佐伯たちの帰還

「ったく、俺たちが死ぬ気で戦っている間に呑気に飯かよっ」


 相澤がキノコや根菜を頬張るクラスメイトたちを見て悪態をつく。


「剛、そんな言い方はないだろ」

「でもよぉ……」


 ナツが悪態をつく相澤を窘める。


「それで、首尾はどうだったの?」


 ふてくされる相澤を無視して、俺は佐伯に問いかけた。


「上々だ。佳奈、乾たちを診てやってくれ」

「おけまる」


 佐伯が命じると、立花さんはおでこに手を当てながら返事をすると、怪我人たちが休んでいる場所へと移動する。


「んじゃ、いっくよー! ――《ヒール》!」


 立花さんが乾の怪我をしている箇所へと両手を翳すと、暖かい光が患部を包み込んだ。


「ふぅ……これめっちゃ疲れるんですけど」

「真司! どう? 大丈夫?」


 回復魔法を唱え終えた立花さんが額に浮かんだ汗を拭うと、栗山さんが心配そうに乾へ問いかける。


「あ、あぁ……アレ? 痛くない……治った……?」


 横になっていた乾は起き上がり、怪我をしていた腹部をさすり、体調を確認する。


「良かった……本当に良かった……ありがとう! 立花さん、本当にありがとう!」

「まぁ、あーしは聖女だし、当然っしょ!」


 栗山さんが目に涙を浮かべながら感謝を伝え、立花さんは照れ笑いを浮かべた。


 その後、立花さんは怪我をしたクラスメイトたちを次々と治療した。


「疲れたぁ……もう限界っしょ……」


 全ての怪我人の治療を終えた立花さんは額に汗を垂らしながら、その場でしゃがみ込む。


「立花さん、コレを食べてみて」

「へ? 草じゃね?」


 俺は立花さんに魔力の回復効果があると鑑定結果が出た薬草を差し出した。


「魔力が回復する薬草だよ」

「ふーん……んじゃ、いただきまーす……って、にがっ! めっちゃ不味いんですけど!」


 立花さんは俺の差し出した薬草をペッペッとその場に吐き出す。


「不味いかも知れないけど……薬だと思って我慢してよ」

「えぇー、マジで不味いし!」

「松山、ソレは?」


 立花さんと押し問答をしていると、佐伯が割って入ってきた。


「『魔力草』。魔力を回復させる効果のある薬草だよ」

「『魔力草』? 確か、松山の【特性】は……」

「【鑑定の才】だね」

「なるほど。佳奈、不味いかも知れないが食べた方がいい」

「えぇー! でも、マジ不味いよ? ……わかった。とーじが言うなら食べるし!」


 佐伯冬二と立花佳奈は恋人同士らしいが、パワーバランスは佐伯に大きく傾いているようだ。立花さんは大人しく『魔力草』を食した。


「他にはどんな薬草を集めたんだ」

「えっと、滋養強壮に効く薬草と、毒消しの効果の薬草と、止血効果のある薬草かな」

「なかなか便利な【特性】のようだな」

「まぁね。みんなの役に立てて良かったよ」


 俺と佐伯は表面上は笑顔を浮かべて会話を続ける。


「それで、立花さん以外の首尾は?」

「と、言うと?」

「内海君、村井君、木下君もゴブリンは倒せたのかな?」


 俺の質問を受け、佐伯の目が鋭くなる。


「松山は、どっちだと思う?」


 こいつ面倒臭い性格だな……。質問を質問で返すなよ。


「倒した、と思ってる」


 内海、村井、木下の明るい表情を見れば、結果は一目瞭然だ。


「その通り。倒した」

「それで選択した【適正】と【特性】は?」

「グイグイ質問して来るな」

「そうかな?」

「そういえば、松山とじっくり話すのは初めてだな」

「クラスの中だと接点はなかったからね……で、選択した【適正】と【特性】は?」


 答えをはぐらかされる訳にはいかない。俺は手を緩めずに問いかける。


「落ち着けよ、後で全員を集めてから伝える。二度手間だろ?」

「……わかった」


 佐伯は俺を警戒しているのか、答えは結局はぐらかされた。



  ◆



 佐伯たちが戻ってきてから3時間後。


 怪我人が復調し、植物尽くしではあったが全員の腹も満たされた頃合いを見計らい、ナツがクラスメイト全員を集めた。


「クラス会議を始める。まずは、佐伯、相澤、内海、村井、木下、そして立花さん。ゴブリン討伐お疲れ様。お陰で危機を脱することが出来た」


 ナツはゴブリン討伐に向かったメンバーに頭を下げて謝辞を伝える。


「今回のクラス会議の議題は3つ。まずは、拠点の移動。次は、新たに習得した【適性】と【特性】について。最後は、今後の行動予定についてだ」


 ナツはジェスチャーを交えながら、クラスメイトの顔を見回して語りかける。後者は俺がナツに進言した議題だった。


「1つ目の議題だが、佐伯たちがゴブリンを討伐している間にハルと辻野さんが川を発見してくれた。水の確保は俺たちが生き抜くのに欠かせない要素だ。俺はこの会議が終わり次第、川辺に移動するべきだと思うけど、反対意見はあるかな?」


 ナツがクラスメイトの顔を見回すが、首を横に振る者も、手を挙げる者もいない。


「反対の人はいないみたいだな。このクラス会議が終わったら、皆で移動するとしよう」


 一つ目の議題はあっさりと終わる。


「次の議題は、ハルから聞いたけど、圭佑、内海、木下も新たに【適性】と【特性】を習得したんだよな? 今後の予定にも大きく左右される。何を習得したのか教えてくれないか?」


 ナツは俺の名前を出して事実確認をする。名前は出すな……と言いたいが、言い逃れをされても困る。俺は事前にナツへ名前を出すことを許可していた。


 佐伯は俺に鋭い視線を浴びせると、次に村井、内海、木下の顔を順に見て首を縦に振るのであった。

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