クラス会議①

「これよりクラス会議を始めます」


 ナツを中心に円を作り、クラス会議が始まった。


「突然、知らない森の中に居て、意味不明の生物に襲われて、誰もが混乱していると思う。俺も訳が分からないし、混乱している。でも、このまま嘆いていても何も変わらない。だから、みんなの力を合わせよう! 一人じゃ無理なこともみんなの力を合わせれば……問題は解決出来る!」


 静寂に包まれた森の中、ナツの訴えかける真摯な言葉が響き渡る。


「まずは、俺たちの置かれた状況を整理したい。ここから先は俺の推測になるが……みんなに聞いて欲しい」


 いい感じにナツの言葉に全員が耳を傾けている。『俺の推測』の場面でこちらをチラリと見たのはよろしくないが、それ以外は完璧だ。


「まずは、誰もが抱いている疑問――ここはどこなのか? 俺の推測となるが、ここは異世界だ」

「異世界……?」

「え? 本当に異世界なの……」

「異世界って何……?」

「うむ……獅童殿も某と馬渕殿と同じ答えに辿り着いたでござるか」


 ナツの口から出た、異世界と言う非現実的な言葉に周囲のクラスメイトがざわつく。


「突然、異世界と言われても動揺するよな? 俺も適当に言っている訳ではない。推測に足る証拠もある」

「はい! 証拠って先程の化け物ですか?」


 ナツの言葉を受けて、学級委員長の古瀬さんが手を挙げて質問する。


「先程の化け物も証拠の一つだ。でも、世界は広い。俺たちの知らない生物もいるかもしれない。だから、俺はより明確な証拠をみんなに示す――《ライト》!」


 ナツの右の手のひらから、周囲を照らす眩い光球が顕現する。


「え?」

「何あれ?」

「……魔法?」

「ムムッ……あの光は!? 獅童殿は光の勇者でござるか」

「手品……じゃないよね?」


 クラスメイトたちはあり得ない現象――魔法を目にして驚愕する。


「これは《ライト》と言う――魔法だ。信じられないかもしれないがタネも仕掛けもない、正真正銘の魔法だ。魔法の存在する世界――それこそが異世界の証拠にならないか?」

「え、えっと……何で獅童君は魔法が使えるのですか? ここが異世界なら、私も……みんなも使えるのでしょうか?」


 古瀬さんが動揺しながらもナツに質問する。


「古瀬さん、当然の質問だ。何で俺が魔法を使えるようになったのか? 答えは――ゴブリンを倒したからだ」

「え?」

「は?」

「なるほど……レベルアップでござるな」

「どういうこと?」


 突拍子もなく聞こえるナツの答えにクラスメイトは騒然とする。


「ゴブリンを倒したら、俺は謎の空間に呼び出された。そして、特別な力――【適性】と【特性】を授かった」

「どういことなの……?」

「【適性】と【特性】……?」

「きましたな!……女神はここで登場でござるか」


 先程は同じ経験をした俺とハルの話し合いだったから話がスムーズに進んだが、事情を知らない者からすれば混乱するのは当然なのかもしれない。


「【適性】と【特性】……この二つについては、後でみんなとじっくり話し合う予定だ。でも、その前に――俺と同じように【適性】と【特性】を授かった者がいるよな? こちらから名指しすることも出来るが……出来れば、自ら名乗り出て欲しい」


 ナツは明確に俺、相澤、佐伯に視線を向けた後……周囲のクラスメイトたちに問いかけた。


「夏彦、俺も【適性】を手に入れたぜ!」


 最初に相澤が手を挙げて、その場で立ち上がった。


「獅童君、俺も【適性】と【特性】を授かった」


 次いで、俺が手を挙げて、立ち上がる。知ってはいたが、俺に注目するクラスメイトたちの視線が心地悪い。


「剛、ハル。ありがとう。他にはいないかな?」


 ナツは俺と相澤に謝辞を述べると、佐伯へと視線を移す。


「……俺だ。俺も【適性】と【特性】を手に入れた」


 ナツの視線に押し負けたように、佐伯がその場で立ち上がった。


「佐伯、ありがとう。次に三人が選択した【適性】と【特性】を教えてくれないか? 俺が選択した【適性】は【聖騎士】、【特性】は【光の才】だ」


 ナツが視線を佐伯に定めたまま話をしたせいか、佐伯から答え始めた。


「選んだ【適性】は【竜騎士】、【特性】は【力の才】だ。正直、時間が無かったから……適当に目に付いたのを選んだよ」


 佐伯は選んだ【適性】と【特性】に満足していないのか、不満そうに答えた。


「俺が選択した【適性】は【魔法剣士】、【特性】は【鑑定の才】だ」


 次いで俺が答える。選択した理由はあるが、批判されそうなので、この場で答えるつもりはない。


 ナツが最初に答え、佐伯と俺が答えたので残ったのは相澤のみだ。


 クラスメイト全員が、相澤へと視線を集める。


 相澤の【適性】は恐らく――【勇者】。


 ラノベやゲームに詳しくないものでも、聞いたことがある職業だろう。


 相澤本人の口から【勇者】の答えが出たとき、クラス内のパワーバランスに変化は生じるのか? 俺は不安を抱きながら相澤に注目する。


「俺の選んだ【適性】は――【魔闘士】だ」


 ――!?


 相澤の口から出た答えは俺の予想を大きく裏切ったのであった。

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