クラス会議④

 佐伯の鋭い視線を受けながら、俺はしどろもどろに答え始める。


「ゴブリンの捜索メンバーは【適性】から判断して、一人は佐伯君。もう一人は……俺と獅童君だと武器は慣れない短剣になってしまう。【適性】を有する者がゴブリンを倒してしまうのはマズイから……素手で調整ができそうな相澤君がいいと思うけど、どうかな?」


 俺はナツと相澤をチラチラと見ながら提案する。


「そうだな」

「いや、あくまで俺の意見だから……獅童君とかの意見も――」

「わかった。松山がそう言うのならそれでいいんだろ」


 佐伯は俺の言葉を遮り首肯すると、ナツへと視線を送る。


「俺もハルの意見に賛成だ! そうなると、俺とハルはここに残ってクラスメイトたちを守る……ってことだよな?」

「そうなるのかな」


 最後にナツが俺に確認をする。


「よし! これで大体の方向性は決まったな! 最後に【僧侶】か【聖者】を希望する者……いるなら名乗り出てくれ」


 ナツは最後に今回の作戦の肝となる者を呼びかけた。呼びかけられたクラスメイトたちは、互いの顔を見合わせて……下を向く。


「いないのか? 誰か【僧侶】か【聖女】に……回復魔法を覚えたい者はいないのか?」


 ナツは再度クラスメイト全員に呼びかける。


「……じゃ、じゃ私が――」

「……誰もいないなら私が――」


 奇しくも同じタイミングで重傷である乾君の彼女――栗山さんと、学級委員長の古瀬さんが同時に声をあげる。


「え、えっと……」


 そして、互いにどうすべきか悩み、次の言葉を失う。


「獅童、一つ確認してもいいか?」


 すると、佐伯が立ち上がりナツに声を掛ける。


「ん? 何?」

「【僧侶】と【聖者】……どっちを選んでもいいんだよな?」

「構わないが……佐伯は選べないだろ?」

「選ぶのは俺じゃない――佳奈かな


 佐伯君は見た目が派手なクラスメイト――立花たちばな佳奈かなの名前を呼ぶ。


「んあ? とーじ、なに?」

「佳奈、【聖者】にならないか?」

「へ? あーしが?」


 佐伯の唐突な提案に立花さんが唖然とする。


「そうだ」

「んー……とーじが言うなら、おけまるだょ」


 立花さんは親指と人差し指の先をくっつけて快諾する。


「獅童、それに古瀬と栗山……異論はあるか?」

「俺は別に構わないが……」


 佐伯はナツ、古瀬さんに栗山さんと視線を移し……


「松山もいいよな?」


 最後に俺へと視線を移し確認する。


「誰も異論がないなら……俺も異論はないよ」

「そうか、なら次は、ゴブリン探索に向かうメンバーだが、俺、相澤、佳奈……三人だけなのか?」


 佐伯は何故かナツではなく、俺の目を見て質問を口にする。ナツもクラスメイトたちも佐伯の視線に誘導されるかのように、俺へと視線を向ける。


「他に参加を希望するクラスメイトがいるのなら……参加してもいいと思うけど……実際に探索に向かうのは佐伯君たちだ。何人がいいと思う?」

「そうだな……多すぎると行動が制限される……しかし、少人数だと危険が増す……」


 佐伯は真剣な表情で思考する。


 佐伯とは接点があまりなく、印象としては野球部のみだった。運動部の中でもゴリゴリの体育会系だった野球部なので脳筋のイメージが強かったが……頭を使うタイプなのか?


 佐伯に抱いていたイメージが変化する。


「6人だな。さっきの生物……ゴブリンだったか? 奴の持っていた武器は全部こちらで使っていいのか?」

「残る者にも防衛の手段は欲しい。2本は俺と獅童君に残してくれないかな?」

「つまりこっちは3本か……分かった」


 俺の提案を佐伯が受け入れる。


「最後に、その6人だが……俺が選んでもいいか?」

「一緒に捜索する相澤君と立花さん、それに指名された人が受け入れるなら……いいんじゃないかな?」

「それなら、内海うつみ木下きのした村井むらい……一緒に来てくれないか?」


 佐伯は内海、木下、村井を名指しする。指名された内海と木下の共通点は同じ髪型――野球部に所属しているクラスメイトだ。村井だけは二人と異なりサッカー部。但し、相澤と仲が良いクラスメイトだった。


「お、おう」

「佐伯が言うなら、いいぜ」

「ん? 俺?」

佳祐けいすけいいじゃねーか! 一緒に行こうぜ!」

「剛が言うなら……しゃーなしだな」


 快諾する内海と木下。村井佳祐だけが渋るが、相澤の一言で快諾する。


 内海と木下を指名したのは同じ野球部だから。村井を指名したのは……相澤に気を遣ったのか?


 相澤に意思確認をしていなかったが、今の流れで参加メンバーの選定には肯定したと言える。


 佐伯は一瞬にして場の流れを支配した。


「佐伯君、一つ聞いてもいいかな?」

「何だ?」


 俺はそんな佐伯に質問を投げかける。


「何で、俺に確認したの?」


 質問を投げかけられた佐伯は静かに俺に近付いて、


「松山が納得したら、獅童も納得するから」


 俺にだけ聞こえる小さな声で、答えたのであった。

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