疑惑

「俺の選択した【適性】は【暗黒騎士】、【特性】は【耐久の才】だ」

「――な!? そ、某の適性が……」


 内海が選択した【適性】と【特性】を答える。クラスメイトの1人が悲壮感に襲われているが、全員が見ないようにしている。


「俺の選択した【適性】は【暗殺者】、【特性】は【隠密の才】だ」


 次に木下が答えた。


 暗殺者と隠密か……鉄板の組み合わせだな。


 内海と木下が答え、最後となった村井にクラスメイト全員の視線が集まる。


「俺の選択した【適性】は――【僧侶】。【特性】は【水属性の才】」


 ――!?


 村井の選択した【適性】は【僧侶】? そして、【特性】は【水属性の才】?


「ちょっといいかな?」 


 俺は手を挙げて発言の許可をとる。


「松山? 何だ」

「何で村井君は【僧侶】と【水属性の才】を選んだの?」


 回復役なら立花さんの【聖女】で事足りるはず。


「それは、佐伯が――」

「【聖女】が回復魔法を使えなかったら困るだろ? だから、念には念を入れて村井は【僧侶】を選択した。そうだよな?」

「あ、あぁ……その通りだ」


 答えようとする村井を遮って、佐伯が答えた。


 ――?


 佐伯の答えに俺は違和感を覚える。


 とは言え、ツッコんでも恐らくはぐらかされる、最悪の場合は関係性が決裂してしまう。


「へぇ。凄いっ! そこまで気が回るなんて流石だよ! それじゃ、【水属性の才】を選んだのにも深い理由があるの?」


 俺は本音を押し隠して、わざと褒め称え、次なる質問へと移った。


「まさか、松山たちが川を発見しているとは思わなくて、魔法で水が生成出来たら、便利かと思って選択した……だったよな?」

「あ、あぁ……そうだな」


 佐伯が代弁するかのように村井の顔を見ながら答える。


「なるほど、実際に水を生成する魔法は使えるようになったの?」

「一応だけどな――《ウォーターボール》!」


 木下は俺の問いに答えて、何もない空間から水球を生み出し近くの木に命中させる。命中した木は、幹がえぐれ、水浸しになっていた。


 攻撃魔法……?


 まぁ、無から水は生成された。川を発見していなかったら、あの水をすする羽目になっていたのだろう。


「おぉ……! 凄いね! 他には何か新たな発見とかあったのかな?」

「いや、特にはない」


 出来るだけヨイショをしたつもりだが、佐伯の表情は崩れることなく、これ以上有益な情報は引き出せそうになかった……と、思っていると、


「あん? 佐伯、例のレ――」

「相澤っ!!」


 相澤が何かを口にしようとしたが、佐伯の怒鳴り声にかき消された。


「ん? 剛、何かあるのか?」

「い、いや……何でもねー」

「佐伯、何かあるのか?」


 ナツが相澤に問い質すも、相澤は口を閉ざす。ナツは次に佐伯へと鋭い視線を送った。


「別に大したことじゃない。倒したゴブリンの装備品を奪っただけだ。新たに、ナイフが5本、斧と剣と槍が1本増えた。それだけだ」

「と言うことは……8匹も倒したのか!?」


 佐伯はばつが悪そうに戦利品を報告し、ナツがその戦果に驚く。


 8匹のゴブリンね……。


 俺は一つの事実を確認することにした。


「凄いっ! 本当に凄いよ! 俺なら震えて動けないよ! 相澤君たちはゴブリンを8匹も同時に相手にしたの!? 大丈夫だった?」


 ターゲットは頭の悪い相澤だ。


 俺は大袈裟に驚き、相澤を褒め称える。


「んなわけねーだろ! 1匹ずつだ! 最初に1匹で歩いている間抜けなゴブリンがいたから、佐伯が咆哮で竦ませて、俺の拳で瀕死にてから、立花にトドメを刺させたんだよ! 次は3匹! しかも凶悪な斧を持ったゴブリンだ! しかし、そこでも俺の炎の拳が――」

「相澤、その話は別の機会だ。今はクラス会議に集中しろ」


 相澤がしたり顔で己の武勇伝を語り出すが、途中で佐伯に止められてしまった。


「そんなことより、斧は内海が使いたいそうだ。槍は俺が使わせてもらう。木下はナイフでよかったよな?」


 佐伯が確認をすると、木下は黙って頷く。


「ってことで、剣が一本余る。獅童、使うか?」

「そうだな、ハルと相談――」

「ナツは【聖騎士】だ。ナツが使えばいいよ」

「そうか? ハルがそう言うなら……他のみんなも俺が剣を使ってもいいかな?」


 ナツは他のクラスメイトたちにも確認を取るが、異論は特に出なかったので剣を素直に受け取った。


「話は少し逸れたけど、これで二つ目の議題もクリアになった。最後に、今後の行動予定について話し合おう!」


 ナツはクラスメイトを見回して最後の議題に入ろうとするが、


「獅童、意見を言ってもいいか?」

「佐伯、どうした? 意見はいつでも歓迎だ」

「最後の議題を話し合うのは拠点を移してからにしないか?」

「あーしもとーじの意見に賛成! 川なら水浴び出来るっしょ! あ!? 覗いた男子は死刑ね!!」

「俺も佐伯の意見に賛成だ」


 佐伯が意見を言うと、立花さんが賛同。その後、相澤、内海、木下、村井が賛同すると、その声に釣られるように多くのクラスメイトが賛同した。


 主導権がナツから佐伯に移った?


 俺は今の流れに不安を感じたのであった。



  ◆



 クラス会議は佐伯の意見により終わりを告げ、俺たちは拠点を移すべく川への移動を始めた。


 俺はアキと共に先導のため、先頭を歩いていた。


 川までの距離はおよそ5km。徒歩で2時間ほどの距離だ。


 俺は周囲を警戒しつつも、頭の中は先程のクラス会議のことでいっぱいいっぱいだった。


 佐伯はなぜ嘘をついた?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る