山菜パーティー

「たっだいまー!」

「ハル! 辻野さん! お帰り!」


 アキの元気な声にいち早く反応したナツがこちらへと駆け寄ってくる。


「ナツ、何か変わったことは?」

「特に無いな。そっちは?」

「川を発見した」

「――! 川!? 凄いっ! ハルはやっぱり凄いなっ!」


 俺の言葉にナツは満面の笑みを浮かべ、周囲にいるクラスメイトからも「おぉ!」と感嘆の声が漏れる。


「後、味は保証しないが……食べれそうな植物も採取してきた」


 俺はそう伝えると、カバンの中に入れてあった、草花や、キノコ、根菜を取り出す。


「食べ物まで……! 凄いっ! けど、……ハル、これは食べても平気なんだよな?」


 ナツは俺が取り出した植物の中でも一際カラフルなキノコを手にして、困惑する。


「鑑定した結果、毒はないし……それは滋養強壮にいいキノコだぞ」

「あぁ、そういえば、ハルの【特性】は……」

「【鑑定の才】だな」


 俺はナツの言葉を続きを言って、微笑む。


「このまま食べるの抵抗があるのなら……焼いてみるか」

「火を起こせるのか?」


 ナツは期待に満ちた視線を俺へと向ける。摩擦を利用して火を起こす……テレビなどではよく見る光景だが、俺はそんなサバイバルスキルを持ち合わせてはいない。


「えっと……ちょっと待ってろ」


 俺はナツに断りを入れると、少し歩いて地面に落ちていた枯れ葉は木の枝などを拾い集める。


 このくらいの量があればいけるか?


 俺は短剣を取り出して、魔力を集中させる。


「――《エンチャントファイアー》!」


 そして、俺は炎を纏った短剣を枯れ葉へと近付けた。


 よし、成功だ。


 短剣を覆っていた炎は枯れ葉へと燃え移り、徐々に燃え広がる。


 俺は近くに落ちていた小枝を拾い、ナツが懸念していたカラフルなキノコにぶっ刺すと、焚き火へと成長した炎で焼き始める。


 こんなものか?


「完成っと……食う?」


 俺は完成した焼きキノコをナツへと差し出す。


「い、いや……今はお腹が空いていないから、遠慮する」


 ナツは後退り、差し出したキノコの受け取りを拒否する。


「そうか……それなら俺が食べるよ」


 俺は自分の焼いたキノコを口へと運ぶ。


 ふむ……調味料を一切使っていないから、味気ないが……食べられないことはないな。


 俺が焼きキノコを咀嚼していると、


「あー! ハル、私にも一口ちょうだい!」

「ん? それなら新しいのを焼く――」

「もーっらい!」


 採取したキノコは沢山ある。俺は新たなキノコを取ろうとしたが、アキは俺の手にあるキノコをパクっと食べた。


「――な!?」

「ふむふむ……不味くはない? んー優しい味だね」


 アキは焼きキノコをゆっくりと咀嚼し、味の感想を言う。


 ふむ……どうすべきか?


 俺はアキの歯型に欠けたキノコのかさの部分を観察する。


 今は食糧難だ……捨てるのは勿体無い。しかし、これを口にしたらか、か、か、間接キッスになるのでは?


「やっぱり俺も貰おうかな。ハルと辻野さんを見ていたらお腹が空いてきた」


 俺が欠けたキノコの扱いに悩んでいると、ナツが申し訳なさそうに、先程の言葉を訂正した。


「わかった。一応、ここにあるキノコは全部食べられるはずだから、好きなのを選んで焼いてくれ」

「ハル、ありがとう」


 ナツは無難な茶色のかさのキノコを拾い上げ、焼き上げた。その後、ナツに続くようにクラスメイトたちが次々と採取したキノコや根菜を拾い上げ、焼き始める。


「そうだ! ハル、薬草は?」


 クラスメイトたちがキノコを食べているのを眺めていると、アキが声をあげる。


「……薬草?」


 アキの言葉にナツが反応する。


「止血効果のある薬草も摘んできた。効果はどれほどあるのかは不明だが……怪我人に使ってくれ」

「使ってくれ……って、飲めばいいのか、患部に貼ればいいのか……どっちだ?」


 採取した薬草をナツに手渡すと、ナツが難解な質問を俺へと投げかける。


 植物の効果は【鑑定の才】で分かるが、使用方法は不明だ。


「数は結構あるから……煎じてから飲んで、患部にも貼ればいいんじゃないか?」


 鑑定した限り毒はない。味の保証は出来ないが、飲んで、貼ったら……効果はあるだろう。


 その後、クラスメイトたちと手分けして怪我人に薬草を配った。


真司しんじ! どう? 少しは良くなった?」

「あぁ……痛みが和らいだ……まいありがとうな」

「お礼なら松山君と辻野さんに言って! 私は何もしてないから……」

「バカ……お前がいるから、俺は頑張れるんだよ……」


 重傷を負った乾と彼女の栗山さん。二人の甘すぎる様子を見る限り、薬草の効果はあったようだ。


「なぁ? 松山?」

「ん?」


 数人のクラスメイトが手に多くの植物を抱えて、俺の元に来る。


「コレも食えるのか?」

「ちょっと待って、鑑定する」


 俺は大量の草花、根菜、キノコを鑑定。食べられる植物と食べられない植物に仕分けをする。


「結構食えるんだな」

「食える、と言うか……口にしても安全って意味合いの方が強いかな」


 俺の鑑定基準は毒の有無。


「これだけ食えるなら餓死することはなさそうだな。贅沢を言えば……せめて調味料が欲しいな」


 調味料か……。今度、岩塩でも探してみるか。


 水と食料の確保は出来たことにより、クラスメイトの間に安堵の空気が流れる。


 【鑑定の才】を選択して正解だったな。


 と、ホッと一息付いてると……


「あん? 何か美味そうな匂いがするな」

「食糧を調達出来たのか」


 回復魔法を習得する為にゴブリンの探索に向かっていた、佐伯たちが帰還したのであった。

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