レベルアップ?

 ん? これは……


 俺は本能の赴くままに、体内の魔力を練り上げる。


「――《エンチャントアイス》!」


 手にした剣が氷を帯びた。


 俺が今まで使えた魔法は――《エンチャントファイア》のみだった。


 つまり、俺は今の戦闘を経て新たな魔法を習得したことになる。


 相澤の口走った一言――"レ"の後に続く言葉はレベルアップだったのか。


 と言うことは……重要な考察が発生する。


 なぜ、佐伯はレベルアップの存在を隠したのか?


 クラスメイト全員が協力して生き延びるのであれば、重要な情報は共有すべきだ。しかし、佐伯はレベルアップと言う重要な情報を共有しなかった。


 情報を共有しなかったという事は……クラスメイトを信用していないことを意味する。


 事実、俺も佐伯たちが信用出来なかったから、アキが【賢者】の【適性】を得たことを隠させた。


 佐伯はあからさまに俺とナツがレベルアップすることを避けていた。理由は……クラス内のイニシアチブをとることが目的か?


 行き過ぎたイニシアチブは独裁となる。


 佐伯政権の独裁は俺の今後にどのような影響を与える?


 ……


 どれだけシミュレーションを重ねても不幸な未来しか描けない。


 そもそも、レベルアップを阻害している時点で――俺とナツは敵として認定されている?


 面倒だが、行動を起こすか……俺と大切な幼馴染たちを守るために。



  ◆



 その後、俺は周辺の森を探索。新たにいくつかの植物や鉱物を発見。


 そして、1匹のゴブリンを発見した。


 ――!?


 これは……。


 ゴブリンを視界に捉えた瞬間――頭の中にゴブリンの情報が流れてきた。


『種族  ゴブリン

 ランク H 

 肉体  H

 魔力  Z

 スキル なし  』


 ゴブリン――生物を鑑定出来るようになったのか!?


 先程のウルフとの戦闘で鑑定のレベルが上がった? もしくは、鑑定の使用回数に応じて鑑定が強化された?


 考察すべきことがまた増えたな。


 まぁ、今は目の前のゴブリンを倒すことに集中しよう。


「――《エンチャントアイス》!」


 俺は習得したばかりの魔法を使用して、手にした短剣に氷を纏わせる。


 ゴブリンはまだ俺の存在に気付いていない。


 ふぅ……ふぅ……――先手必勝!


 息を整え背後からゴブリンの首筋へと短剣を突き刺した。《エンチャントアイス》の影響だろうか、突き刺されたゴブリンの首筋が凍傷する。


「……ギィ……ギィ!?」


 クソっ! まだ生きている!


 俺は突き刺した短剣を力いっぱい捻った。


「ギィ……」


 ゴブリンは最期にか細い悲鳴をあげて地に倒れた。


 前回――川での戦闘では一撃で倒せたのに……今回は無理だった。個体差? それとも俺の込めた力が弱かったのか?


 何はともあれ、今は無傷の勝利を喜ぼう。


 俺は地に倒れたゴブリンから、素材として鑑定された耳を剥ぎ取り、持っていた長剣を拾い上げた。


 ――!


「名称   ゴブリンの剣

 ランク  H

 特殊能力 なし    」


 鑑定結果には新たに"特殊能力"と言う情報が増えていた。


 敵を倒したら鑑定が強化されるのか、鑑定の経験に応じて強化されるのか……実験開始だな。


 俺はその後、森の中にあるありとあらゆるモノ……それこそ土から石ころ、木の葉まで目につく全てを鑑定した。


 頭が痛い……。


 大量のどうでもいい情報で頭がパンクしそうだ。


 その後、1匹のゴブリンを発見したが、鑑定結果は先程と変わらなかった。


 遠くの空を眺めると、うっすらと明るくなってきた。


 そろそろ帰るか。


 夜が明けてきたので、拠点へと帰還することした。



  ◆



「ただいま……」

「ハル! 大丈夫か! 帰りが遅いから心配したぞ!」

「シィー……シィー……」


 俺は口元に指を立てて、興奮するナツを落ち着かせる。


「大丈夫、問題は……って――ん?」


 ナツの顔を見て問題はないと……言おうとしたその時――ナツの情報が頭の中に流れ込んできた。


『種族  覚醒者

 適性  聖騎士

 特性  光の才

 ランク F

 肉体  F+

 魔力  F

 スキル 光魔法(D)

     →ライト

     →ライトアロー

     剣技 (F)

     盾技 (F)

     ホーリースラッシュ 』


 ナツを鑑定した……?


「ハル? どうした?」


 ナツは突然固まった俺へ心配そうに声を掛ける。


「ん……あぁ……大丈夫。問題はない」

「本当に大丈夫なのか? 頼むから……無理はするなよ」

「あ、あぁ……ごめん……ちょっと横になるわ」


 俺は心配するナツに謝罪し、少し横になった。


 ナツを鑑定することは出来た……。俺自身を鑑定することは可能なのか?


 俺は寝転びながら自分の手のひらに視線を向けて、意識を集中する。


『種族  覚醒者

 適性  魔法剣士

 特性  鑑定の才

 ランク F

 肉体  F

 魔力  F

 スキル 魔法剣(F+)

     →エンチャントファイア

     →エンチャントアイス

     鑑定 (E)

     剣技 (F)

     短剣技(H) 』


 おぉ……鑑定出来た!


 ナツよりも肉体が低いのは……元々の素質なのか?


 モノや魔物だけじゃなく、人――クラスメイトも鑑定出来るのか。


 となると、気になるのは……佐伯たちの鑑定結果だ。


 俺は起き上がり、佐伯たちを探し始める。


 お、発見!


 川に向かう立花さんへと意識を集中する。


 ――!


 すると、驚きの鑑定結果が頭の中に流れてきたのであった。

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