第45話 宣託の導師(3)
先生が町で挨拶回りの最後に来たのは、僕の家だった。客を選ばぬようにと大きく作ってある入り口の扉を開けて、先生は中へ入る。先生がここを最後に選んだのは多分、一番時間がかかるからなんだろう。僕の両親へは話しておくべきことも多いだろうから。
「お待ちしてましたよ、先生」
こちらから声をかける前に、厨房から父が顔を出す。二階から母も下りてきて、店の入り口に閉店の看板をかけに行った。部屋の真ん中に置いてある机に父と母、先生と僕が並んで腰掛ける。
「遅くなって申し訳ない、町の中を回るのに時間がかかってしまって。私のことはラングくんからもう聞いているのでしょう」
先生がそう言うと両親は頷いて、先生もやはりと頷く。事前に話していたことに先生がどう思っているのかは伺えなくて、なんとなく気まずい。
「事前にお話できず申し訳ないと思っていますが、魔術を扱っている特性上先が読めないところが多いので。今回はとある魔術が完成したことで旅立ちの用意が出来た、といったところだったのです」
「なるほど……先生の事情は私達には計り知れないところが多いですから、そうおっしゃるならそうなのでしょう。ですから町に残って欲しいとは言えません。ですがーー」
父の言葉が途切れて、みんなの視線が僕に向く。なにも言えず、思わず下を向いた。
「ラングのことだけは、どうにかしてやりたいのです。今は才能も見出せず見習いにもなれない。この先どう生きてゆくべきなのか、私どもには全く検討も着かず……」
やはり両親も不安ではあったのだと、はじめて
「ご安心を。ラングくんは既にこの先の事を考えています、そしてこの先の取っ掛かりも見つけつつある。私の教えるべきことはもう殆どが彼の中にあります。あとは、ラングくん自身が見つけていくことです」
「え……先生……!?」
驚いた。ただ驚いた。そんな事を言われてもまるでピンとこない。
「別に口からでまかせじゃないぞ。お前はもう旅をすることで様々な知見を得た。その結果進む道を自分で考えている。そこに至ればもう私の出来ることなんかほとんどないんだ」
言われて答えに詰まる。それはそうかもしれないが、なんだかこう、突然見捨てられたような気持ちになる。
「し、しかし先生……」
「ご心配は尤もです。なので、私自身の目で彼の力を、直接見定めるために旅に同行してもらいたいと思っています。十四日程度ですが、学校に居るときでは見定められないものも見えてくるでしょう」
先生の言葉に、両親は不安の色を見せたが、やがて僕の方を見て口を開いた。
「ラング、お前は……どうしたいんだ」
「……僕は、先生についていくよ。王都まで行って、なにが出来るか見てもらう。それでーーやりたいことを見つけてくる」
僕の目を見つめる父から、目を逸らさず話す。父は一度頷くと、先生に向き直った。
「先生、どうかラングをよろしくお願いします」
それだけ聞くと先生はもちろん、と答えて立ち上がる。続いて立った両親に合わせて慌てて立ち上がる。そのまま店を出ようとして、自室で支度をして来るよう言われて慌てて踵を返す。
先生の挨拶回りはこれで終わりだ。いよいよ、旅が始まる。先生との最後の時間が。
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