第69話 再会の従者(15)
レコンキングス王の前に行く前夜、牢の中で僕たちはアナイさんを中心にレコンキングス王への対策を考えていた。
「王が問題としているのは海賊に手を出したこと自体より海賊がヒルグラムさんに負けて捕まっていることでしょう。海外への力を誇示する存在があっさり騎士一人に負けたんですから。だから王には海賊が負けたのはとんでもない力を持った外来の者のせい、という話に着地させたいところです」
アナイさんが地面に尖った石で文字を綴っていく。文字は先生に習いはしたが苦手ではある。アナイさんの話を聞きながら頷いていたところで、体が止まった。
「ちょ、ちょっと待ってください。そのとんでもない力を持った外来の者……って、僕ですか!?」
「まあ、そうなりますね。とはいえ話の上でのことで、実際に力を見せる話にならなければそう困ることはない、ですが……」
アナイさんの肩が落ちる。ヒルグラムさんも腕を組んで壁に背を預ける。
「無理、だろうな。レコンキングス王は実力主義に寄ってる。王都騎士の模擬戦とか見に来るくらいだしな。口だけで言っても信用してはもらえないだろう」
そうなるとこの話は無理がある。違う方向から考えたいところだが、アナイさんもヒルグラムさんも難しい顔で悩み込んでいた。
(僕に何か力があれば、良かったのに……)
考えても仕方ない事をつい考える。今までの旅は周囲に支えられてきたことばかりで、自分の力は何もないと改めて痛感する。つい、視線が沈んだ。
「こんなんじゃ、先生をとめることなんて……」
つい、弱音が出る。暗い牢の中に声が響いて消える。二人は何も言わず僕の言葉を聞いていた。先生の圧倒的な力を見てきた僕の感覚は、或いは二人には伝わらないのかもしれないがーー。
「先生の、力……」
そこに、思い至る。
「そうだ……僕の力じゃなくたって……!」
「ラング、さん?」
立ち上がる。そうして、アナイさんの方へ近寄ると手を伸ばす。
「アナイさん、その石貸してもらえませんか?もしかしたら、さっきの話実現できるかも」
「え?ええと、いいですけど……」
アナイさんは困惑気味に僕に石を渡してくれる。そうして、僕はその石を、ゆっくり自分の左手首に押し当てる。深く息を吸い込んで、一気に引き切る。
「な、何やって…ーー!」
アナイさんが慌てて僕の手を掴んで引き剥がす。尖った石の表面はざらついていて、肌くらい簡単に切り裂いてーー
「え……ーー?」
いなかった。傷を追うはずの僕の手首にはなんの跡もない。どころか、僕を傷つけるはずの石の表面が削られたように欠けていた。
「これ、どういう……」
唖然とするアナイさんの言葉を他所に、僕は口角が上がるのを感じていた。胸の鼓動が早打つ。僕の予想は、間違ってなかった。
「……先生の、契約書の力です」
「契約書?あれがなんでお前にそんな力を……」
先生の力のことを考えたとき、思い出したのだ。契約書で転移して帰還していたことを。あれにそんな力がある以上もしかしたら文面にもなんらかの力が働いているんじゃないかと考えたのだ。
「契約書の文面にあったんです。『いかなるものも従者を傷つけてはならない』……だからーー」
結果は予想通り。僕自身ですら僕に傷は付けられない。この力がどこまで強力かはわからないが、試す価値は十分あった。
「……アナイさん、作戦を練りましょう。これがあれば或いはーー」
そうして、作戦を練った僕たちは玉座でそれを実行した。
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