第81話 再会の従者(27)

 食後も作業は淡々と、しかし確実に進んだ。ジョンベータさんをはじめブラックサンライズの乗組員たちが作ってくれた料理はどれも絶品で、僕らのやる気を大いに湧き立たせた。日の暮れる頃にはチェーンメイルは二十着近く出来上がり、ガンドルマイファさんたちは寝床がないからと船に戻った(昨晩は寝ないでアルシファードさんを待っていたらしい)。

 ガンドルマイファさんたちが帰ってから、僕たちも工房に下りて寝支度を始めた。


「ところでアルシファードさん、アナイさんと王城で何を話してきたんですか?」


 僕の質問にアナイさんがビクッと肩を跳ねさせた。アルシファードさんは何食わぬ顔で答える。


「派遣する騎士団に装備を支給してもらうよう話をつけてきたのよ。あとはアナイとちょっと、ね?」


 そう言ってアルシファードさんはどこか楽しそうにアナイさんを見る。アナイさんも何やら俯いてもじもじしている。


(なんだか大事な話をしてたんだろうけど……聞かないほうが良さそうな)


 なんというか、雰囲気というか。マウリアの商店街でたまに見かけた、おばちゃん同士の話の時に出ている独特な雰囲気ににたものを感じた。つまり、女同士の話、というやつなのだろう。


「で、王には話ついたんだろ?騎士団の出発はいつだ?」


「明後日。今のペースで作れれば十分間に合うわ。私とアナイは明日から魔術探知機の調整に集中するから。貴方達には今の作業を終わらせたら別の仕事をお願いするから」


 アルシファードさんはそう言うとさっさと寝室へと引き上げていった。残された僕とヒルグラムさん、そしてアナイさんもそれぞれ割り当てられた部屋に引っ込む。


(なんだか、思ったより順調、だな……)


 ベッドに横になりながら思う。最初に王都に着いたときには先のことなんて何も見えなかったけど、今は違う。アルシファードさん、ヒルグラムさん、アナイさん、ブラックサンライズの人たちにレコンキングス王。協力してくれる人たちがたくさんできた。こうして人同士が手を取合えば、できることも見えてくる。きっと、先生を止める手段も見つかる。


(先生を、止める……)


 そこで、眠りかけた思考に冷水をかけられたように意識が覚醒した。


「止める、って話をしてるのは……僕だけ……」


 そうだ。先生が攻めてきた時それを止めたい、殺したりなんかしたくないのは僕の希望だ。でもアルシファードさんやヒルグラムさんはどうだろう?まだ何も聞いてない。当たり前に最初に確認すべきことを僕は触れてない。目の前に現れた希望にすがりついて、都合のいいように解釈してしまっていたかもしれない。

 それに気づいたらいても立っても居られず体を起こした。


(もう、ねてるかな……)


 部屋を抜け出して隣のヒルグラムさんの部屋へと足を運んだが、明かりは消えている。それでも、と扉に手をかけようとして、扉が僅かに開いていることに気づいた。


(閉め忘れ、かな……?)


 扉の隙間から僅かに見える室内を覗いた瞬間、息が止まりそうになった。

 目に飛び込んできた光景は、ヒルグラムさんへ短刀を突き立てようとするアナイさんの姿だった。

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