休憩

 クラス会議は一旦中断、15分の小休止となった。クラスメイトたちは各々仲の良い友人たちで固まり始める。


「ハル……すまない」


 ナツが申し訳なさそうな表情を浮かべ、こちらへと歩み寄ろうとするが、


「ナツ、今いるべきなのはここじゃない」

「どういうことだ?」


 俺は手を突き出してそんなナツを制止する。


「大変だとは思うが……今は味方を増やせ」

「味方……? ここにいるのは全員味方だろ」


 俺の言葉にナツは首を傾げる。


 全員が味方か……。だと、いいのだが……。


 学校と言うコミュニティは、数の暴力が全てを支配する。少数派の意見や価値観は多数派の意見や価値観に殺され……多数派の意見や価値観は数人の影響力のある者によって扇動される。


 クラスの中心人物であるナツは知らないかもしれないが……カースト下位の一般人モブである俺はその怖さをよく知っている。


 先程からもナツが俺の元に来ているのを……良く思わないクラスメイトからの視線をチクチクと感じていた。


 そんな突き刺さる嫉妬と憎悪にまみれた視線を受けると、封印したい過去の記憶が掘り起こされてしまう。俺がナツと……そして、アキとも袂を分かつことなったあのトラウマを……。


 っと、今はそんな昔のことはどうでもいい。


「ナツ、相澤たちがナツを必要としている」

「俺はハルを必要としている」

「私も! ハルを必要としているよ!」

「はは……。ありがとう。でも、今は相澤たちの元へ行ってくれ。そして、クラス会議が再開されたらこちらの意見に傾くように、説得してくれ」

「ハルがそう言うなら……。分かった」


 ナツは俺の言葉に納得し、相澤たちの方へと踵を返した。


「私も味方増やしてきたほうがいい?」


 アキが俺に尋ねる。


「んー……女子のグループはいくつかあるけど……面倒なのは古瀬さんと栗山さんだな。二人を味方に出来る自信は?」

「んー……厳しいかな」

「なら、好きにすればいいさ」


 アキは特定のグループに属さず、誰隔てなく仲良くしていたタイプだ。全体的な影響力はあるが、ピンポイントの影響力には欠けている。


「そっか……なら、ここにいるよ」

「好きにすればいい」

「にしし……嬉しい癖に!」

「何でだよ……」


 俺はアキの屈託のない笑顔を見て、張り詰めていた緊張感が少し緩む。


「ね! ね! 回復魔法の件だけど……私は立候補したほうがいいかな?」

「ん? アキは回復魔法を覚えたいのか?」

「全然! よく分からないし!」


 アキはなぜか自信満々に答える。


「なら、立候補しなくてもいいんじゃね?」

「でも、ハルは私が回復魔法使えるようになったら嬉しい?」

「んー……どうだろうな? アキはアタッカータイプだからな……」

「アタッカータイプって?」

「敵をぶん殴る役割」

「――な!? ハルは私をどう思っているのかな?」


 俺の率直な感想にアキは大袈裟に驚く。


「どうって……運動部のエース様ならアタッカーだろ? 後、性格的にも……」

「ん? 最後の言葉の意味がよくわからないかな?」

「え? 説明が必要?」

「うん! じっくりと話し合う必要があるね!」

「15分じゃ足りないから……また今度な」


 俺は適当な言葉でアキをあしらった。


「むぅ……そうだ! ハルは何で【魔法剣士】と【鑑定の才】を選んだの?」


 アキがいきなり話題を変えきた。


 【魔法剣士】と【鑑定の才】を選んだ理由か……。


 あるにはあるが……口に出してもいいのか?


 あの短い時間では熟考して選択することは出来なかった。故に、【適性】に関しては、いくつかの分類に仕分け、その分類から消去法を用いて選択した。


 俺が分類した項目は――役割。


 ①アタッカー②ヒーラー③タンク④補助⑤生産職の5種に分類した。


 次に考えたのは、今後予測される未来。


 1.クラスメイト全員で集団行動

 2.クラスメイトがバラバラになり行動


 ②ヒーラーと③タンクと④補助は集団での行動が基本となる。


 1の未来の場合

 ②③④は重宝されるが、自由が奪われる。②ヒーラーなどは強制的な戦闘の参加が余儀なくされるだろう。③のタンクは殴られるのが役割なので、論外だ。④の補助はバッファーで指揮官にでもなれたら話は別だが、モブの俺にその未来は見えない。


 よって、②③④は却下。


 逆に⑤の生産職は重宝され安全も保証されるが……戦闘要員の方が強い発言力をもった場合は、生産職が弱者的立場になる可能性もある。


 更に、2の未来の場合

 【適性】を選択する段階で、この世界にはゴブリン――危険生物がいることは知っていた。そうなると、この世界でバラバラになった時、生産職は生きていけるのか? 最後に頼れるのは自分だけだ。危険な世界である以上、防衛能力は必須だ。


 よって、⑤は却下。


 結果として①アタッカーが残った。


 これから先、クラスメイトたちは何を選択するのかは不明だが……どうせアタッカーが溢れる。目立たなければ、危険な戦いに駆り出されることもないだろう。


 後は、ソロでもある程度戦えるアタッカーの【適性】を選択するだけであったが、熟考する時間が足りなかった。目の付いた中からソロでも、集団でも活躍出来そうな【適性】が【魔法剣士】だった。


 【鑑定の才】を選択した理由はもっと単純だ。【適性】は戦闘職から選んだので、【特性】は非戦闘系から選びたかった。


 理由は、非戦闘系の【特性】であれば、1の未来の場合は戦闘に出なくても済むかも知れない。2の未来の場合にはこの世界で職にありつけるかも知れない。


 提示された多くの【特性】と【適性】は紐付いているように感じた。 例えば、【鍛冶職人】と【鍛冶の才】。ならば、紐付いていない【特性】の中から他の生産職と相乗効果が高そうな【特性】はどれか? と、考えた結果が【鑑定の才】だった。


 と言うのが、選択理由となるが……我ながら凄く自己中心的な理由だ。


「んー……何となく? ビビッと来た! みたいな?」


 だから、俺は適当な言い訳で誤魔化すのであった。

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