vsゴブリン

 ゴブリンは俺の接近に気付いていない!


 うぉぉぉおおお!


 俺は恐怖から目を瞑り……ゴブリンへと炎を纏った短剣を振り下ろす。


「グギャギャ……」

「「ギィ! ギィ!」」


 手に伝わる生温かい感触、鼻孔を刺激する焦げた臭い、耳に届いたのはゴブリンの悲鳴と甲高い鳴き声だった。


 やったか……!?


 目を開けると、視界には首から血を流し地に倒れている1匹のゴブリンと、激高する2匹のゴブリンの姿が映る。


 やった……! やったぞ……!


 自分が初めて意識して成し得た成果に興奮していると、


「――ハルッ!」


 俺の名前を叫ぶアキの声が耳に届く。


 ――!?


「ギ、ギィ……」 


 そして、目の前にいた、俺へと短剣を振り上げていたゴブリンが地に倒れた。


「アキッ!」


 しかし、アキは答えない。木の槍を突き立てた構えのまま固まっている。


 向こう側に喚ばれた……?


 なら、次は俺が……俺がアキを守る!!


「うわぁぁぁあああ!」


 俺は一心不乱に炎を纏った短剣を振り回す。


「ギィ!」


 しかし、振り回した俺の短剣は空を切り、ゴブリンが反撃とばかりに振り回した短剣が俺の右腕を斬り裂いた。


「ッ! 来るなら来い! お前は俺が――」

「――《ウィンドカッター》!」


 覚悟を決めたその時――一陣の風が刃と化してゴブリンの腕を切り飛ばした。


「ギ、ギィ!?」


 腕を切り飛ばされたゴブリンは恐慌状態に陥る。


 この好機逃してたまるかっ!


 俺は片腕をなくしたゴブリンに渾身の一振りを放った。


「ギ、ギィ……」


 炎を纏った短剣の一撃を食らったゴブリンは、焦げ臭い臭いを放ちながら、地に倒れた。


 ふぅ……。


 俺は極度の緊張感から流れた汗を拭い去る。


「ハル! 大丈夫?」

「ア、アキ、助かった。さっきのは?」

「あれは《ウィンドカッター》だよ! そ、そんなことより、血……! 右腕から血が出てるよ!」

「ん? あ、あぁ……」


 俺はゴブリンに斬りつけられた右腕に視線を落とす。右腕は覆っていた制服ごとざっくりと切れており、流血していた。


「わわっ! 『あぁ……』じゃないよ! 大怪我だよ! えっと、えっと……――《ウォーターヒール》!」


 アキは慌てふためきながら両手を俺の右腕にかざすと、一粒の水滴が裂傷を負った俺の右腕にぽたりと落ちた。


「……治った?」


 一粒の水滴は大きな水の膜となり俺の右腕を包み込む。すると、流れていた血は止まり、裂けていた傷は塞がった。


「ふぅ……初めてだったけど、効果があって良かったー!」


 アキ治癒された俺の右腕を見て嬉しそうに微笑む。


「助かった……ありがとう」

「どういたしまして!」

「ところで……習得した魔法は何種類だった?」

「えっと、《ウィンドカッター》と《ウォーターヒール》の2種類だよ」

「そうか、2種類か。どっちも使い勝手が良さそうだな」


 他にも複数あるのかと思ったが、習得出来た魔法は先程目にした2種類だけのようだ。


「だね! それよりビックリだよ! ハルから聞いてはいたけど……本当に不思議な空間だよね!」

「あぁ……『理の外にある空間』か」

「ほぇ? 『理の外にある空間』? あそこは、そんな名前なの?」

「ん? 何か声が聞こえただろ?」

「うん」

「その声の主に聞いたら、そう答えた」

「えっ? 質問とか出来たんだ!」

「時間が無いとかで、まともな会話は成立しなかったけどな」

「ソレソレ! あんなにもいっぱいあるのに、制限時間が3分とか……ズルいよね! 3分だと全部確認することも出来ないよ!」


 アキを頬を膨らませてぶーたれる。


「一応確認するが、【適性】で【賢者】、【特性】で【魔力の才】は選択出来たよな?」

「うん! 出来たよー。でも、ハルから聞いていなかったら……多分、パニックで選べなかったよ」

「まぁ、いきなりあの状況だしな」

「ハルはよく選べたね」


 まぁ、我ながらよく選べたと思う。ラノベ好きの健全な高校生の妄想――『自分が異世界に転移したら?』が役立つとは……。


「まぁ、もう少しゆっくり選びたかったけどな」


 選べた理由を話す訳にもいかず、俺は苦笑する。


「とりあえず、みんなのところに戻ろう! 私の魔法でみんなを治せるかもしれないからね!」

「そうだな。でも、回復は佐伯たちに任せよう」

「え? 私の回復魔法は?」


 俺の言葉にアキが驚きを露わにする。


一先ひとまず、アキが【賢者】になったのは言わない方がいいな」

「内緒にするの?」

「内緒と言うか……聞かれてないから答えないだけ、って感じでいこうか」

「むむ……何か悪巧みしてる?」


 アキはジト目で俺を見る。


「してない、してない。佐伯たちも必死に回復魔法を覚えに行ったのに、帰ってきたら……アキも使えました! じゃ、気分を害するだろ?」

「んー……言われてみれば……」


 何とかアキを言いくるめることに成功。


「だろ! その代わり……お土産を持って帰るか」

「お土産?」

「俺の【特性】覚えてるか?」

「【鑑定の才】だっけ?」

「そそ。【鑑定の才】の恩恵だと思うんだけど、そこら辺に生えてる植物の効果が分かるんだよね」

「効果? 名前じゃなくて?」

「名前も分かるけど、効果だな。熱を下げるとか、毒に効くとか、滋養効果があるとか、食べれるとか……そんな感じだな」

「おぉ……! 凄いっ! ハルは薬剤師にもなれるね!」

「とりあえず、怪我人には薬草を渡して……後は食べれそうな植物を適当に採取しながら戻るか」

「賛成!」


 こうして、俺とアキは有用な植物を採取しながらクラスメイトの元へと戻ったのであった。

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