマホの画面が見えただけなんだけど……かなりやり込んでいるように見えたかな」


 出席番号15番――田中たなか芽依めい。クラスには馴染んでいない俺と同じ帰宅部の女子。


 佐伯や古瀬さんたちとも交友関係はないからこの派閥に引き込めないかな? ゲーマーなら俺の説明も受け入れやすいだろう。


 俺は頭の片隅に田中芽依の名前を記憶させるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る