第77話 再会の従者(23)
夜の暗闇にまぎれて聞こえる足音を聞きながら、僕は一度息を吸い込むと小屋の扉を勢いよく開ける。瞬間、真横から振り下ろされた棍棒が頭を打ち付けーー折れた。棍棒を振り下ろしてきた男は何が起きたかわからないという顔で僕を見下ろす。
「なにやってんだ!囲め囲め!」
大声が聞こえる。僕の周りを何人もの屈強な男たちが取り囲む。その顔には見覚えがあった。
「やっぱり、ブラックサンライズの人たちでしたか……」
少しズキズキ痛む後頭部を気にしながら男たちを見回す。僕の横で棍棒を投げ捨て僕を睨んできたのはスキンヘッドの男、ジョンベータだった。腰から刃渡りの短いナイフを取り出し叫ぶ。
「顔を見られちゃ尚更このままにしちゃおけねえ、大人しく降参しな……!」
「一体何の用ですか?報復ですか?」
刃物を一瞥しながら落ち着いて聞き返す。恐れを見せないこちらの態度にジョンベータは焦りを浮かべながらナイフを突き出す。
「ちげえ!お前たちと一緒に船長の娘さんがここに入れられたって聞いた、俺らはあの人を連れ戻しにーー」
「あら、やっぱり私狙いなのね」
そうジョンベータが話した矢先、聞こえてきた声に全員の視線が集まる。真っ暗な小屋の中から聞こえた声はアルシファードさんだ。
「や、やっぱり本当だったのか!アルシーー」
「フラ・アング・シェイド!」
言葉が終わるより先に、アナイさんの詠唱が響く。瞬間、周囲を真っ白に染める眩い閃光が視界を焼く。顔を伏せていた僕ですら一瞬まぶたの裏が真っ白に見えるほどのそれを直視した海賊たちはひとたまりもない。
「っらあ!」
次いで聞こえる雄叫びと、いくつもの打撃音。光が収まる頃には、小屋の周りを囲んでいた海賊はヒルグラムさんとアルシファードさんによって全員昏倒させられていた。
「っし、おわり!作戦どおりだったな!」
「あっけないわね、戦力にするには弱すぎるわ」
身体強化でわずかに光を帯びた両手を振るいながらヒルグラムさんが笑う。肩をすくめるアルシファードさんも両手足に魔力の光を帯びたままだ。二人の様子にふう、と僕もため息を着く。
地下の工房で外からの足音に気づいた僕らは、すぐにブラックサンライズの海賊たちの襲撃の可能性に思い至った。王によって下された判決に不満を覚えてのことだろう、と。そこで工房を発見されないためにも撃退しておくべきだといって作戦を立てたのは、意外にもアナイさんだった。彼女の立てた作戦どおり、僕が囮になりアナイさんが小屋の中から魔術で視界を封じた。その間に魔術で身体強化したアルシファードさんとヒルグラムさんが無力化する。立てられた作戦どおり、海賊を見事無力化出来たのだった。
「きゃあ!」
と、背後から聞こえた叫び声に全員が振り向く。みれば、小屋の中にいたアナイさんが、後ろから首に腕を回され捕まえられている。
「惜しいな……索敵がちっとおろそかだ。そんなんだとこうやって、不意打ちされちまうぜ」
言いながらアナイさんを盾にして出てきた男を睨みながら呟く。
「ガンドルマイファさん……」
アナイさんのこめかみに銃を突きつけたガンドルマイファさんはにんまり口角を上げる。
「おいおい、ここまでされてもさん付けか、ラング。お前はお人好しだな?」
「……その子を離しなさい。用があるのは私なんでしょう」
アルシファードさんの言葉に向き直ったガンドルマイファさんは、目を細める。
「ああ、確かにお前に用がある。だがコイツらにも借りは返さなくちゃならん」
カチリ、と銃が鳴る。僕もアルシファードさんも身動き出来ない緊張感のなか、妙にリラックスした声が響いた。
「ああー、海賊のおっさん。やめとけ、離れたほうがいいぜ?」
「あん……?てめえ何をーー」
「ヒ、ヒルグラムさん……!?」
声を発したヒルグラムさんは腕を組んだままガンドルマイファさんを見下ろす。まるで捕まってるアナイさんのことが見えてないみたいだ。
「は、はっ……ーー」
わずかに聞こえてきたアナイさんの声は震えている。はやく助けないとーー。
「離してくださーーーーい!!」
考えていた刹那。周囲に響き渡る声と同時に、アナイさんを捕らえていたガンドルマイファさんが真後ろに吹き飛んだ。小屋の壁に叩き付けられたガンドルマイファさんはがくりと頭を垂れて気を失う。
「え……ええと……?」
ガンドルマイファさんを肘鉄の一撃で吹き飛ばしたアナイさんは荒く息をついて涙を浮かべていた。
「な。アナイは怖がりだからな、夜は護身のために強化魔術かけっぱなしなんだよ」
そう言って笑ったヒルグラムさんも、直後にタックルしてきたアナイさんに吹き飛ばされていた。
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