巻き込まれる予感
「獅童く……ナ、ナツか……何だ?」
俺は獅童君と呼ぼうとしたが、ナツの目が細まったので、慌ててナツと呼び直す。
「……少し向こうで話せないか?」
ナツは俺の隣に立つアキの存在を気にしているようだ。
「ん? 獅童君は私が邪魔なのかな?」
「い、いや……そういう訳ではないが……ただ男同士の話と言うか……」
「獅童君とハルで男同士の話ねぇ……。昔は私と獅童君、そしてハルの3人であんなにも仲良く遊んでいたなのになぁ……」
「い、いや……別に辻野さんが邪魔とかじゃなくて、ハルと2人だけの話が……」
詰め寄るアキにナツはタジタジとなる。
俺と辻野秋絵と獅童夏彦――3人は幼馴染だ。昔はこの3人でよく遊んでいた。
ん? 昔はナツも辻野のことをアキちゃんと呼んで、アキもナツのことはナツくんと呼んでいた。しかし、今は獅童君と辻野さん……。アレ? 俺が同じように呼んだら二人は怒るのに? 理不尽じゃね?
まぁ、昔のような関係に戻るのなら……パワーバランスはアキへと傾く。頑固モードに突入したアキを説得するのは容易じゃない。
「ナツ……こうなったら無理だ。辻野さん……ア、アキも一緒でいいんじゃないか?」
アキは名字で呼ぶと目を細め、昔の愛称で呼ぶとようやく笑顔を見せた。
「……ハルがそう言うのであれば」
俺の提案をナツが渋々と受け入れる。
「それで……話って何だ?」
「ハルもあの声を聞いたのか?」
「あの声?」
「言い方を変えるよ。あの空間に行ったのか?」
ナツの言うあの空間とは、【適性】と【特性】を授けられた“理の外”ことだろう。
俺は答えに悩んだ。
――言うべきか? 隠すべきか?
恐らく“理の外”に呼ばれたのは、目の前のナツと俺を含めて4人。
この後の展開を考えたら……その4人の中に入っていると知られれば、確実に面倒に巻き込まれる。
とは言え……隠し通すことは可能だろうか?
チート能力を得た俺は異世界で好き勝手に無双します……何てラノベみたいな展開のようにクラスメイトたちから離脱する予定はない。
そもそも【魔法剣士】と【鑑定】がチート能力なのかも不明だからな。
一緒に行動するとなると、隠し通すのは厳しいか?
「ハル?」
無言で考え事に没頭した俺にアキが声を掛けてくる。
「――! すまん。考え事をしていた」
「本当に大丈夫? さっきも様子がおかしかったし……」
「大丈夫だ」
「それより、獅童君の言ってる『あの声』とか、『あの空間』って何? ハルには通じてるの?」
「ん? あぁ……通じてるよ」
俺はアキの問いかけに答えた。
「ってことは、やはり……」
アキへの俺の答えを聞いたナツが声を漏らす。
アキへの答え『通じてるよ』は、言い換えれば――知っている。それは、暗にナツの質問に対しての答えも示していた。
「ナツ、何でわかったんだ?」
「さっき短剣を燃やしていただろ?」
なるほど。幻覚か現実か確認する為の先程の行為を、見られていたのか……。
あの時は混乱していたとはいえ、迂闊だった。
「え? どういうこと? 私にも分かるように説明してよ!」
一人状況を理解出来ていないアキが俺に詰め寄る。
「えっと……何て説明すればいいんだ? さっき、ゴブリンを倒しただろ?」
「ゴブリン……? ってあの変な奴?」
「そそ……アレ」
俺は地に横たわるゴブリンの亡骸を指差す。
「ゴブリンを倒したら知らない声が頭に響いて……訳の分からない空間に呼び出されて……不思議な能力をもらった。で、合ってるよな?」
「合ってる。大雑把だけど、俺が経験した出来事と同じだ」
確認を促されたナツが肯定する。
「え? どういうこと? よくわかんないよ!? 不思議な能力って……ハルが剣を燃やしたり、獅童君が剣を光らせたりしたアレ?」
「厳密には違うが……そうなるな」
混乱するアキの言葉に首肯する。
「ハル……これからどうする?」
「へ? 何で、俺に聞くの?」
何故、目の前の完璧超人は俺に聞くのだろうか? これから何をするにしても、発言力も影響力もあるのは……俺みたいな人間じゃなく、ナツのような人間だろう。
「昔からこういう状況で頼りになるのは……ハルだったから、かな」
「俺が頼りに……? 誰かと間違えていないか?」
「間違えてないよ! 私たちが困ったときに助けてくれたのはいつもハルだったじゃん!」
ナツの言葉をアキが援護射撃する。
困ったときに助けた……? いつの頃の話だ……? 思えば、アキはいつも俺を過大評価していた。
この場を誤魔化して逃げるのは簡単だが……俺が【適性】と【特性】を授かったことは、2人に知られてしまった。
今後、どのような展開になるのかは分からないが……アキとナツがクラスの中心人物である以上、面倒ごとに巻き込まれるのは確実だろう。
……目の前の問題に向き合うか。
異常な事態に巻き込まれた俺は、面倒ごとからも逃げられぬと悟り、覚悟を決めたのであった。
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