第78話 再会の従者(24)

 ドサッと乱雑に小屋の床に転がされたガンドルマイファさんが、担ぎ上げてきたヒルグラムさんを睨む。


「さてと。とりあえずどうしてくれようかしら」


 海賊一味をロープで縛り上げて小屋に運びこむと、その前にアルシファードさんが仁王立ちして海賊たちを見下ろす。なんだか見た目としてはこちらが悪者みたいに思えてくる。


「っと、全員揃ったが、アルシファード。こいつらどうすんだ?」


「てめえ、気安く俺の娘を呼び捨てにすんじゃねえ!」


 ヒルグラムさんに反応して噛み付くガンドルマイファさんに、冷たい視線が突き刺さる。


「あんたこそ、軽々しく娘とか呼ばないで?私を王都に売り飛ばして海賊になった痴れ者が」


 空気が冷え込んだような錯覚すら覚えるその声に、全員が黙り込む。


「で、こいつらだけど。王の決定ではあくまで被害者ってことで話をまとめられたみたいだから私達と違って自由に王都を移動できる。労働力としてせいぜい働いてもらうわ」


 アルシファードさんの言葉にいい返そうとしたガンドルマイファさんの顔に、彼の持っていた銃を突きつけながらアルシファードさんは続ける。


「ま、まて、俺はお前たちの状況を知らねえ。何か事情があるなら教えてくれ、手伝えるなら手伝うからよ!」


「は?何を今更ーー」


 そう言って再び見下ろして銃を押し付けるアルシファードさんの間に、割って入った。


「待ってください、アルシファードさん!確かにこの人たちは僕を襲ったり色々やってまあすけど、事情を知れば協力してくれるかもしれません!脅して動いてもらうのは、だめですよ……」


 言外に続く言葉を感じ取って顔をしかめるアルシファードさんはしかし、一度ガンドルマイファさんを睨みつけてから銃をしまった。


「好きにしなさい、私は説明しないから」


 そう言い残してアルシファードさんは小屋を出ていった。ヒルグラムさんがそれを見ながら「意外と子供っぽいんだな」なんてつぶやいていたがともかく。僕はガンドルマイファさんたちにも現状を説明することにした。


 *


「ーーなるほど。じゃあてめえらはその先生ってやつとの戦いに備えて色々とやってたってわけだ」


「……はい。戦うのが目的じゃないんですけど、先生は止まってくれなさそうなので。それで、用意をするのに人手が足りなくて……」


 一通り事情を説明した(王の出自とかのところは話していないが)僕にガンドルマイファさんはふむ、と考え込んだ様子で目を閉じる。


「わかった、そういうことならとりあえず手を貸してやる。その先生とかいうやつがここに来ちまったらこっちの命も危なそうだしな。ただしーー」


「なんだ?条件出すような立場かよ」


 呆れるヒルグラムさんに構わずガンドルマイファさんは続ける。


「作戦考えるのには俺も混ぜろ。聞いたとこ、アルシファードのやつが仕切っているみてえだが、足りねえ。とくに戦いのことに関しちゃまるで知識が足りてねえ」


「あ、あの、それは確かに、そうかも、です……」


 ガンドルマイファさんの言葉に、ここまで黙っていたアナイさんもおずおずと声を上げる。


「多分、ですけど。魔術師って基本的に有利な状況からしか戦いをしないから、その、戦略とかには強くないかも、って……」


「そのとおりだ。その点海賊はちげえ。基本不利だ。その上命がけになる分必死よ。場数もある」


 言われてなるほど、と頷きヒルグラムさんを見上げる。


「んー、俺は構わねえが。俺たち二人でアレ作るのは無理があるしな」


「そう、ですよね……ただ」


 アルシファードさんが戻ってこないことには決められない。好きにしろとは言われたが黙って決めるには気が引けた。


「じゃあ、アルシファードさんの許可が出たら、ということで」


「ああ、わかった」


 ガンドルマイファさんも了承し、部下の人たちもそれに従う。

 そうして、しばらく待って。夜が深まっていよいよアナイさんや僕が体力の限界を感じて来た頃、ヒルグラムさんが毛布を渡してくれた。


「先寝てろよ。アルシファードが帰ってきたら俺が伝えといてやる」


「……わかりました、ありがとうございます」


 好意に甘えて、僕らは眠ることにした。海賊たちを小屋からわざわざ追い出してから、工房を開いて、奥まった部屋のいくつかが寝室になっているのを確かめた僕らは別々の部屋で眠りに着いた。


 そうして王都での二日目が激動の後、終わった。

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