嘘と隠しごと

 一つ目の嘘は――村井が【僧侶】を選択した理由。


 【聖女】が回復魔法を習得するかわからなかったから、保険で【僧侶】を習得したと言っていたが――それは、あり得ない。


 村井よりも先に立花さんがゴブリンを倒している。ならば、その時点で立花さんが回復魔法を習得していたのか、確認できたはずだ。


 そして、立花さんは回復魔法を使える。


 それはこの目で確認している。


 ならば、なぜ……村井に【僧侶】を――回復役の【適性】を選ばせた?


 村井が自らの意思で【僧侶】を選んでいないのは、先程の流れから見ても明らかだ。


 佐伯の意思で村井は【僧侶】を選択した。


 【適性】の種類は100以上はあった。


 戦闘職、生産職……様々な種類の【適性】があった。


 名称から役割をイメージするしかないが……今後、俺たちが生き抜く為に、必要になると思われる【適性】は沢山あった。


 少なくとも回復役を重複させるのはまだ早い。


 そして、選択させた――【水属性の才】。


 水属性は回復系統のイメージはある。とは言え、僧侶と結びつくかと言われれば疑問だ。


 佐伯の答えた理由が、『魔法で水が生成出来たら、便利かと思って』だった。


 仮に川を発見出来ていなかったら、遠からず村井の生成する水に頼ることになっていた?


 現状は異世界転移と言うより、見知らぬ地でのサバイバル生活だ。そんな状況下において、水を支配する者の権限は計り知れない。


 水を一つの交渉材料に、イニシアチブを取ろうとした?


 ――!


 その考えから様々な可能性を探ると、【僧侶】を選択した理由も見えてきた。


 回復役を独占しようとしていた?


 見知らぬ世界に突然飛ばされ、飛ばされた先には人を襲う凶悪なモンスターが生息していた。


 そんな環境下で、回復魔法の存在は非常に大きい。


 病院もなければ、薬もない。


 頼れるのは回復魔法だけ……。


 怪我を負ったとしたら、クラスメイトたちは立花さんか村井に頼らざる得ない。


 自分が怪我を負わなくても、例えば友人や大切な人が怪我をしたらどうする?


 立花さんか村井に回復を懇願するしかない。


 その時、無理な要求をされたら?


 断れるはずがない。


 佐伯の狙いはこのクラスの支配?


 最悪の未来が頭をよぎる。


 いや、落ち着け。今は、まだ……俺の想像に過ぎない。これはあくまで最悪の想定だ。ひょっとしたら、佐伯なりにクラスメイト全員が生き残れる為に考えた末の行動かもしれない。


 今は波風を立てずに、様子を見よう……。


 こちらには佐伯の切り札――回復魔法の独占を切り崩す手段がある。


 もう一つは嘘ではなく――隠しごと。


 相澤が口走った『例のレ――』とは何だ?


 レ……レ……レ?


 レモン? レビュー? レシピ? レッド? レールガン!?


 俺は“レ”から始まる言葉を連想する。


 レモン……仮にレから始まる食べ物だとしたら?


 食べ物を独占したいから、隠した?


 サバイバル生活が予想される現状て、あり得ない事態でもないが、それなら事前に口止めをするだろう。


 俺は事前に何と質問して、相澤は"レ"と口走った?


 俺は先程の記憶を呼び起こす。


 ――『何か新たな発見とかあったのかな?』


 "レ"から始まる、発見したモノ?


 何だ? 何を隠そうとしている?


 "レ"から始まる色々な言葉を思い浮かべては、当てはまらずに消え去る。


 考え方を変えてみよう。


 俺が佐伯なら……何を隠す?


 ――!


 すでに隠しごとは俺もあった。


 アキがゴブリンを倒して【適性】と【特性】を得たことを隠していた。


 仮に正直に話していれば……アキは【賢者】を選択し、回復魔法を習得していることが露見していた。


 この事実は、佐伯グループによる回復魔法の独占を阻止することができる切り札となる。


 "レ"……錬金術師?


 実は内海、木下、村井のいずれかは錬金術師を選択したのを隠した……? いや、それだと前後の会話が合わない。何より、隠す意味が不明だ。


 "レ"……"レ"……"レ"……"レ……


 ――!


 まさか、あり得ないだろ?


 俺は小さな声で呟く。


「――ステータスオープン」


 しかし、何も変化は生じない。


「ん? ハル、何か言った?」


 アキが突然意味不明な言葉を呟いた俺に、声を掛ける。


「いや、何でもない」

「ふーん、そっか」


 キーワードが逆なのか?


「――オープンステータス」

「言った! 絶対に何か言ってたよね?」


 またもや意味不明な言葉を呟いた俺に、アキが声を掛けてくる。


「気のせいだろ?」

「えー! 絶対に気のせいじゃないよ!」


 騒ぎたてるアキを無視して、俺は再び思考する。


 "レ"……"レベル"と思っていたが、違うのか?


 異世界転移、魔法、ゴブリン……謎の声の主からの特別なギフト――【適性】と【特性】。


 ここまでテンプレートが揃えば、レベルと言う概念があるのかと、思ったが違ったか?


「ハル、どうしたの? さっきからずーっと難しい顔しているよ?」


 アキが指を使って眉間に皺を寄せて、俺へと問いかける。


「そこまで変な顔はしてないだろ」

「してるよ」

「んー……アキ、"レ"から始まる言葉を適当に言ってみて」

「"レ"? なんだろ? レモン、れんこん、レセプション……何か最後に"ん"の付く言葉が多いね!」


 アキは楽しそうに笑う。


「別にしりとりを……アキ!」

「うん?」


 俺はゴブリンの短剣を取り出して構える。


「「「ギィ! ギィ! ギィ!」」」


 前方の木の奥から複数のゴブリンが姿を現したのであった。


―――――――――――――――――――――――

(あとがき)


お読み頂きありがとうございます!


物語の方向性が見えてきたかなぁ(化かし合い)、というところで、毎日2話更新は終了となります。

明日からは正午12:00に毎日一話投稿となります。


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