食材探し

「俺から誘うことはあったが、ハルからも誘われる日が来るとは……」


 名目上は連れションとして、森の奥へと移動していると……ナツが天を仰いで呟きを漏らす。


「ここら辺でいいか」

「そうだな。ここなら安全だな」

「時間がない、本題に入るぞ」

「……本題?」


 ズボンのチャックに手をかけたナツが首を捻る。


「連れションな訳ないだろ」

「――!? 大なのか?」

「何でだよ……。連れションは宮野さんから離れる口実だ」

「宮野さんから……あぁ、そういうことか」


 ナツがようやく俺の真意に気付く。


「宮野さんの言動が怪しい。多分、佐伯から指示でもされてこちらの様子を探りに来たのだろう」

「ったく、クラス内でスパイかよ……ハルの言うとおり最悪のシナリオに向かっているな」


 ナツは悲しげに首を振った。


「宮野さんの言動を見る限り……今日は俺に張り付くつもりだろう。ナツにはこれを渡しとくから、みんなに【適性】と【特性】を決めておくように伝えてくれ」


 俺は昨夜書き起こした【適性】と【特性】を羅列したメモをナツに渡した。


「改めて見ると……多いな。ハルのオススメはあるのか?」

「んー……そうだな。無理にとは言わないが……『忍者』と『索敵の才』だな」

「『忍者』と『索敵の才』だな……了解。他に伝えることは?」

「クラスメイトの中に建築に興味のある奴がいないか聞いておいてくれ」

「建築……? わかった、聞いてみる」

「それじゃ、遅すぎても怪しまれる。さっさと戻ろうか」

「っと、その前に用を足してもいいか?」

「せっかくだし、俺もするかな」


 結局、俺はナツと共に用を足してから、みんなの元へと戻った。


「ただいま」

「おっかえりー!」


 寝床に戻ると派閥のメンバーと宮野さんが全員揃っていた。


「んじゃ、今日は昨日打ち合わせした通り、俺とアキのグループと、ナツと山田と馬渕とアコとミユとユウコのグループに分かれて食材を探しに行くけど……」

「え? 昨日――」

「む? 某は松山殿と――」

「昨日打ち合わせした通りでいいよね?」


 俺は早口で捲し立て、異論を挟もうとしたミユと山田の言葉を語気を強めて封殺する。


「それで、宮野さんは俺が守ってくれる――『覚醒者』だから同行を希望しているらしいけど、ナツも『覚醒者』だ。俺より頼りになると思うけど……どうする?」

「――!」


 先程の打ち合わせ内容とは異なった俺の言葉にナツが慌てふためく。


 ナツには宮野さんが俺に張り付くからその隙に、他のメンバーと【適性】と【特性】を決めておいてくれと伝えた。これで宮野さんがナツのグループを選んだら、先程の打ち合わせは台無しだ。


 しかし――この状況で俺を選んだらスパイ確定とも言える。


「え、えっと……私は松山君のグループに入るよ」

「えっ? 何で? 何で宮野さんはこっちのグループに入りたいのかな?」


 宮野さんの答えにアキが噛み付いた。


「え、えっと……それは……ほら、アレだよ! アレ! えーと……松山君は鑑定出来るから一緒にいる方が【料理人】の私としては献立が立てやすくて便利だから!」


 宮野さんは早口で答えを捲し立てる。


「本当にー? 本当に理由はそれだけかな?」


 アキが宮野さんに疑惑の眼差しを向ける。


 ここで宮野さんを追求しても意味はない。下手したら佐伯派との争いが早まるだけだ。


「アキ、いいじゃん。宮野さんの言うことはもっともだよ。それじゃ、宮野さんはこっちのグループに加わる……で、問題ないかな?」

「えー……でもー……んーハルがいいなら、いいけど……」


 アキは不満げに口を尖らせながらも、宮野さんの同行を認める。


「それじゃ、遅くなると俺たちを守る為に散策に出かけた佐伯たちが騒ぐから……食材探索に出かけるか」

「はーい」

「松山君、お願いします」

「ハル、また後でな!」


 話も纏まり、俺たちは食材探しへと出かけたのであった。



  ◆



 食材探しを始めて、3時間。


「ね、松山君……あれも食材になるよね?」


 宮野さんが森に生えている葉っぱを指差し、俺に尋ねる。


『新鮮な葉

 ランク G

 滋養  G

 毒性  ―

 効果  豊富なミネラルが含まれている』


「うん。食べれると思うけど……よく、わかったね」

「んーなんだろ? 松山君と一緒に色んな食材を見ていたからかな? 私にも分かるようになったと言うか見えるようになったと言うか……?」

「へぇ! 凄いね!」


 【料理人】は食材の鑑定が出来るのだろう。多くの素材を見た結果【料理人】としての熟練度が上がったようだ。


「むぅ……あ!? ね! ね! ハル! これは! これは食べれる?」


 アキが何故か宮野さんに対抗意識を燃やして、鮮やかな色の葉っぱを俺に見せる。


『毒草

 ランクG

 滋養 ―

 毒性 G

 効果 腹部が痙攣し嘔吐を引き起こす』


 絶対に食べたらダメなやつだ……。


「毒草」


 俺は結果を一言で告げる。


「えー! さっきも同じ毒草って言ってたよー! 見た目が全然違うよー」


 ちなみにさっき持ってきたのが……


『毒草

 ランクG

 滋養 ―

 毒性 G

 効果 軽い幻覚を引き起こす』


 危険な草は全て『毒草』で鑑定結果は統一されていたが、効果が異なっていた。


「見た目は違うが……全て毒草だ」

「えー? 本当に? ハルの嫌いなピーマンの味がするから捨てさせようとしているとか?」

「味までは鑑定でわからねーよ!」


 アキが無茶苦茶な言いがかりをつけてきた。


「むぅ……じゃあ、今度こそ美味しそうな食材持ってくるね!」

「派手な色の葉っぱは持ってくるなよ」

「オッケー!」


 アキは元気よく返事をすると、周辺を隈なく探し回った。


「あはは……松山君と辻野さんは仲良しなんですね」

「腐れ縁だよ」

「そうなんだ。学校にいた頃は松山君とそんなにも話したことなかったから知らなかったなぁ」


 宮野さんが楽しそうに笑う。


「ねぇ、松山君」

「ん? 何?」


 宮野さんの声のトーンが下がる。


「松山君たちは……妙なこと企んでないよね?」

「妙なこと……? ピーマンの味をする草を破棄するとか?」


 突然のどストレートな質問に俺は適当な返答をしてしまう。


「……ううん、ごめん。何でもない……」


 俺の適当な返答を聞いた宮野さんは悲しそうに下を向くのであった。

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