水の捜索
佐伯たちはゴブリンの捜索に出発。残った俺たちは今後の予定を話し合うことにした。
「このまま佐伯たちを待っている訳にはいかない。俺たちも出来ることをしよう」
ナツがクラスメイトたちに声を掛ける。
「獅童君、私たちが出来ることって何?」
クラスメイトの一人がナツに尋ねる。
「水と食料の確保。不幸中の幸いか……この世界に転移したのは俺たち――人だけじゃない。身近にあった物も一緒に転移している」
身近にあった物――身に着けていた時計やポケットに入っていたスマートフォンと、学校指定のリュックサックだ。
リュックサックの中には、教科書や筆記道具以外にも水筒やペットボトルと言った飲み物、或いは間食用のお菓子や昼食が入っているクラスメイトも多かった。
「中にはペットボトルや水筒を持っているクラスメイトもいるだろうけど……この状態がいつまで続くか分からない。少なくとも水の確保は絶対に必要だ」
「水の確保……川とかを探すの? でも、ここから動いたら、佐伯君たちが困らないですか?」
ナツの言葉に古瀬さんが苦言を呈する。
「あぁ……だから、水の捜索は俺が一人で行ってくる。そんなに遠くまでは行かないから……何かあれば……そうだな……全員でスマートフォンのアラームを鳴らしてくれ」
ナツは妙案を思い付いたとばかりに、周囲を安心させる笑みを浮かべる。
昨今では高校生の必須アイテムとなったスマートフォン。当然俺も持っているが異世界に電波などがあるはずもなく、使える機能は時間の確認、アラーム、メモ帳と言ったオフラインでも使える一部の機能に留まった。
「うーんそれなら……でも、獅童君一人だと危なくないですか?」
「大丈夫! 危険を感じたらすぐに逃げるよ」
心配する古瀬さんにナツが笑顔で答える。
「みんなはここから目の届く場所を捜索して食料を探してくれ! 俺は水を――」
「ナツ、俺から提案いいかな?」
俺はナツの言葉が終わるのを待たずに、発言する。
「ん? ハル、どうした?」
俺が積極的に発言したのが嬉しいのか、ナツの瞳は輝いている。
「ナツが水の捜索を志願した理由は【適正】と【特性】があるからだよね?」
「そうだな」
「なら、俺も条件は同じだから、水の捜索は俺が行くよ」
現在、クラスメイトたちの間にはネガティブな空気が流れている。そんな中、中心人物であるナツが抜けるのは痛手だ。さらに、そんな集団の中で、唯一【適正】と【特性】を有している俺が残れば面倒なことに巻き込まれそうな予感がする。
「ハル、一人で行くのか?」
「まぁ、流れ的にはそうなるのかな?」
「危険じゃないか?」
「いや、それを言うなら……ナツも一人で行くつもりだったんだろ?」
「そ、それは……そうだが……」
「ナツと比べたら頼りないのは自覚しているけど、そんなに遠くには行かないから、大丈夫だよ」
「し、しかし……」
「はーい!」
俺とナツが押し問答を繰り返していると、明るい声が割り込んできた。
「私もハルと一緒に行くよ!」
明るい声の主――アキが屈託のない笑みを浮かべて、同行を申し出てくる。
「……アキ?」
「……辻野さん?」
俺とナツが突然のアキの言葉に呆然としていると、
「ほら、行こ! 善は急げだよ! んじゃ、行ってきまーす!」
「え、ちょ……辻野さん……」
アキは俺の腕を絡め取ると強引に引きずり、俺と共にこの場から立ち去るのであった。
◆
「さて、どこから探すー?」
森の奥へと進みクラスメイトの姿が見えなくなった頃、アキが俺へと声を掛ける。
「っと……それより、腕外せ」
俺は強引に俺の腕を掴んでいたアキの両手を振りほどく。
「えー……あ!? ひょっとして当たってた?」
アキは俺をからかうような笑みを浮かべる。
「当たってた……? 何が……――!? ちょ、バカ、おま……!?」
俺はアキの言葉の意味――先程まで腕に感じていた柔らかな温もりを思い出し、狼狽する。
「にしし。で、どこから探すの?」
「ったく、切り替え早いな……。どこから……そうだな……アキ、木登りは得意だったよな?」
「木登りが得意っていつの話さ……」
俺の記憶にある昔のアキは猿のように元気に木を登っていた。
「いつの話って……小学生? いや、幼稚園の頃か? あ、あの頃より重くなったし身体を支えるのは――」
「バカァァァ! 超バカ! ホント、信じられない! あ、分かった! 私に木登りさせて……下からスカートの中身を……」
アキは下唇を噛むと、スカートを押さえて俺を睨みつける。
「は? 何でそんな結論になるんだよ! 俺は純粋に高い場所からの方が視界が広がって……川とか見つけやすいって思っただけだし!」
「えー……ホントかな? まぁ、どちらにせよこのタイプの木は無理かなぁ? 枝とかがもう少し下にあったらいけたかもだけど……」
「んじゃ、地味に歩いて探すか……」
「はーい」
ヒントも何もない森の中、俺とアキは当てもなく水源を探し回るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます