推測と考察
「ナツ、いくつか質問してもいいか?」
「どうした? 何でも聞いてくれ」
俺は自分の推測が正しいのか知るために、ナツと情報の擦り合わせから始めることにした。
「まずはゴブリンを何匹倒した?」
「2匹」
「あの空間に呼ばれたタイミングは?」
「最初のゴブリンを倒した直後だったかな」
推測其の一。
あの空間に呼ばれた者――覚醒者とはゴブリンを倒した者。
これは合っているな。
「【適性】と【特性】は何を選択した?」
「【聖騎士】と【光の才】」
――!
これは貴重な情報だ。
選択出来なかった【適性】は――【勇者】と【聖騎士】。選択出来なかった【特性は】――【成長の才】と【光の才】だった。
推測其の二。
選択出来なかった【適性】と【特性】は先に取得した者が存在したから。そして、その者はクラスメイトの中にいる。
この推測も合っていることになる。
「他にゴブリンを倒したクラスメイトは誰か知ってるか?」
「俺とハル以外だと……剛かな」
「他には?」
「うーん……ごめん。ゴブリンは5匹いたから、もう1人いるはずだが、誰かは知らない」
俺の質問にナツは困った表情を浮かべた。
ナツから聞きたい情報はこんなもんだな
「ねえ! ねえ! 【適性】とか【特性】とか、よく分からないけど……ハルは何を選んだの?」
頭の中で情報を組み立てていると、アキが声を掛けてきた。
「俺が選んだのは【魔法剣士】と【鑑定の才】だな」
「【魔法剣士】と【鑑定の才】……? んー、よく分からないけど……じゃあ、あのハルが剣を燃やしたのは魔法なの?」
「《エンチャントファイア》って言う魔法だな」
「へぇ! へぇ!」
俺の答えたを聞いたアキが嬉しそうに興奮する。
「あ!? そうだ! ゴブリンを倒したのが誰か知ってるよ」
「誰だ?」
「
ってことは……相澤か佐伯が【勇者】なのか? いや、待てよ……。
「アキ、俺がゴブリンを倒すのと佐伯がゴブリンを倒すのはどっちが先だった?」
「んー、ハルかな? ハルが私を助けてくれて……私が驚いている時に佐伯君がゴブリンの頭に石を落としてたから」
佐伯は俺より後にゴブリンを倒した。つまり、俺の方が先に【適性】と【特性】を選択出来た。
え……マジかよ……。
【勇者】は相澤かよ……。
イメージ的にも【勇者】はナツだろ……。
「ハル、他に聞きたいことは?」
思考を繰り返す俺にナツが声を掛けてきた。
「とりあえずは大丈夫だ」
「それで……どうするの?」
「どうするか……そうだな……まずは俺の立てた推測から話してもいいか?」
「頼む」
「うん!」
俺の言葉にナツとアキが首肯する。
「推測其の一。ここは異世界。そして、クラスメイトの全員が異世界に転移した」
何を馬鹿な? と思うかも知れないが……魔法が発現した以上、ここは異世界と考えるのが健全だろう。
「推測其の二。ゴブリンを倒した者は、あの謎の空間に呼び出され【適性】と【特性】を授けられる」
あの空間に呼び出された俺とナツの共通点。そして呼び出されたタイミングから考えても、この推測は当たっていると思う。
「ここから先は2人にも一緒に考えて欲しいが……この世界にゴブリンは、今倒した5匹以外にも生息していると思うか?」
「ゴブリンってさっきの化物だよな?」
「そうだ」
「いると思う」
「私も……もう見たくもないけど、いると思うな」
俺の質問に2人が答える。
「俺も生息していると思う。そこで、問題となるのが……今後もゴブリンを倒した者はあの空間に呼ばれるのか?」
「呼ばれないのか?」
「呼ばれるとは思うが……確証がない」
【適性】と【特性】は早いもの勝ちで、100種類以上用意されていた。これらの要素から考えれば、ゴブリンを倒した者はあの空間に呼び出され、【適性】、【特性】を選択出来るだろう。
一方、ラノベのよくある展開に当て嵌めれば……あの声の主は女神。そして、女神が転移者に能力を与える展開はテンプレとも言えるが……転移後に時間が経過してから能力を与えられると言う展開はあまり見たことがない。
何となくだが、その点が引っかかる。
「まぁ、検証は必須として……今後の予定だが、ナツとアキはどうしたい?」
「俺はみんなと無事に家に帰りたい」
「私も獅童君と同じかなぁ」
「“無事に”帰りたいか……。帰りたいに関してはノーヒントだから、これから探るとして……まずは“無事に”を達成出来るように行動するか」
俺は一つの行動指針を示した。
「確かに……死んだら元も子もないからな」
「それで、どうするの?」
アキが具体的な行動を尋ねてくる。
「クラスメイト全員で話し合い」
「勿体ぶった割には、普通だね」
「俺自身が普通の一般人だからな」
俺の答えを聞いたナツが笑い、俺はそんなアキの反応に肩をすくめる。
「それじゃ……俺はクラスメイトを集めてくる!」
「ナツ、待て!」
善は急げとばかりに駆け出すナツを制止する。
「ん? どうした?」
「話し合いの場を仕切るのは、ナツに任せるからな」
「――? ハルが話さないのか?」
ナツは不思議そうに首を傾げる。
「俺が仕切るよりも、ナツが仕切るべきだ」
「そうなのか?」
「そうなの」
クラス内の影響力を考えたら、ナツが仕切るのは当然の措置と言えた。俺が仕切ったら相澤のような脳筋が……文句を言い出すのは目に見えている。
「ハルが言うなら別にいいが……何を話せばいい?」
「それは、今からメモに書いて渡す」
「そこまでするならハルが仕切った方が……」
「ナツが仕切るべきだ」
「……わかった」
俺は不承不承ならが引き受けたナツの為にメモを作成するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます