第86話 再会の従者(32)

 王城へ向かおうとするアルシファードさんを、ガンドルマイファさんが慌てて止めに入る。


「待て待て!王城に行くったってお前、そのまま行けるわけ無いだろう!罪人扱いになってるのを忘れたのか!」


「うっさい!そんな事言ってる場合じゃないのよ!」


 ガンドルマイファさんが掴んだ腕を振り払って、アルシファードさんは王城へ向かおうとする。腕を掴まれたままの僕も伴って、引きずられていく。


「ま、待ってくださいアルシファードさん!落ち着いて、説明してください!一体なんで僕の契約書の力は切れてーー」


 ガンドルマイファさんの言うとおり、さすがにこのまま王城に行くのはまずい。罪人扱いの僕たちは脱走したものとして捕まるだろう。レコンキングス王も堂々と僕らを受け入れるわけにはいかない。今のままでは話を聞いてもらえない。


「……さっき言った通りよ。マコト先生が王都に着いてる」


 周囲から止められても止まる気配のなかったアルシファードさんの周りを、ブラックサンライズの面々が囲う。アルシファードさんは一旦深呼吸をしてから僕に向き直った。


「着いてるって、どうしてわかる」


 後ろから追いついてきたヒルグラムさんの質問に僕も頷く。


「ラング、あなたの持ってた契約書の効果は契約終了までは有効なものよね。そして契約終了の条件は期間によるものじゃない」


「あ……!」


 そうだ。契約の終了条件は、目的地への到達。そして先生との契約での目的地は王都だ。僕の表情にアルシファードさんは苦い顔をする。


「やっぱり、目的地は王都なのね……最悪、もう王城に居るかもしれない」


「成る程……そんなら王城に行くのがそもそも危険だな。もうやられちまってるかもしれねえ」


 ガンドルマイファさんがそう呟くとアナイさんも同意する。


「そう、ですね……もしそうなら動かないほうが……」


「だが行ってみないとわからんぜ、もしまだ間に合うんなら行くべきだぜ」


 互いの意見の食い違いに、全員足が止まる。静寂が焦りを生み思考が絡まる。冷静でいようとする思考を焦りがかき乱す。


「……王様を助けましょう。僕たちだけで戦うことになるより、王様が一緒のほうが絶対いいですから」


「もう殺されていて、王城にいったら俺たちも殺されるかもしれんぞ」


 ガンドルマイファさんの意見にブラックサンライズの人たちやアナイさんも頷く。


「……そうだったとしても受け身になるよりいいです。いま王城に行けば先生に先手をとれるかもしれません」


 肺に貯めた空気を押し出すように答えて、皆を見る。ここまで僕は結局迷っていた。先生と戦う事そのものを。でももうその時間はない。迷うことも逃げることも出来ない。それなら、腹を決めて動くしかないんだ。伝えたいことを伝えるには、会わなきゃ始まらないんだから。


「……ほう。で、どうやって王城に行こうって?走っていったって人に見つかりゃ終わりだ。かといってコソコソ隠れていったら間に合わねえ」


 ガンドルマイファさんはどこか楽しげに僕へ問いかける。確かにそこが問題だった。例えばアルシファードさんの魔術で前みたいに飛んでいくこともできるが、全員運ぶことは出来ないだろうし……。


「王城にいくなら全員揃ってでないと危険ですし……なにか、移動手段があれば……」


 つぶやき、考えて。一瞬俯いた顔をぱっと上げる。視線の先では唇を噛んだアルシファードさんの姿がある。


「アルシファードさんが手伝ってくれれば、思いついた方法があります……!」


 僕の言葉にアルシファードさんはキョトンとして、すぐ切り替えて頷いてくれる。


「いいわ。あなたの考えきかせて頂戴」


「おう、俺達も手伝うぜ。言ってみな坊主」


 二人の返事に頷きながら、僕を見る瞳がよく似ていると、つい笑った。


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