第68話 再会の従者(14)

 顔を上げたアナイさんが王と視線を合わせる。


「王よ、ヒルグラムは王都へ着任する以前にラングと接触しております。そして昨日、王都へ出現したラングと再び接触し重大な情報を聞き出しておりました。しかしその重大さ故に周囲へ助力を乞うことも出来ずにいたのです。居場所のないラングを保護したものの任務の最中はその護衛も難しく。その隙を突かれてラングを拐われたのです」


 アナイさんの声が玉座の間に響く。気づけば彼女の震えも止まっていて、その凛とした雰囲気は別人のようだった。


「ふむ。それで?お前たちのいう重大な情報とは、なにか。王都騎士たるヒルグラム、貴様が報を上げず隠したとなれば余程のものであろうな?」


「まさしく。その情報とはレコンキングス王、貴方様にまつわるものだったのです」


「なに……?であるなら尚更にすぐさま知らせるべき事柄。なぜ隠した」


 王の視線はアナイさんからヒルグラムさんへ移る。ヒルグラムさんは跪いたまま、首を横に振る。


「いいえ、最初に隠しだてしたのは私ではありません。ラングは王都へ出現してすぐに王へお知らせしようと城へ走りました。しかし彼は王城の門番に王へお伝えすべき情報を伝えたにも関わらず追い払われた。私が偶然彼を見つけ、話を聞いたとき確信したのです。この話を王へお伝えすることを恐れるものがいる、と」


「門番とて無能ではない、不要とみえる話であれば追い払いもしよう。それを貴様はなぜそこまで重く受けた。答えよ」


 王の言葉に苛立ちが見えはじめる。そこで、僕が口を開いた。


「それは、僕の話をヒルグラムさんが、真実であると信じたからです。レコンキングス王、あなたへの謀反を企てているものが居ます。それも、とてつもなく強力な力を持ったものが」


「……なるほど、門番が追い払うわけだ。そのような話、日に何度聞くことか」


 玉座の肘掛けを指で叩きながらふぅ、とため息を吐き出すとつまらなそうに言った。


「そのような戯言に踊らされてブラックサンライズに手を出したとあっては王都騎士の恥である。情けない」


「いいえ。信じたのはヒルグラムさんだけじゃありません。あの海賊たちもです」


 そう言うと王は、ゆっくり僕の方を向いた。


「……先程から、随分と好き勝手に口を効く。貴様、礼を知らんと見える」


 怒気の混ざる声に、体が強張る。


(だめだ、まだ動かないと……!)


 空気を吸って腹に力を入れる。結局これを証明しなきゃレコンキングス王は信じてくれない。

 跪く二人の横で。ゆっくりと立ち上がる。そのまま足を前へ踏み出し、赤い絨毯の上へと上がる。


「……ほう。そこまで礼を知らぬのか。或いは知った上での行いか」


「不敬を承知でお願いします。王よ。僕の体に、


 震えを見せないために左手をきつく握る。レコンキングス王は、目を細めて、浅く息を吐く。


「死にたいのなら他の兵にでもやらせる。余の手をわざわざ汚す価値など貴様にない」


 見下ろす視線に、食い下がる。


「いいえ、価値ならばここに!なぜなら僕の体はあなたの魔術ではです!」


 叫ぶ。これ以上に切れる札は今はない。これを信じてもらわなければ、話を進められない。


「ーーいいだろう。慈悲はくれてやる。そこまで抜かしたのだ、少しは芸を見せろよ」


 そう言って、王は立ち上がる。右手を掲げた王はまっすぐ僕の方を見て、呟く。


「ーーラウ・イグハトノイン・ゲオ」


 言葉とともに眩い光が視界を焼く。思わず目を閉じそうになって、それでも必死に目を開く。


(お願いだ、想像どおりであってくれーー!)


 祈る。だって、その想定がもし間違ってたら、間違いなく僕は死ぬ。だからもう、祈るしかなかった。

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