第87話 再会の従者(33)
僕が提案した作戦は皆に了承され、決まればすぐに動き出せた。僕とアナイさんを担いだアルシファードさんが、海側の街へと跳躍する。身体強化で極限に高めた脚力は街の建物のさらに上を飛び越えて港へ向かう。ヒルグラムさんとブラックサンライズの人たちも港へ向かっているが、準備がある分こちらが先に着かねばならない。
「っと、到着。酔ってない?」
「は、はい、なんとか……!」
港の一角に着地……とはいかないので、アルシファードさんは目的地に正確に着地した。ドン、と派手に音を立て着地した先は船の上だった。
「さて、あっちが到着するまでまだかかるわ。アナイ、準備お願い」
アルシファードさんが僕とアナイさんを下ろしたのは、ブラックサンライズの甲板の上だった。広い甲板からは街の景色が一望できて、今というときでなければその眺めに目を奪われていただろう。
「はい、わかりました……!」
アナイさんが返事をしながら艦尾の方へ向かう。僕もその手伝いに続いた。アナイさんが取り出した魔術陣の書かれた紙を船の後ろ、黒い艤装に覆われた船体に貼り付けていく。その間にアルシファードさんは甲板の中央にある柱から見張り台に登り、王城の様子を望遠で確認する。
「今のところ王城に変化はなし……!とはいえ遠景じゃ中の様子はわからないから、外観上では異状なしってだけだけれどーー」
アルシファードさんの言葉を聞きながら作業を続ける。船体に貼り付けた紙は十枚ほど。これの役割は理解しているが効果のほどはわからない。効果に関しては作ったアナイさんしか正確には把握していないが、要求したのは僕だ。効果のほどは彼女の言葉を信じるしかない。
貼り付け作業が終わる頃、船にいくつもの足音と共にブラックサンライズの乗組員たちが乗り込んでくる。その見た目は先程と違って、一緒に乗り込んできたヒルグラムさんと同様の鎧姿をしていた。胸には小屋で作っていたチェーンメイルを着込んで、手足にも鎧を身に着けている。見た目には王都の兵士とそう変わりはない。
「待たせたな!城はどうだ?」
ガンドルマイファさんも、着慣れない鎧に動きづらそうにしながら声を上げる。アルシファードさんが答えるより先に、周囲の空気を震わせて地鳴りが響いた。
「こりゃあ……!」
「せ、船長!あれ!」
音の正体に気づいたのは、甲板で周囲を警戒していたジョンベータさんだった。スキンヘッドの頭に冷や汗を浮かべて彼が指差した先は、王城だった。僕らの視線が王城へと集まり、その異様に言葉を失う。
白亜の壁で守られた城に立つ三つの塔。玉座の間が存在する中央の塔を挟み込むように立つ二つの塔が、地鳴りとともに中央の塔へ引き寄せられていた。
「ちっ……!やっぱりもう城に着かれてるわね……!城に行くわよ!全員掴まってなさい!」
その光景にすぐ対応したのはアルシファードさんだった。大声を張り上げる彼女の言葉に僕たちも慌てて船のあちこちにしがみつく。
「敷設魔術陣群、起動します!」
アナイさんの声と同時、船体に貼り付けた魔術陣が起動する。
起動した魔術陣からは、轟々と音を鳴らして炎が吹き出す。吹き出した炎は船体を海から押出し、港へ打ち上げる。激しい揺れが船を襲い、振り落とされまいと必死に僕らはしがみつく。
「うまく、いってよ……!」
呻くように、祈るように、呟く。陸に打ち上げられた船はガリガリと地面を削り、のみならず勢いを殺さぬまま走り始める。そのまま、ブラックサンライズは港から続く坂道、王城へ続く一本道を船体を削りながら一気に登っていく。
これが、僕の考えた移動法だった。船体を魔術で押し込み移動する。昔先生が話していた乗り物の一つにこんな方法のものがあったのを思い出したのだ。
坂道をあっという間に登りきったブラックサンライズは、轟音とともに王城の門扉へ激突し破壊する。
「全員生きてるな!?おらいくぞ!」
魔術陣が止まりブラックサンライズが動きを止める。同時にガンドルマイファさんの号令が響き、それに答えて乗組員たちが立ち上がり次々に船外へ駆けてゆく。
「俺達も行くぞ、ラング」
ヒルグラムさんの声で、僕自身が手すりに掴まったままだったのに気づく。慌てて立ち上がって頷いた。
(いよいよ、だ……)
一度深呼吸をして駆け出す。この先には間違いなく先生が居る。入念な準備なんか出来ていない。けど、伝えたい言葉は確かにある。今はそれをぶつけることに集中することにした。
決戦が、始まる。
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