☆SIDE−S①
――?
何が起きた……?
周囲を見渡せば、視界に映るのは鬱蒼と生い茂る木々と草花。そして――困惑しているクラスメイトたち。
思い出せる直近の記憶は……いつもどおり登校し、いつもと変わらぬ朝礼を受けている最中に……、
――!
俺は幼馴染で、悪友で、大切な彼女――
――!
俺は地に倒れた佳奈を発見し、慌てて駆け寄った。
「佳奈! 佳奈! 大丈夫か!」
意識を失っている佳奈の肩を揺り動かすと、
「……ん………にゃ……と、とーじ? もう、朝?」
佳奈は瞳を開けると、気怠そうに寝言を漏らした。
「佳奈、大丈夫か?」
「ん? んん? あれれ? とーじ……ここどこ?」
「……俺にもわからない」
「とーじにもわからないことあるんだぁ」
「すまん……」
「おけまる、おけまる。サプライズキャンプデートみたいな?」
「はぁ……。ったく、それならよかったんだけどな」
いつもと変わらぬ佳奈の無邪気な笑顔に、俺は平常心を取り戻す。
その後、クラスの中心である獅童と委員長の古瀬が主体となって話し合いが行われた。
話し合いの結果わかったことは、27人のクラスメイト全員がこの場にいるということだけだった。
なぜ、森の中にいるのか? ここはどこなのか? を答えられる者は誰一人いなかった。
クラスメイトの一人は“クラス転移”とか、あり得ない妄想を話していた。
「とーじ……あーしたち大丈夫かな?」
隣に座っていた佳奈が俺の手を握る。手を握る佳奈の手は震えていた。
守らなくては……佳奈は何があっても俺が守る。
知らぬ間に森の中という非日常の中で、いつも俺の側にいる佳奈という日常の存在が、俺の精神を落ち着かせてくれる。
目の前の現実と向き合おう。
俺は野球部だが、同じ野球部の木下や内海たちと違って脳筋のバカじゃない。部活内でも、対戦相手と味方を分析し、効率的な練習を取り入れることで、早々に正捕手の座を勝ち取った。
今、俺たちがいるのは見知らぬ森の中。そして、共にいるのは27人のクラスメイト。
今後、想定される問題は……?
最終的な目標は佳奈と共に家に帰ることだが……その手段は不明だ。ならば、まずは生き残ることを最優先とし……。
必要なのは……食料、そして水か。
カバンの中にスポーツドリンクと昼食のおにぎり……後はバランス栄養食はあるが、すぐに尽きるだろう。
どうする? どうすれば……佳奈と共に生き延びることができる?
「とーじ、どったの?」
「いや……なんでも……そうだ、食べる物はあるか?」
「んーアメならあるよぉ……ほしいの?」
「いや、今は大切に取って――」
呑気にカバンを漁ろうとする佳奈を見て苦笑を浮かべていると、
「ギィ! ギィ!」
「ギィ!」
「「「ギィ! ギィ! ギィ!」」」
森の奥から緑色の肌をした醜悪な見た目の生物が姿を現した。
「「「キャァァァァアア!」」」
「「「ウワァァァァアア!」」」
周囲にいたクラスメイトたちが一斉に悲鳴をあげる。
――!?
ば、化け物……!?
な、な、な、なんだ……コイツらは……!?
突如現れた醜悪な生き物の手にはナイフが握られていた。
「佳奈! こっちだ!」
「と、とーじ……なにこいつら……ヤバいっしょ……こいつら絶対にヤバいっしょ……」
俺は佳奈の手を引いて化け物たちから一番遠い場所へとひた走る。
「うわぁぁあああ」
「ゴ、ゴ、ゴ、ゴブリン……」
「た、助けてぇぇえ」
「ぶ、武器だ……! まずは、武器を取り上げろ!」
周囲はクラスメイトたちの悲鳴が響き渡る阿鼻叫喚の地獄と化した。
クソッ! クソッ! クソッ!
なんだよ! 一体なんなんだよ!!
「と、とーじ! ゆいっちが!」
佳奈が俺の手を強く引っ張っり、化け物に襲われそうな佳奈の友人を指差す。
クソッ! 他人に構っている余裕なんてないのに……俺は近くに落ちていた石を拾い、佳奈の友人を襲おうとしていた化け物へと投擲。
石は見事に化け物の頭にヒットしたが……
――!?
「ギィ! ギィ! ギィ!」
石をぶつけた化け物が喚き散らしながら、こちらへと向かってきた。
クソッ! クソッ! クソッ!
だから、嫌だったんだ!
俺は近くに落ちていた、石や木の枝を無我夢中で向かってくる化け物に投擲。
すると……顔面に石を食らった化け物が、転倒した。
守る……守る……守る……佳奈は俺が守る!!
「うわぁぁあああ!!」
俺は手にした石で倒れたゴブリンの顔面を何度も殴打した。
「と、とーじ……」
ハァハァ……守る……佳奈は俺が守る……。
――!
(素質を覚醒せし者よ……我が元に来たれ)
無我夢中で化け物を殴打しているとき――目の前が突然ブラックアウトしたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます