第46話 宣託の導師(4)
挨拶を終えた先生は、商店街での買い物を僕に任せると一旦学校に戻った。旅の用意ももちろんだが先生の場合引っ越しを兼ねるから荷物も多いのだろう。
(移動の方法、荷物の量を見ないと決められないよな……)
食品や着替えなんかを用意しつつ、そんな事を考えた。ヒルグラムさんも引っ越しを兼ねていたがあの人の荷物はそれでも少なかった。先生が持つ家具や服の量はわからないが、ヒルグラムさんより少ない、なんてこともないだろう。と想定すれば、ヒルドラコなり荷車を引ける馬車なりを使う必要があるかもしれない。
(でもそんなお金ないしな……)
肩を落とす。先生もお金ないって話だったし、僕もアルシファードさんとの旅では赤字だった。
「待たせたな、買い物は済んだか?」
蓄えもないし、どうしたものかと頭を捻っていると後ろから先生の声が聞こえた。振り返ってその姿を見て、更に首を傾げる。
「……先生、あの、お荷物はどこに」
「ん?持っているだろう、ほら」
先生は不思議そうな顔をして肩に担いだ布袋を差す。その先生の背後にはなにもなく、通行人が不思議そうにこちらを見ていた。
思考が固まる。いや、待て。そういうことか。
「先生、アルシファードさんとおんなじように収納魔術が使えるんですか。さすがーー」
「いや、使えないが」
使えない。なるほどではどういうことだろう。荷物を置いてきたということでもないだろうし、もしかして売り払ったのだろうか。
「なにを難しい顔をしているんだお前は。私の荷物はこれだけだ、少し多いぐらいかもしれんが」
「いやそんなわけ無いですよね!?」
つい大声が出た。そんな馬鹿な。どういう生活をしたらそれだけで生活出来るのか。
「ない、と言われてもな。私にもないんだ。これ以上の荷物は持っていないし必要もない。この魔術衣の下に魔術書は持ってるがそれくらいだ」
言いながら先生は見慣れない赤いローブの前を捲って、懐に止めてある三冊の本を僕に見せる。
「ほ、ほんとに荷物それだけ、なんですか?着替え、とかは……?」
「袋に入ってる。といっても魔術で流用が効くからほとんど要らないが、そこのあたりは後で話す。人前で魔術の話はするもんじゃないからな」
言われてはっとして、口を噤む。先生の言うとおりだ。アルシファードさんに習ったとおり魔術師が他の魔術師を敵視しているというのなら、人の耳に届くところで魔術の話は避けなければならない。この町に定住している人に魔術師が居ないとしても、常に旅人の往来がある以上絶対ではない。
「で、ラング。お前のほうの用意は済んだのか?」
「あ、はい。買い物は終わってます。あとは移動の手段をどうするかで……」
先生は頷くと、布袋を担ぎ直して眼鏡をくい、と持ち上げる。
「よし、それなら早々に出発するぞ。移動はとりあえずのところ徒歩だ。今日のところマウリアを通る隊商も居ない」
「え、あ、はい!」
言うなり歩き出す先生に慌ててついていく。先生は振り向くことなくマウリアの西門をくぐって外に出る。山へと続く道を歩く足取りにも重さはなく。ひどくあっさりと、先生と僕はマウリアから旅立った。
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