提示した未来

「え? どういうこと?」


 俺からの質問にアキは素っ頓狂な返事をする。


「だから、クラスメイト全員が助かる可能性も僅かにあるが、多くのクラスメイトが死ぬ可能性もある未来と、ナツとアキ……後は数人のクラスメイトが助かる可能性が高い未来――どっちがいい?」


 俺はもう一度、同じ質問をアキに投げかける。


「え? クラスメイトが全員助かる可能性は僅かなの?」


 アキは俺の質問に質問で返してくる。


「んー……今後の展開次第だけど、僅かだな」


 俺は希望的観測でなく、正直に答える。


「え? 何で!」

「説明は後でするから……アキは前者がいいのか?」

「え、ちょっと待ってよ! えっと……後者の私と獅童君と数人のクラスメイト、その中にハルは含まれているの?」

「そうだな。その中に、俺は含まれている」

「えー……じゃあ……でも、どうだろ……全員が助からないってことは……アコちゃんとか、ミユちゃんも助からない可能性もあるんでしょ……でも、ハルと私が助かる可能性が高いのは……んー……」


 俺の質問にアキは独り言を言いながら、悶える。


「アキ次第だけど、アコちゃんとミユちゃんも後者に含まれるぞ」

「え、ちょ! ハルっていつの間に2人をちゃん付けで呼ぶように……私でも昨日までは辻野さんって他人行儀だったのに!」

「待て……今はアキの言い方を真似しただけで、本人の前でそんな呼び方は無理だ」


 俺はアキの意味不明な答えに苦笑する。


「それなら――」


 アキはその後もクラスメイトの名前を挙げては、後者に含まれるのか、どうかを確認する。


「じゃあ……相澤君は?」

「厳しいな」

「え?」


 アキが15人目のクラスメイトの名前を挙げたところで、俺は初めて首を横に振った。


「じゃあ……村井君も?」

「厳しいな」

「ハル、理由は?」


 アキは真剣な目で俺に問い掛ける。


「逆に聞くが……アキは相澤と村井をどうしても助けたいのか?」

「どうしても……とか言われると困るけど、出来ればクラスメイトは全員助けたいよ」


 アキは困った顔をして答える。


「人が3人集まれば派閥が出来る……って言葉は知っているか?」

「んー……聞いたことがあるような、ないような……」

「例えば、今の二年三組にもいくつもグループが存在しているだろ?」

「友達同士のグループのこと?」


 休み時間になれば、クラスメイトたちは仲の良い友人同士で固まる。性格が合う、趣味が合う、同じ部活に所属している……理由は様々だが、クラスメイトたちはそれぞれのグループに属している。


「今、俺たちが置かれている状況は――異常だ」

「うん」

「そんな異常な状況で……クラスメイトたちは一致団結して協力し合えるだろうか?」

「異常な状況だからこそ……生き残るためにみんなで力を合わせないかな?」

「例えば……今から食料を集める。食料が沢山あれば問題はない。でも、少なかったら? どうやって分ける?」

「えっと……それは……」

「例えば、今後の行動方針は、誰が決める? その決められた行動方針に全員が納得するか?」

「話し合いで……」

「話し合いで解決しなかったら? 解決したとしても、本当に全員が納得しているのか?」

「そ、それは……」


 俺はアキを追い詰めるように畳み掛ける。


「ナツがこのままリーダーシップを発揮して、クラスのみんなをまとめれればいいが……成功すると思うか? 成功するなら、それは俺が僅かな可能性と伝えた前者――クラスメイトが全員助かる第一歩になる」

「ハルは失敗すると思っているの?」


 俺はアキの質問に黙って首肯する。


 すでにナツの意見に古瀬さんは異論を唱え、佐伯の行動も少し怪しい。


「俺は失敗することを想定して行動を起こすべきだと思っている」

「行動って……?」

「信頼出来る仲間の確保」

「その仲間がアコちゃんとかミユちゃんってこと?」

「そうなるな」


 日常の中の俺であれば、周囲の流れに身を任せるが、今は――非日常だ。生き残る為には、自分で考え、行動しないといけない。


「具体的には、拠点を作る」

「拠点?」

「【特性】の中には【建築士】や【料理人】といった生活の基盤を支える【特性】もあった」

「【建築士】? 【料理人】?」

「信頼出来る仲間にその【特性】を選択して貰い、まずは生活拠点を作る。これが、助かるための第一歩だと思う」


 今の俺たちは衣食住の食と住が欠けている。衣服に関しても、学生服のみだ。まずは、衣食住を整えてから、元の世界に帰る方法を見つけるべきだろう。


「それならクラスメイト全員で協力して拠点を作れば、よくない?」

「そうだな。その流れになるなら、俺は静観するよ」

「なるよ! ハルは物事を難しく考え過ぎてるだけだよ!」

「だといいが……」


 俺の心配をよそにアキは笑顔を浮かべて、明るい未来を見つめるのであった。

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